アーサー・ヘイスティングズ
アーサー・ヘイスティングズ(Arthur Hastings)は、アガサ・クリスティの小説「エルキュール・ポアロ」シリーズに登場する人物。
ポアロの友人。イートン校出身で第一次世界大戦の戦地に赴いたが、負傷により予備役に退いている。階級は大尉[1]。軍務に就く前まではロイド保険協会で勤務していた。ポアロがイギリスで最初に作った友人である。
「シャーロック・ホームズシリーズ」におけるジョン・H・ワトスンの役回りにあたり、「ポアロ」シリーズの事件の記録者を務め、彼が登場する話では基本的に彼の一人称で記述されている。
人物
[編集]生真面目で正義感が強く、女性には優しい典型的な英国紳士である。女性、特に鳶色の髪の者に対してはロマンを抱いており、必要以上に感情移入して事件を混乱させることもしばしばある。そのような要素も加わって、推理に関しては相当な迷走ぶりを見せ、度々ポアロに呆れられている。しかし時には事件の表層面に惑わされず、本人が気づかないままに本質を見抜き、事件の核心に迫る何気ない一言を発することがあり、これがポアロの事件解決に貢献したことが何度もある。看護師をしている従姉妹がいる。
妻は『ゴルフ場殺人事件』で出会った女性、アクロバット女優のダルシー・デュヴィーン(愛称シンデレラ)。結婚後はアルゼンチンに移住し、妻の助力もあって牧場の経営で成功を収めた。このため『ゴルフ場殺人事件』以降の作品ではアルゼンチンに永住したことになっており、イギリスへ一時帰国したという設定で6つの長編に登場するのみとなっている(詳しくは登場作品の節を参照のこと。なお短編『ポアロ登場』の発表は『ゴルフ場』より後だが、物語の時系列上は『ゴルフ場』以前になる)。
著名なITV制作の映像化作品『名探偵ポワロ』では、原作といくつか設定の相違がみられる。ドラマでの妻は、原作でダルシーの姉として登場した歌手のイザベラ・デュヴィーンである。また、鉄道への投資に失敗したため破産し、イギリスに帰国して再びポアロの助手を務める。
登場作品
[編集]長編
[編集]- 1920年 スタイルズ荘の怪事件(事件当時30歳)
- 1923年 ゴルフ場殺人事件
- 1927年 ビッグ4
- 1932年 邪悪の家
- 1933年 エッジウェア卿の死
- 1936年 ABC殺人事件
- 1937年 もの言えぬ証人
- 1975年 カーテン
短編
[編集]- 1924年 ポアロ登場
- 〈西洋の星〉盗難事件
- マースドン荘の悲劇
- 安アパート事件
- 狩人荘の怪事件
- 百万ドル債券盗難事件
- エジプト墳墓の謎
- グランド・メトロポリタンの宝石盗難事件
- 首相誘拐事件
- ミスタ・ダヴンハイムの失踪
- イタリア貴族殺害事件
- 謎の遺言書
- ヴェールをかけた女
- 消えた廃坑
- チョコレートの箱
- 1939年 黄色いアイリス
- バグダッドの大櫃の謎
- 1950年 愛の探偵たち
- ジェニー・ウェイバリーの冒険
- 1951年 教会で死んだ男
- 戦勝記念舞踏会事件
- 潜水艦の設計図
- クラブのキング
- マーケット・ベイジングの怪事件
- 二重の手がかり
- 呪われた相続人
- コーンウォールの毒殺事件
- プリマス行き急行列車
- 料理人の失踪
- 二重の罪
戯曲
[編集]- 1934年 ブラック・コーヒー
- チャールズ・オズボーンによって小説化された小説版にも登場する。
映像作品
[編集]- 1985年にアメリカで製作されたテレビ映画『名探偵ポワロ/エッジウェア卿殺人事件』では、ジョナサン・セシルがヘイスティングズを演じた。翌年に製作された『名探偵ポワロ/死者のあやまち』と『名探偵ポワロ/三幕の殺人』にも同役で出演している。
- 1989年から2013年にかけてイギリスで製作されたテレビドラマ『名探偵ポワロ』では、ヒュー・フレイザーがヘイスティングズを演じた。日本語吹替は、第6シリーズまでは富山敬が担当。富山の没後に製作されたシリーズでは安原義人が引き継いでいる。
他の作家による作品
[編集]- 名探偵に乾杯
- 西村京太郎の推理小説。『名探偵なんか怖くない』に始まる名探偵シリーズの第4作。第3作までは、明智小五郎、メグレ警視、エルキュール・ポワロ、エラリー・クイーンの4人が探偵役で登場する。第4作は『カーテン』以後になるため、ポワロは登場しない。その代わりに、ヘイスティングズが登場する。また、ポワロの息子を名乗る人物が登場し、『カーテン』の結末に異を唱える。
脚注
[編集]- ^ 『スタイルズ荘の怪事件』のテレビドラマ版では中尉。