さまよえるオランダ人
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さまよえるオランダ人 - Brilliant Classics提供のYouTubeアートトラック ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(オランダ人)、マリアンネ・シェッヒ(ゼンタ)、ゴットロープ・フリック(ダラント)、ルドルフ・ショック(エリック)、フリッツ・ヴンダーリヒ(舵手)、ジークリンデ・ヴァーグナー(マリー) フランツ・コンヴィチュニー指揮シュターツカペレ・ベルリン、ベルリン国立歌劇場合唱団 | |
映像 | |
さまよえるオランダ人 - ベルゲン国立歌劇場公式YouTube Iain Paterson(オランダ人)、Elisabeth Teige(ゼンタ)、Eric Halfvarson(ダラント)、Sergey Skorokhodov(エリック)、Bror Magnus Tødenes(舵手)、Tuija Knihtilä(マリー) 金恩宣指揮ベルゲン・フィルハーモニー管弦楽団、エドヴァルド・グリーグ合唱団 |
『さまよえるオランダ人』(さまよえるオランダじん、ドイツ語: Der fliegende Holländer)は、リヒャルト・ワーグナー作曲のオペラ。
概要
[編集]神罰によって、この世と煉獄の間を彷徨い続けているオランダ人の幽霊船があり、喜望峰近海で目撃されるという伝説(フライング・ダッチマン)を元にした、ドイツの詩人ハインリヒ・ハイネの『フォン・シュナーベレヴォプスキー氏の回想記』(Aus den Memoiren des Herren von Schnabelewopski、1834年)にワーグナーが着想を得て再構成し、1842年に完成し、1843年に初演された。
登場人物
[編集]- オランダ人 - バリトン
- ダラント船長 - バス
- ゼンタ(ダラントの娘) - ソプラノ
- エリック(ゼンタの恋人) - テノール
- 舵手(ダラントの部下の水夫) - テノール
- マリー(ゼンタの乳母) - アルト
楽器編成
[編集]フルート2、ピッコロ、オーボエ2(2番はイングリュッシュ・ホルン持ち替え)、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、チューバ(作曲当初はオフィクレイド)、ティンパニ1対、風音器、タムタム、ハープ、弦五部
バンダ:ホルン6、ピッコロ3
異稿および1幕/3幕形式
[編集]作曲者の欲した形式は1幕形式であったが、当時の未熟な舞台技術によって止むを得ず3幕構成にさせられた。なお、現行の楽譜に2つの稿があり、第1稿が荒々しいオーケストレーションの救済のない形(1841年版)、第2稿が幾分穏やかなオーケストレーションで救済のある形(1880年版)である。それぞれの稿の違う部分は、主に序曲の最後と終幕のフィナーレのオーケストレーションである。ウィーン国立歌劇場では、前演出までは第1幕の後に休憩を入れたが、今では完全に1幕形式上演である。現在のバイロイトを初めとして、ほとんどの歌劇場も1幕形式で上演される。
演奏時間
[編集]1幕形式の場合で約2時間10分かかる。救済が無い初稿は、救済がある最終稿よりも2分から3分短い。ワーグナーの全オペラ作品では一番短い。3幕版は今日では実際の上演が珍しいが、各幕50分、50分、30分の割合。第1幕の後で1回だけ休憩を取る場合もある。
あらすじ
[編集]第1幕(第1ビルト)
[編集]舞台はノルウェーのフィヨルドに面した港町。ダラントは一時避難で自らの家のあるここに投錨する。すると遠くから、黒いマストに真紅の帆を立てた幽霊船が現れる。幽霊船の船長のオランダ人は「呪いを受け7年に一度上陸できるが、乙女の愛を受けなければ呪いは解かれず、死ぬことも許されずに永遠に海をさまよわなければならぬ」と嘆く。
ダラントはオランダ人から財宝を渡され、娘ゼンタと引き会わすことを約束してしまう。
第2幕(第2ビルト)
[編集]ゼンタはオランダ人と出会い、その不幸に心打たれ、救いたいと思う。ゼンタはオランダ人の肖像を見ては思いを募らすばかりである。しかし、ゼンタはエリックという青年に愛されている。
ゼンタは父とオランダ人に説得され、オランダ人につき従うことを約束する。
第3幕(第3ビルト)
[編集]第1幕の港町に再びオランダ人の幽霊船が現れる。オランダ人に会おうとするゼンタ。それを引き止めるエリック。オランダ人はエリックのゼンタへの愛を見て「裏切られた」と言い、帆をはり去っていく。ゼンタは自らの純愛を岩の上から叫び、貞節を証明するために海に身を投じる。ゼンタの純愛を得た幽霊船は呪いを解かれ、死を得て沈没する。そしてオランダ人とゼンタは浄化され昇天していく。
備考
[編集]- このオペラのフランス語版の表題"Le Vaisseau fantôme"がまさしく幽霊船を指すこともあって、古くはこのオペラの題名を『幽霊船』と日本語訳した例も見受けられる(例えば[1]など)。「さまよえるオランダ人」という語も、幽霊船の船長であるオランダ人を指すと同時に、その幽霊船自体のことも指す。しかしこのオペラの場合、劇中の最後に船長自身が「人は私をさまよえるオランダ人と呼ぶ」("den fliegenden Holländer nennt man mich"[2])と言っているため、ドイツ語原題に関しては「さまよえるオランダ人」が妥当な日本語訳である。
- 英語訳題の「フライング・ダッチマン」は、オランダ系やドイツ系の著名人のニックネームとして英語圏でしばしば用いられる。具体例はフライング・ダッチマン (曖昧さ回避)の項を参照。
- この物語をモチーフにして、設定を現代に移して後日談を描いた映画がある。1951年のイギリス映画『パンドラ』で、エヴァ・ガードナーとジェームズ・メイスンが出演した。
- パウル・ヒンデミットによる弦楽四重奏のための『朝7時に湯治場で二流のオーケストラによって初見で演奏された「さまよえるオランダ人」序曲』というパロディ作品がある。
脚注
[編集]- ^ 皆川正禧 訳「幽霊船」『ワグネル物語』内外出版協会、1908年(明治41年)、37-78頁。NDLJP:877307/26。(本書に翻訳元書籍の書誌情報は記されていないが、別書籍に掲載された本書の広告によれば翻訳元書籍名は「ストーリース・フロム・ワグナー」とあり、おそらく1905年初版のJoseph Walker McSpadden著『Stories from Wagner』が翻訳元。コモンズにアップロードされた同書の1914年版のPDF275ページを参照。)
- ^ “Der Fliegende Hollander” (PDF). Naxos.com. p. 11. 2023年10月8日閲覧。
関連項目
[編集]- パンドラ (1951年の映画) - 「さまよえるオランダ人」をモチーフにした映画