マリウス氏族

マリウス氏族を名族へと育てた執政官ガイウス・マリウスの胸像(鼻部の彫刻が欠損している)

マリウス氏族Marii)とは、古代ローマに存在した氏族で、平民(プレブス)に属する氏族の一つ。

概要

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ガイウス・マリウスアルピヌムの出身で、マリウス氏族はキケロトゥッリウス氏族グラティディウス氏族と共にその街を支配していたエクィテスだったという[1]。マリウスはローマ政界へ転じキンブリ・テウトニ戦争での歴史的勝利、7度の執政官当選などの業績を達成した[2]。その後も「大将軍の末裔」として帝政期にも多くの人材を輩出した。

起源

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マリウス氏族の起源は古代ローマを作り出したラテン人と同じイタリック族の一派オスク人の名前に由来すると考えられ、やはりイタリック族の一派であるサビニ人サベッリア人に起源を持つとも言われる[3][2]

マリウス氏族はプラエノーメン(個人名)としてマルクスMarcus)、ガイウスGaius)、ルキウスLucius)、クィントゥスQuintus)、セクトゥスSextus)、プブリウスPublius)、ティトゥスTitus)などを好んで用いる傾向があった[2]。マリウス氏族はコグノーメン(家族名)を用いて氏族内の分家を開く機会を持たなかったが、共和政末期から次第に複数の系統に分かれる動きが見られ、マリウス氏族カピト家(Capito)、及びトログス家(Trogus)が硬貨に刻まれた名から確認できる[2]

マリウス氏族の人物

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共和政期

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帝政期

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  • ガイウス
    • ガイウス・マリウス・トログス(Gaius Marius C. f. Trogus):帝政初期の元老院議員。アウグストゥス帝から執政官に叙任された記録が残る[15]
  • ウルビヌムのティトゥス・マリウス:「アウグストゥス帝の下で、一介の兵士から元老院議員にまで栄達した」とされる[16]
  • セクストゥス・マリウス(Sextus Marius, 西暦33年の人物):ティベリウス帝の暴政を伝えるタキトゥスの歴史書に記録される[17][18]
  • プブリウス・マリウス・ケルスス(Publius Marius Celsus):西暦62年と西暦69年の執政官。
  • マリウス・マトゥルス(Marius Maturus):オトー帝とウィテッリウス帝の内乱時、アルペス・マリティマエ総督代理を務めていた記録が残る[19]
  • カイウス・マリウス・マルケルス・クルウィウス・ルフス(C. Marius Marcellus Cluvius Rufus):西暦80年の補充執政官。
  • マルクス・プリスクス(Marius Priscus):トラヤヌス帝時代の元老院議員。西暦100年にアフリカ総督に任命される[20]
  • マリウス・セクンドゥス(Marius Secundus):マクリヌス帝時代の貴族。フェニキア総督、エジプト総督を歴任する[21]
  • ルキウス・マリウス・マキシムス(Lucius Marius Maximus):西暦223年、西暦232年の執政官[2]
  • マリウス・マキシムス(Marius Maximus):帝政後期の歴史家[22][23][24][25][26]
  • ルキウス・マリウス・ペルペトゥス(Lucius Marius Perpetuus):西暦237年の執政官。
  • ガイウス・マリウス・ウィクトリヌス(Gaius Marius Victorinus):西暦4世紀の文筆家。
  • マリウス・メルカトル(Marius Mercator):西暦5世紀の神学者。
  • マリウス・プロティウス・サケルドス(Marius Plotius Sacerdos):西暦5世紀から6世紀頃の文筆家。

関連項目

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出典

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  1. ^ ハビヒト, p. 25.
  2. ^ a b c d e Dictionary of Greek and Roman Biography and Mythology, William Smith, Editor.
  3. ^ George Davis Chase, "The Origin of Roman Praenomina", in Harvard Studies in Classical Philology, vol. VIII (1897).
  4. ^ MRR1, p. 589.
  5. ^ MRR2, p. 251.
  6. ^ a b MRR2, p. 445.
  7. ^ アウルス・ゲッリウス, Noctes Atticae, x. 3.
  8. ^ Marcus Tullius Cicero, In Verrem, v. 16.
  9. ^ Marcus Tullius Cicero, Epistulae ad Familiares, vii. 1-4, Epistulae ad Quintum Fratrem, ii. 10.
  10. ^ MRR2, p. 174.
  11. ^ Valerius Maximus, 有名言行録,, ii. 8. § 1.
  12. ^ Quintus Asconius Pedianus, in Scauro, p. 19, ed. Orelli.
  13. ^ Marcus Tullius Cicero, Epistulae ad Familiares, ii. 17.
  14. ^ Marcus Tullius Cicero, Epistulae ad Familiares, xii. 15.
  15. ^ Joseph Hilarius Eckhel, Doctrina Numorum Veterum, vol. v. p. 250.
  16. ^ Valerius Maximus, 有名言行録, vii. 8. § 6.
  17. ^ Publius Cornelius Tacitus, Annales, iv. 36, vi. 19.
  18. ^ Lucius Cassius Dio Cocceianus, Roman History, lviii. 22.
  19. ^ Publius Cornelius Tacitus, Historiae, ii. 12, 13, iii. 42, 43.
  20. ^ Gaius Plinius Caecilius Secundus, Epistulae, ii, 11, 12.
  21. ^ Lucius Cassius Dio Cocceianus, Roman History, lxxviii. 35.
  22. ^ Flavius Vopiscus, Firm., 2.
  23. ^ Aelius Spartianus, Hadrian, 2, Geta, 2, Septimius Severus, 15, Elagabalus, 11.
  24. ^ Aelius Lampridius, Alexander Severus, 5, 30, 65, Commodus 13, 15.
  25. ^ Vulcatius Gallicanus, Avidius Cassius, 6, 9.
  26. ^ Julius Capitolinus, Clodius Albinus, 3, 9, 12.

参考文献

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  • T. R. S. Broughton (1951, 1986). The Magistrates of the Roman Republic Vol.1. American Philological Association 
  • T. R. S. Broughton (1952). The Magistrates of the Roman Republic Vol.2. American Philological Association 
  • クリスチャン・ハビヒト 著、長谷川博隆 訳『政治家 キケロ』岩波書店、1997年。