モスコビアン

地質時代 - 顕生代[* 1][* 2]
累代 基底年代
Mya[* 3]
顕生代 新生代 第四紀 2.58
新第三紀 23.03
古第三紀 66
中生代 白亜紀 145
ジュラ紀 201.3
三畳紀 251.902
古生代 ペルム紀 298.9
石炭紀 358.9
デボン紀 419.2
シルル紀 443.8
オルドビス紀 485.4
カンブリア紀 541
原生代 2500
太古代[* 4] 4000
冥王代 4600
  1. ^ 基底年代の数値では、この表と本文中の記述では、異なる出典によるため違う場合もある。
  2. ^ 基底年代の更新履歴
  3. ^ 百万年前
  4. ^ 「始生代」の新名称、日本地質学会が2018年7月に改訂

モスコビアン: Moscovian)は、国際層序委員会によって定められた地質学用語である、地質時代名の一つ。3億1520万年前(誤差20万年)から3億700万年前(誤差10万年)にあたる、石炭紀ペンシルバニアン亜紀英語版(後期石炭紀)を三分した中期である。前の期は後期石炭紀前期バシキーリアン、続く期は後期石炭紀後期の前期カシモビアン[1]。模式地はロシアのモスクワ盆地に位置する[2]

層序学的定義

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モスコビアンは1902年にド・ラバランが命名した。モスクワ盆地ではモスコビアンは厚さ約180メートルの泥灰土質白色石灰岩で、Spirifer mosquensisFusulina cylindrica を特徴とし、この他にフズリナの Staffella 属も産出する。サマラベンドではモスクワ盆地に存在しない Wedekindellina 属に代表される上部を含めて約300メートルに達し、基底は Stafella antiqua に富み、その他の大型フズリナは産出しない[3]

モスコビアンの基底はコノドントの種 Declinognathodus donetzianus英語版Idiognathoides postsulcatus英語版 の初出現[4]あるいはフズリナAljutovella aljutovica の初出現[5]に近い。フズリナの種は地域ごとに異なるため、世界的な対応に使うことはできない。2020年4月時点でモスコビアンの国際標準模式層断面及び地点(GSSP)は定められていない。2008年にはコノドントの種 Diplognathodus ellesmerensis英語版 の初出現がGSSPの候補として提唱されたが、同種の化石が希少であること、その進化関係が明らかにされていないこと、産出した化石の大半が幼体のようであることが懸念されている[6]

環境

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日本山口県に分布する秋吉石灰岩において、後期石炭紀前期ペンシルバニアン亜紀(バシキーリアン)から前期モスコビアンまで繁栄していた温暖海域の造礁生物である普通海綿綱 chaetetids は、後期モスコビアンで急激に衰退した。当時の地球の寒冷化が進行していたこと、そして造礁生物群集がそれを受けて変遷しつつあったことが示唆されている[7]。なおモスコビアンまでにゴンドワナ氷床の拡大による気候の寒冷化は始まっていたが、上記の通り前期モスコビアンまで温暖海域の生物が繁栄していたことから、秋吉海山の位置していたパンサラッサ海パンゲア大陸辺縁の低緯度地域よりも遅れてその影響を受けたことが示唆されている[8]

また、バシキーリアンからモスコビアンにかけてはパンサラッサ海でスーパープルームに起因する火山活動が起きており、北部秩父帯の緑色岩が形成された。これは火山活動を熱源とする湧昇流を起こし、後の秋吉帯を形成する浅瀬に豊富な栄養塩をもたらしていたと考えられている。この類推は、秋吉帯の礁中核の石灰岩でP2O5含有量が高く、そして二次的な沈着や続成作用による含有量増加の可能性が低いことから導かれた[9]

日本において

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兵庫県中部篠山地域に分布する丹波帯畑山セクションには層厚2.6メートルのチャートが露出しており、モスコビアンを示すコノドント Mesogondlella clarki が産出した。畑山セクションの古地磁気層序はカイアマ超逆磁極期に対比される可能性のある逆磁極期を示すほか、当時は誤差が大きいものの南半球の低緯度地域で堆積したことが示唆されている[10]

山口県美祢市大嶺町(当時は大嶺村)の頁岩から得られた石灰岩からはフズリナの Chatetes 属や属種不明の四射サンゴが産出し、1939年時点でモスコビアン階と判断された[11]。ここに分布する秋吉帯石灰岩のバシキーリアン階 - 下部モスコビアン階からは、微生物由来と考えられる微小質方解石紅藻類とされる ungdarellids が互いに層をなして成長した粒子が産出している。ungdarellids はこの時代のバインドストーン(生物の遺骸を含む炭酸カルシウムの岩石の一種)の構成成分としても多産するため、粒子はその時代の主要な被覆性造礁生物を反映していると考えられる[12]

脚注

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出典

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  1. ^ INTERNATIONAL CHRONOSTRATIGRAPHIC CHART(国際年代層序表)”. 日本地質学会. 2020年4月14日閲覧。
  2. ^ 地質調査総合センター研究資料集 No.486 地質図─地質用語(TS図案:2008)”. 地質調査総合センター. p. 14. 2020年4月14日閲覧。
  3. ^ 池邊展生「模式發達地に於ける二疊系の分層と對比」『地学雑誌』第52巻第11号、東京地学協会、1940年11月15日、519-521頁、doi:10.5026/jgeography.52.519 閲覧は自由
  4. ^ Nemyrovska, T.I (1999). “Bashkirian conodonts of the Donets Basin”. Ukraine. Scr. Geol 119: 1–115. 
  5. ^ Solovieva, M.N (1986). “Zonal fusulinid scale of the Moscovian Stage based on a revision of the type sections of intrastage subdivisions”. Vopr. Mikropaleontol. 
  6. ^ Groves; et al. (2008年). Task Group to establish the Bashkirian-Moscovian boundary (PDF) (Report). 中国科学院南京地質古生物研究所. 2011年7月7日時点のオリジナル (PDF)よりアーカイブ。
  7. ^ 中澤努、上野勝美「秋吉帯石炭―ペルム紀石灰岩における造礁生物としての海綿類の消長」『日本地質学会学術大会講演要旨 第122年学術大会(2015長野)』、日本地質学会、2015年、doi:10.14863/geosocabst.2015.0_177 閲覧は自由
  8. ^ 佐野弘好、杦山哲男、長井孝一、上野勝美、中澤努、藤川将之「秋吉石灰岩から読み取る石炭・ペルム紀の古環境変動 -美祢市(旧秋芳町)秋吉台科学博物館創立50周年記念巡検-」『地質学雑誌』第115巻補遺、日本地質学会、2009年、76-77頁、doi:10.5575/geosoc.115.S71 閲覧は自由
  9. ^ 坂田健太郎、中澤努、岡井貴司、上野勝美「秋吉帯の海洋島起源の石炭紀—ペルム紀石灰岩におけるリンの偏在」『地質調査研究報告』第66巻第11/12号、産業技術総合研究所、2015年12月25日、207-211頁、doi:10.9795/bullgsj.66.199 閲覧は自由
  10. ^ 山下大輔、宇野康司、尾上哲治「兵庫県篠山地域に分布する石炭系~ペルム系層状チャートに記録されたカイアマ超逆磁極期」『日本地質学会学術大会講演要旨 第125年学術大会(2018札幌-つくば)』、日本地質学会、2018年、doi:10.14863/geosocabst.2018.0_326 閲覧は自由
  11. ^ 杉山敏郎「山口縣美禰郡秋吉地方の古生層中の二, 三の新事實に就いて」『地質学雑誌』第46巻第544号、日本地質学会、1939年1月20日、16頁、doi:10.5575/geosoc.46.13 閲覧は自由
  12. ^ 中澤努、上野勝美、藤川将之「秋吉帯石灰岩におけるオンコイドの産出層準と形態及び形成生物について」『日本地質学会学術大会講演要旨 第120年学術大会(2013仙台)』、日本地質学会、2013年、doi:10.14863/geosocabst.2013.0_167 閲覧は自由