オナセムノゲンアベパルボベク

オナセムノゲンアベパルボベク
臨床データ
販売名 Zolgensma
ライセンス US FDA:リンク
法的規制
薬物動態データ
作用持続時間生涯 (?)
識別
CAS番号
1922968-73-7
PubChem SID: 381128165
KEGG D11559
別名 AVXS-101
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オナセムノゲン アベパルボベク(Onasemnogene abeparvovec)は、脊髄性筋萎縮症遺伝子治療薬である[1][2][3][4]。かつては、AVXS-101として知られていた。商品名はゾルゲンスマ(Zolgensma)。

概要

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脊髄性筋萎縮症(SMA)は、SMN1遺伝子に変異が起こり、運動ニューロンの生存に不可欠なSMNタンパク質の量が減ることによる神経筋疾患である[1][5]。必要なたんぱく質の得られない脊髄性筋萎縮症は、筋肉の萎縮と筋力の低下をきたし、発症が早いほど重篤になりやすく、生後6カ月までに発症する「I型(乳児型)」では、患者の9割以上が生後20カ月までに死亡するか、人工呼吸器なしには生存できない状態となる難病である[1]

オナセムノゲン アベパルボベク(「ゾルゲンスマ」)は、元のウイルスDNAを除去し、SMN1導入遺伝子プロモーターを含むAAV9ウイルスカプシドから構成されるバイオ医薬品である[1][5]。対象は2歳未満で点滴静脈注射または脊髄内投与を行う[5]。再投与はおこなわない[5]。投与すると、AAV9のベクターSMN1導入遺伝子を細胞核に運び、そこで導入遺伝子がSMNタンパク質をエンコードし、疾患の根本原因に対処して生命予後と運動機能を改善する[1][5]。投与されたSMN1遺伝子の運動ニューロンは細胞分裂しないため、長期間安定し、1回の投与で生涯効果が続くと考えられている[5][6]。I型の脊髄性筋委縮症患者15人を対象に行われた臨床試験では、投与後2年経過しても全員が人工呼吸器による永続的な呼吸補助なしに生存しており、半数以上が支えなしで座れるようになったり、寝返りを打てるようになるなどの運動改善がみられたばかりでなく、一部の患者は自力で立ったり、歩行できる治験者もあった[1]

フランスの研究者の発見[7]を元にして、アメリカ合衆国生物工学企業でノバルティスの子会社AveXis社[8]が開発した。製造コストの90%を占める精製工程はスロベニアのBIA Separations社が開発した[9]。アメリカ合衆国では2歳以下の子供の静脈内投与製剤として2019年5月に承認された[10]。1回の投与の費用は212.5万ドルで、2019年時点で最も高価な薬品となった[11]

日本では2020年2月26日に厚生労働省の専門部会、中央社会保険医療協議会(中医協)総会が国内での製造販売を了承[12]、同年5月13日に1回の投与の費用として1億6,707万7,222円で公的医療保険を適用する方針を決めた[1][5][注釈 1]。日本国内で投与される薬としては、これまで最高額だった白血病治療薬「キムリア」の1回3,349万円を大きく上回り、国内最高額となる[5][注釈 2]。また、先駆け審査指定制度の対象品目は申請から6カ月程度で承認されるのが通常であるが、「ゾルゲンスマ」の場合はその倍以上の1年4カ月の時間を要した[5][注釈 3]

脚注

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注釈

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  1. ^ 脊髄性筋萎縮症(SMA)では、2019年7月にバイオジェン・ジャパンの「スピンラザ」(ヌシネルセンナトリウム)が承認されている。「ゾルゲンスマ」の薬価はアンチセンス核酸医薬の「スピンラザ」を比較薬とする類似薬効比較方式で算定された[1][5]。すなわち、「ゾルゲンスマ」を使うことで「スピンラザ」の投与が不要になる期間を計算し、その期間に投与されるはずだった「スピンラザ」をベースに薬価を算出し、正常遺伝子を導入するという新規の作用機序を持つことや1回の治療で長期間の有効性が認められることなどが評価され、有用性加算がなされ、先駆け審査指定制度加算も加わって、結果としてスピンラザ11本分の価格に60パーセントが上乗せされた価格となった[1][5]
  2. ^ 公的保険が適用され、医療費の自己負担に上限を設ける高額療養費制度や乳幼児への地方公共団体の助成もあるので、実際に患者が支払う額はそれほど高額にならないとみられる。その分保険や公費が使われるが、使うと予想されるのは1年間に25人程度であり、1回使えばよい薬なので[5]、予測売上高(42億円)は、40兆円を超える日本の医療費全体からみれば必ずしも大きな数字とはいえない[1]。ヌシネルセンナトリウム(商品名「スピンラザ」)の市場規模119億円と比較しても小さい[1][5]
  3. ^ 医薬品医療機器総合機構(PMDA)が公表した審査報告書では、先駆け審査指定制度で審査期間を短縮するためのプロセスをノバルティス側が無視していたことなどが示されている[5]厚生労働大臣の諮問機関である中央社会保険医療協議会の委員からは「命に関わることなので、患者・家族は本当に薬を待っていたと思う。企業側の不手際で遅れたにもかかわらず、加算が適用されるのは理解できない」「先駆け審査指定制度を使っていないのに加算がつくのは極めて問題だ」といった指摘があったという[5]。一方、「ゾルゲンスマ」の画期性や有効性を評価する声が多く、「薬価そのものを問題視する意見はほとんど出なかった」という報道もある[1]。新薬開発と財政維持のどちらを優先するかは社会的課題であり、医療保険財政への影響を抑制しつつ、製薬企業のイノベーションを適切に評価し、必要な薬を必要な患者に届けていくための新たな制度づくりの検討が必要となっている[1]

出典

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  1. ^ a b c d e f g h i j k l m 1人あたり約1億7000万円!…驚愕の高額新薬「ゾルゲンスマ」は財政を破壊するのか”. エコノミストOnline (2020年8月14日). 2022年1月8日閲覧。
  2. ^ Onasemnogene abeparvovec - AveXis - AdisInsight” (英語). adisinsight.springer.com. 2018年10月6日閲覧。
  3. ^ KEGG DRUG: オナセムノゲンアベパルボベック”. 2020年2月27日閲覧。
  4. ^ ゾルゲンスマ 添付文書”. 2024年9月6日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 初の「億超え新薬」ゾルゲンスマの薬価はどう決まったか”. Answers News (2020年5月20日). 2022年1月8日閲覧。
  6. ^ Novartis announces FDA filing acceptance and Priority Review of AVXS-101, a one-time treatment designed to address the genetic root cause of SMA Type 1” (英語). Novartis. 2018年12月4日閲覧。
  7. ^ AveXis receives FDA approval for ZolgensmaR, the first gene therapy for paediatric patients with SMA” (英語). SMA Europe (2015年5月25日). 2019年5月25日閲覧。
  8. ^ Novartis successfully completes acquisition of AveXis, Inc.” (英語). Novartis. 2018年10月6日閲覧。
  9. ^ “Slovenian Firm Involved in First Gene Therapy for Spinal Muscular Atrophy”. Total Slovenia News. (3 June 2019). https://www.total-slovenia-news.com/made-in-slovenia/3822-slovenian-firm-involved-in-first-gene-therapy-for-spinal-muscular-atrophy 
  10. ^ FDA approves innovative gene therapy to treat pediatric patients with spinal muscular atrophy, a rare disease and leading genetic cause of infant mortality” (英語). FDA (2019年5月24日). 2019年5月24日閲覧。
  11. ^ “$2.1m Novartis gene therapy to become world's most expensive drug” (英語). The Guardian. Reuters (London). (2019年5月25日). ISSN 0261-3077. https://www.theguardian.com/science/2019/may/25/21m-novartis-gene-therapy-to-become-worlds-most-expensive-drug 2019年5月25日閲覧。 
  12. ^ “2億円、「世界一高い薬」承認へ 脊髄性筋萎縮症の治療薬”. 47NEWS. 共同通信. (2020年2月26日). https://www.47news.jp/news/4558131.html 2020年2月27日閲覧。 

関連項目

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