モルシドミン

モルシドミン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
販売名 Corvasal, Corvaton, Molsidain, Molsidolat, others
Drugs.com 国別販売名(英語)
International Drug Names
法的規制
  • ?-only
薬物動態データ
生物学的利用能44-59%
血漿タンパク結合3-11%
代謝加水分解
代謝物質リンシドミン
半減期1-2 時間 (リンシドミン)
排泄>90% (腎臓)
識別
CAS番号
25717-80-0 チェック
ATCコード C01DX12 (WHO)
PubChem CID: 5353788
DrugBank DB09282
ChemSpider 4090 チェック
UNII D46583G77X チェック
KEGG D01320  チェック
ChEMBL CHEMBL1256353 ×
化学的データ
化学式C9H14N4O4
分子量242.23 g/mol
物理的データ
融点140 - 141 °C (284 - 286 °F)
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モルシドミン(Molsidomine)は、経口で持続性の高い狭心症治療のための血管拡張薬の一つである。肝臓活性代謝物質リンシドミンに代謝される。リンシドミンは不安定で、分解する際に真の血管拡張薬である一酸化窒素を遊離する[1]

医療応用

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モルシドミンは、狭心症の予防と長期間の治療のために用いられる。急性心筋梗塞の状況下での狭心症の治療にも用いられる[2][3]

禁忌

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急性心停止や重症低血圧の患者、授乳中、シルデナフィル等の5型ホスホジエステラーゼ阻害剤との組合せでの使用はできない[2][3]

副作用

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最も一般的な副作用は、10-25%の患者で起こる頭痛と低血圧である。1%以下に発生する副作用には、めまい、吐き気、頻脈、過敏性反応、また稀に血小板減少症がある[2][3]

相互作用

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モルシドミンの血圧降下作用は、5型ホスホジエステラーゼ阻害剤によって大幅に増幅され、失神や心筋梗塞に繋がる可能性がある。程度は少ないものの、交感神経β受容体遮断薬カルシウム拮抗剤、その他の硝酸薬等の他の高血圧治療薬によっても影響が生じる。エルゴリンは、モルシドミンの効果に拮抗する[2][3]

薬理

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作用機構

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モルシドミンは硝酸薬に分類される。気体状のシグナリング分子である一酸化窒素を放出し、血管平滑筋を弛緩させる[4][5]

薬物動態

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で素早くほぼ完全(90%以上)に吸収される。初回通過効果により肝臓でリンシドミンに加水分解されるプロドラッグである。44-59%のモルシドミンはそのまま血流に乗り、そのうち3-11%は血漿タンパク質と結合する。モルシドミンとリンシドミンのどちらも1-2時間後に血漿中での最高濃度に達する。リンシドミンの生体内半減期は1-2時間であり、90%以上が腎臓から排出される[2][4]

モルシドミンからのNOの放出[4]

化学

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モルシドミンのメソイオン構造

モルシドミンとリンシドミンは、メソイオンヘテロ環芳香族化合物シドノンイミンである。モルシドミンの融点は140-141℃で、クロロホルムに任意の割合で溶け、塩酸エタノール酢酸エチルメタノールに可溶で、水やアセトンには若干溶ける。ジエチルエーテル石油エーテルには非常にわずかに溶ける。pH5-7の水溶液で安定であるが、アルカリ溶液中では不安定である。クロロホルム中での吸収極大は、紫外線領域の326 nmである。320 nmより波長の短い紫外線に反応する[3]

合成

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合成[6]

合成は、1-アミノモルホリンホルムアルデヒドシアン化水素に反応させて2を得ることから始まる。ニトロソ化によりN-ニトロソアナログ(3)となり、これを無水酸処理により環化してシドノン(4)とする。リンシドミンとクロロギ酸エチルを反応させることでカルバミン酸エチルを得る。

歴史

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武田薬品工業により、1970年に初めて合成され、同年、抗高血圧作用、血管拡張作用が発見された[7]

出典

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  1. ^ Rosenkranz, B.; Winkelmann, B. R.; Parnham, M. J. (1996). “Clinical pharmacokinetics of molsidomine”. Clinical Pharmacokinetics 30 (5): 372-384. doi:10.2165/00003088-199630050-00004. PMID 8743336. 
  2. ^ a b c d e (German) Austria-Codex. Vienna: Osterreichischer Apothekerverlag. (2018). Molsidolat 4 mg-Tabletten. ISBN 978-3-85200-196-8 
  3. ^ a b c d e Dinnendahl, V; Fricke, U, eds (2010) (German). Arzneistoff-Profile. 7 (24 ed.). Eschborn, Germany: Govi Pharmazeutischer Verlag. Molsidomin. ISBN 978-3-7741-9846-3 
  4. ^ a b c Mutschler, Ernst; Schafer-Korting, Monika (2001) (German). Arzneimittelwirkungen (8 ed.). Stuttgart: Wissenschaftliche Verlagsgesellschaft. p. 558. ISBN 978-3-8047-1763-3 
  5. ^ Stryer, Lubert (1995). Biochemistry, 4th Edition. W.H. Freeman and Company. p. 732. ISBN 978-0-7167-2009-6 
  6. ^ 増田克忠, 神谷高明, 今城芳夫, 金児龍彦 (1971). “Studies on Mesoionic Compounds. II. Synthesis of N-Acyl Derivatives of 3-Dialkylaminosydnonimines”. Chemical and Pharmaceutical Bulletin (日本薬学会) 19 (1): 72-79. doi:10.1248/cpb.19.72. ISSN 0009-2363. NAID 110003632546. https://doi.org/10.1248/cpb.19.72Dialkylaminosydnonimines. 
  7. ^ Wolf-Dieter Muller-Jahncke; Christoph Friedrich; Ulrich Meyer (2005-01-01). Arzneimittelgeschichte (2nd ed.). Stuttgart: Wiss. Verl.-Ges. p. 163. ISBN 9783804721135