葉

葉(は、英: leaf[注釈 1]、独: Blatt)は、陸上植物の植物体を構成する軸性器官である茎に側生する器官である[1]。維管束植物の胞子体においては根および茎とともに基本器官の一つで、茎頂(シュート頂)から外生的に形成される側生器官である[2][注釈 2]。普通、茎に側生する扁平な構造で[2]、維管束からなる脈系を持つ[1]。コケ植物の茎葉体(配偶体)が持つ扁平な構造も葉と呼ばれる[5][1][6]。
一般的な文脈における「葉」は下に解説する普通葉を指す[7]。葉は発達した同化組織により光合成を行い、活発な物質転換や水分の蒸散などを行う[2]。
葉の起源や形、機能は多様性に富み、明確に葉を定義するのは難しく、茎との関係性も議論があった[1][2]。茎と同様にシュート頂分裂組織(茎頂分裂組織、SAM)に由来するが、軸状構造で無限成長性を持つ茎とは異なり、葉は一般的に背腹性を示し、有限成長性で腋芽を生じない[2][注釈 3]。維管束植物の茎はほぼ必ず葉を持ち、茎を伸長させる分裂組織は葉の形成も行っているため、葉と茎をまとめてシュートとして扱う[11]。葉は茎に対して、種ごとに特定の葉序をもって配列する[12]。
なお、コンブやワカメのような褐藻類でも、付着器・茎状部・葉状部という高度な組織分化がみられる例があり[13][14]、それぞれ俗に根・茎・葉と呼ばれることもあるが、陸上植物とは別のスーパーグループに属すため[15]、進化的起源や構造は大きく異なり、真の葉とは区別される。
本項では、コケ植物の葉についても触れるが、ほとんどの内容は維管束植物の葉について述べる。初めに#概説にて、葉の多様性について示し、葉の種類を大別する。次に、葉の#外部形態について概説し、具体的な外部形態について、#普通葉の形態および#変形葉の形態で述べる。続いて、#個体発生に伴う変化において、植物の成長に伴い生じる異なる形の葉について説明する。その後、葉の#内部形態について述べる。次に、概説の内容を拡張し、葉の#進化的起源について述べる。葉の器官発生についてを#発生節で述べる。次に、葉とほかの器官との位置関係について#ほかの器官との関係節で述べる。葉が行う生理的な現象については、#生理機能と適応および#葉の老化で述べる。他の生物との相互作用は#生態系における葉節で述べ、地層中に堆積した葉について#葉化石で解説する。最後に#人間とのかかわり節でヒトによる利用について述べる。
概説
[編集]現生陸上植物の系統関係 | |||||||||||||||||||||||||||||||||
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系統関係は Puttick et al. (2018) に基づく。太字はその系統で獲得した葉の種類を示す。 |
陸上植物は胞子体(核相 2n)と配偶体(核相 n)の2つの世代が繰り返す生活環を持っている。また、現生の陸上植物はコケ植物、小葉植物、大葉シダ植物、種子植物(裸子植物と被子植物)に分けられ、右のような系統関係となっている[16]。コケ植物以外の現生陸上植物は、いずれも維管束を持ち、まとめて維管束植物と呼ばれる[17][18]。コケ植物では配偶体世代が優先し、主な植物体を構成する一方、維管束植物では胞子体世代が優先し、主な植物体を構成する。葉はいずれも主な植物体に形成されるため、コケ植物では配偶体(茎葉体)に[19]、維管束植物では胞子体に葉をつける[2]。特殊化した葉を除き、いずれの群にも共通する性質として、茎に側生する器官であること、扁平な構造であることが挙げられる[2]。また、頂端から外生的に発生する[2]。
コケ植物は、種によって茎葉体を形成するものと葉状体を形成するものが知られるが、葉は茎葉体にのみ存在する[19]。この葉は維管束植物が持つ葉(leaf)と区別して、phyllid と呼び分けられる[20]。ただし、これは上記の通り配偶体に形成されたものであり、構造や発生においても維管束植物の葉とは大きく異なるため[21][8]、葉を維管束植物に限定して扱うことも多い[2][注釈 4]。
維管束植物において、葉は根・茎とともに胞子体が持つ基本器官の一つである[6]。そのため、葉状突起しか持たないマツバラン類を除く現生の全ての群で葉を持つ[注釈 5]。しかし、維管束植物においても葉は複数の起源を持つと考えられており、小葉植物、大葉シダ植物、種子植物はその祖先でそれぞれ独立して葉を獲得したと考えられている[1][5][22][8]。つまり、地上に上陸したばかりの植物は葉を持たず、小葉植物、大葉シダ植物、種子植物のそれぞれの祖先が分岐した後で、それぞれが葉を別々に進化させた。小葉植物が持つ葉は葉脈を原則1本のみ持ち、小葉(しょうよう、microphyll)と呼ばれる[23][24]。大葉シダ植物と種子植物の葉はまとめて大葉(だいよう、megaphyll, macrophyll)と呼ばれるが、大葉は最大で11回独立に進化してきたと考えられている[25]。特に、大葉シダ植物トクサ類の持つ楔葉(けつよう、sphenophyll)、その他の大葉シダ植物や化石裸子植物が持つ羽葉(うよう、frond)、裸子植物針葉樹類が持つ針葉(しんよう、needle)、被子植物の持つ広葉(こうよう、broad leaf)などが区別される[26]。種子植物の葉は、羽葉とは異なり求基的に成長する[26][注釈 6]。
また、葉は植物の器官の中で最も多様性を示す[28]。異なる種の植物が形の違う葉を形成するだけでなく、一つの植物の中でも成長や環境に伴い葉形が変化する異形葉性を示す[29][30]。葉は複数の形態や働きを持ち、光合成を行う普通葉(ふつうよう、foliage leaf)以外にも、胚発生時に最初に形成される子葉(しよう、cotyledon)、小型化して芽や花を覆う鱗片葉(りんぺんよう、scale leaf)、大葉シダ植物や裸子植物の胞子嚢をつける胞子葉(ほうしよう、sporophyll)、被子植物の花を構成する花弁や雄蕊などの花葉(かよう、floral leaf)などが区別される[2]。葉の形、機能は多様性に富み、古くから葉の定義や茎との関係は議論の的であった[1][2]。ゲーテ以降、葉を抽象的な概念に基づいて定義しようという試みが形態学者によりなされてきたが、ザックス以降、発生過程や生理的機能、物質代謝、そして遺伝子の発現や機能などに解明の重点が置かれている[2]。
外部形態
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葉の形態は植物の種によって異なり、特に木本植物では同定の重要な鍵となる[37][38]。一方、体系的な分類は花や果実といった生殖器官に基づいて行われてきた[37][38]。しかし、生殖器官をつける時期はごく短期間であることが多いうえ、樹木の場合高い位置につけることが多く、野外ではこれを使った同定は難しい[37]。また、樹皮も種ごとの特徴を反映することがあり、生殖器官とは違って用いやすいが、幼木と成木、老木ではそのパターンが変わりやすく、これを同定に用いるのも難しい[37]。これらに対し、葉は年間のうち半分以上はつけていることが多く、成長に伴い変化するものはあるものの、一般的に成長しても特徴が変化しにくく、確かな同定形質となりうる[37]。
ラフィアヤシ Raphia farinifera の葉は20 m(メートル)に達する[39]。これが種子植物で最大であるとされる[39][40]。ただし、これは羽状複葉であるためいくつかの小葉に分かれており、単葉ではインドクワズイモ Alocasia macrorrhizos が最大で最長となる[39]。大葉シダ植物では葉頂端幹細胞により無限成長を行う種が知られ、コシダ属の一種 Dicranopteris taiwanensis や、Sticheropsis truncata(ともにウラジロ科)では1個の葉が30 m 以上の樹上まで伸びる[41]。日本で見られる植物の葉の厚さは、100–600 μm(マイクロメートル)のものが多い[42]。
葉の構成要素
[編集]葉の構成部分は基部から順に、托葉、葉柄、葉身の3部に大別される[7][43][44][注釈 15]。
被子植物の葉が持ち、ふつう扁平な光合成を行う主要な部分を葉身(ようしん、lamina, blade)という[46][47]。葉身の組織は葉脈、葉肉、表皮からなる[47](#内部形態も参照)。葉身の形態は多様であり、それを表すために、左右相称平面図形を表す体系的な用語に加え[48][49]、心形、腎臓形や矛形などの用語が用いられる[50]。葉身の先端は葉先(葉尖、ようせん、leaf apex)、葉身の基部は葉脚(ようきゃく、leaf base)と呼ばれる[31]。
葉柄(ようへい、petiole)は茎と葉身を繋ぎ、葉身を支持する[47]。葉柄には膨圧により運動を行う葉枕(ようちん、pulvinus)が分化することもある[47][51]。
托葉(たくよう、stipule)は葉の基部付近の茎または葉柄上に生じる葉身とは異なる葉的な器官である[7]。托葉は葉の展開時の早期に脱落して托葉痕を残すものもある[45]。托葉は単子葉類を含む被子植物が持っており、(スイレン科などの)比較的基部で分岐した双子葉類の科にも一般的に見られることから、原始的な形質であるとされる[45]。
一方、托葉や葉柄を欠く葉も多い[7][47][52]。葉柄を欠く葉を無柄葉(むへいよう、sessile leaf)という[47]。また、葉身を欠くものもあり、偽葉(ぎよう、phyllode)と呼ばれる[52][53]。逆に、葉柄があり、基部に托葉を具えた葉は完全葉(かんぜんよう)と呼ばれる[54]。
葉脈
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a,b. 羽状脈系; c. 平行脈系; d. 掌状脈系; e. 二又脈系
葉の維管束である葉脈(ようみゃく、vein, nerve)は、葉の外形において表面に見える筋となって現れる[34][55]。葉脈は維管束を通じた物質輸送のほかに、光を受けやすい形を維持するために力学的に葉を支持する働きを持つ[56]。葉脈の密度は大葉シダ植物より裸子植物、裸子植物より被子植物のほうが高い傾向にある[57]。
一枚の葉で異なる複数の葉脈がある場合、最も太いものを主脈(しゅみゃく、main vein)、そこから派生した葉脈を側脈(そくみゃく、lateral vein)という[34]。側脈(一次側脈、二次脈)は分岐して二次側脈(三次脈)を形成する[58]。主脈や側脈はさらに細い細脈(さいみゃく、veinlet)を生じ、その間を結合したり、末端で遊離したりする[58]。
葉肉内における葉脈の配列の状態(分岐の仕方)を脈系(みゃくけい、venation)という[34][2][59]。脈系は系統によって多様であり[2][56]、網状脈系・平行脈系・二又脈系・単一脈系に大別される[36][59]。典型的には、双子葉類では葉脈が網状に連絡する網状脈系(もうじょうみゃくけい、reticulate venation)を持ち、特に主脈(中央脈)から側脈が分岐して羽状になる羽状脈系(うじょうみゃくけい、pinnate venation)が双子葉類で最も普通である[36][60]。網状脈系は薄嚢シダ類のコウヤワラビや[61]、裸子植物グネツム類のグネツム科でも見られる[62]。網状脈系はさらに、主脈が掌状に並ぶ掌状脈系(しょうじょうみゃくけい、palmate venation)と、掌状脈の最下基部から太い一次側脈(二次脈)が分岐する鳥足状脈系(とりあしじょうみゃくけい、pedate venation)が区別される[36]。掌状脈系の中でも、1対の側脈が太く、3本の太い葉脈が目立つ場合は三行脈(さんこうみゃく)と呼ばれる[36][59]。一方、単子葉類の多くは主脈や一次脈が分枝せず、主だった葉脈が葉先に向かって平行する平行脈系(へいこうみゃくけい、条線脈系[60]、じょうせんみゃくけい、striate venation)を持つ[63][60]。単子葉類であってもヤマノイモ科やサトイモ科のように網状脈系を持つものも存在する[63]。シダ類やイチョウでは葉脈が二又に分かれる二又脈系(ふたまたみゃくけい、dichotomous venation)を持つ[63]。小葉植物や針葉樹類、エリカ葉を持つ被子植物は、中央脈一本のみを持つ単一脈系(たんいつみゃくけい、simple venation)を持つ[64]。
葉縁の形質と裂片
[編集]A 全縁、B 毛縁、C–E 鋸歯縁、F 重鋸歯縁、G 歯牙縁、H 円鋸歯状縁、I 微突形、J 条裂
A 全縁の不分裂葉、B 浅裂、C 深裂、D 全裂、E 波状縁、F 欠刻縁、G 掌状葉、H 三裂葉
被子植物の葉身の形の変化は多く、葉縁の形態は多様であり、葉身がはっきり分裂して裂片をもつものも多い[65]。特に双子葉類の様々な系統で見られる[65]。
葉縁にみられる鋸の歯のような細かな切れ込みを鋸歯(きょし、serration, teath)という[66]。葉縁は鋸歯の形態により、先端が開出する歯状縁(しじょうえん、dentate)、先端が葉先を向く鋸歯縁(きょしえん、serrate)、円鋸歯縁(えんきょしえん、crenate)などが区別される[65][67]。鋸歯を持たず、切れ込みもないことを全縁(ぜんえん、entire)という[66][32][67]。
凹凸が大きく葉全体の形にかかわるほどの切れ込みがある単葉を分裂葉(ぶんれつよう、lobed leaf)と呼ぶ[68]。この突出部を裂片(れっぺん、lobe)という[32]。それに対して裂片のない葉を不分裂葉という[69][70]。切れ込みが浅いものを浅裂(せんれつ、lobed, lobate)、やや深く切れ込むものを中裂(ちゅうれつ、cleft)深く裂けていれば深裂(しんれつ、parted, partile)、完全に裂けたものを全裂(ぜんれつ、dissected)という[32][67]。裂片が放射状に配置し、掌のようになったものを掌状(しょうじょう、palmate)、裂片が左右に列をなし、鳥の羽のようになったものを羽状(うじょう、pinnate)という[32]。裂ける深さと形を組み合わせて、葉の形状を表現することが多く、例えばヤツデの葉は掌状深裂、ヨモギの葉は羽状深裂する。
複葉
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葉身が複数の小部分に分かれた葉のことを複葉(ふくよう、compound leaf)とよぶ[71][72]。それに対し、葉身が1枚の連続した面からなる葉を単葉(たんよう、simple leaf)と呼ぶ[73]。複葉は単葉の葉身の切れ込みが深くなり、主脈の部分にまで達した状態であると解釈される[72]。
複葉における、分かれている葉身の各片を小葉(しょうよう、leaflet)、小葉が付着する中央の軸部を葉軸(ようじく、rachis)と呼ぶ[72][68]。小葉が柄を介して葉軸につく場合、その柄は小葉柄(しょうようへい、petiolule)と呼ばれる[72][68]。葉片が単葉か複葉の一部かは腋芽の有無によって区別され、複葉の小葉柄の基部には腋芽ができない[68]。大葉シダ植物の複葉(羽葉)の場合、小葉に当たる部分は羽片(うへん、pinna)と呼ばれる[74]。薄嚢シダ類の羽葉は多様性に富み、複葉の葉形変化が顕著である[75]。
複葉は葉脈の分岐様式と同様にして、三出複葉、羽状複葉、掌状複葉、鳥足状複葉の4形式に大別される[72][68]。三出複葉(さんしゅつふくよう、ternate leaf)は、3個の小葉を持つ複葉である[72][68][76]。葉軸が伸びて3個以上の小葉を付け、葉軸に沿って左右に小葉が並ぶ複葉は、羽状複葉(うじょうふくよう、pinnate leaf)と呼ばれる[72][77]。葉柄の先端の1点に放射状に3個以上の小葉がつく複葉は、掌状複葉(しょうじょうふくよう、palmate leaf)という[72][78]。鳥足状複葉(とりあしじょうふくよう、pedately compound leaf)は、掌状複葉の最下側小葉の柄がさらに小葉柄を生じ、小葉柄の分岐が鳥足状になった複葉である[34]。
三出複葉や羽状複葉では小葉が更に複葉となることがあり、再複葉(さいふくよう、decompound leaf)という[72][68]。再複葉の反復回数と形式の名称の組合せにより複葉の形が表現される[72](右図)。
質
[編集]葉の質感は種によって異なり、分類形質ともなる。キク科では、ツワブキの葉のような質感を革質(かわしつ、coriaceous)、フキの葉のような質感を草質(くさしつ、herbaceous)、コウモリソウのような質感を紙質(かみしつ、chartaceous)、ハマグルマのような質感を肉質(にくしつ、sarcoid, fleshy)と表現する[79]。多くの植物の花冠にみられる、タンポポの花弁のような質感は膜質(まくしつ、membraneceous)、ヤマハハコの花冠のような質感は乾膜質(かんまくしつ、scarious)という[79]。ヒルムシロ(ヒルムシロ科)の葉は膜質である[80]。
異形葉性
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一つの植物の中で、その種の特徴として常に2種類以上の異なる形態の葉を持つ現象を異形葉性(いけいようせい、heterophylly)と呼ぶ[30][29][81]。より狭義には、1個体に形や大きさの異なる普通葉を持つことを指す[30][82]。異形葉性を示す葉を異形葉(いけいよう、heterophyll)という[81]。また、2型の異形葉が明瞭に区別できる場合、二形性(にけいせい、dimorphism)という[83]。異形葉性には、環境条件によって異なる形態の葉を形成するヘテロフィリー (heterophylly) および、環境条件が一定でも成長過程で異なる形態の葉を形成するヘテロブラスティー (heteroblasty) が区別される[84][85](ヘテロブラスティーについては#個体発生に伴う変化も参照)。
これに類似する語に、不等葉性(ふとうようせい、anisophylly)がある[82][86]。異形葉性と不等葉性の語義には研究者によって異なり、熊沢 (1979) では、位置関係による葉形変化を「不等葉性」、植物の内的要因に由来する場合を「異形葉性」と区別している[87][注釈 16]。そのため、熊沢 (1979) では直立した茎の日光のある面とそうでない面に形成される陽葉と陰葉の区別も不等葉性に含めている[88]。清水 (2001) では位置関係の中でも、対生や輪生葉序において、1節につく葉の形に異形葉性が見られる場合を特に不等葉性と呼んでいる[86]。針葉樹類のアスナロ(ヒノキ科)、小葉植物のアスヒカズラ(ヒカゲノカズラ科)、イワヒバやカタヒバ、クラマゴケ(いずれもイワヒバ科)では背腹性に応じた不等葉性が見られる[89]。
モミ(マツ科)、クワ(クワ科)、カクレミノ(ウコギ科)、ヒイラギ(モクセイ科)などは異形葉性を示し、1つの個体に分裂葉と不分裂葉が見られる[30]。イブキでは、針形葉と鱗形葉が混じる二形を示す[30]。ツタ(ブドウ科)には、三行脈分裂葉の単葉と三出掌状複葉になるものが見られる[30]。Boquila trifoliolata(アケビ科)は、周囲にある複数の樹種の葉を模倣し、それぞれに擬態した形態をなす能力を持つ[90]。
水生植物の多くの分類群では、すべての葉が水中にあるわけではなく、水葉(沈水葉)と気葉(浮水葉・抽水葉)を分化する[91][81][92](#水生植物の葉を参照)。ロリッパ・アクアティカ Rorippa aquatica(アブラナ科)は水中では切れ込んだ葉を形成するが、地上ではシロイヌナズナに似たほぼ全縁の葉を形成する[93][94]。これは水没という環境変化に応じて植物ホルモンであるエチレンが葉に作用し、葉形変化が起こることが解明されている[94]。
普通葉の形態
[編集]葉緑体を持ち、光合成を行う葉を普通葉(ふつうよう、foliage leaf)と呼ぶ[7][43]。同化葉とも呼ばれる[95]。普通葉の多くは扁平であるが、針葉樹の針状葉 [注釈 17]やネギ属やイグサ属などの単子葉類が持つ管状葉も普通葉に含まれる[7]。
葉の形状から木本植物を大別した場合、広葉樹(こうようじゅ、broad-leaved tree, hardwood)と針葉樹(しんようじゅ、needle-leaved tree, acicular tree)に分けられる[97]。基本的には系統関係と対応しているため、イチョウ(イチョウ科)、ソテツ(ソテツ科)、ナギおよびイヌマキ(マキ科)といった裸子植物は広葉をもつが広葉樹ではない[97]。このうち、マキやナギは、鱗状葉を持つヒノキやイブキ(ヒノキ科)、針状葉を持つマツ科や旧スギ科とともに針葉樹に含まれる[97]。逆にガンコウランやツガザクラ(ともにツツジ科)などの針状の葉(エリカ葉)を持つ広葉樹もある[97][96]。イチョウやソテツ、ヤシ類はどちらにも含まれない[97]。また、針葉樹の葉は形態によって針形葉、線形葉、鱗形葉に分けられる[98](下記「#針葉樹の普通葉」節を参照)。
楯状葉
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葉柄の先に雨傘状の葉身を持つ葉を楯状葉(盾状葉、じゅんじょうよう、peltate leaf)という[99][100]。ハス(ハス科)やジュンサイ(ハゴロモモ科)、キンレンカ(ノウゼンハレン科)、サンカヨウ属 Diphylleia、ミヤオソウ属 Podophyllum(ともにメギ科)、テンジクアオイ属 Pelargonium(フウロソウ科)、ハスノハカズラ属 Stephania(ツヅラフジ科)などで見られるほか、ヤブレガサやタイミンガサ(キク科)のように葉身が放射状に分裂しているものもある[99][100]。
楯状葉葉身の葉縁の拡大があまり進行せず、葉身の葉縁方向への平面成長が進んだ形態は、杯状葉または嚢状葉と呼ばれる[101]。杯状葉(盃状葉、はいじょうよう、aecidial leaf)は奇形として知られており[102][100]、ラッパイチョウ(イチョウ科)やヘンヨウボク(トウダイグサ科)、シナガワハギ Melilotus suaveolens(マメ科)などによく観察されている[101]。
単子葉類の葉
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単子葉植物の葉は、単純な線形から長円形で、葉柄および葉身の分化がないものもあれば、大型ではっきりした葉身を持ち葉柄が分化したもの、葉柄の一部が葉鞘に変化し、茎を包むものなどがある[103]。典型的なものでは、全縁の単葉であり、一次側脈の先端が葉の先端部で融合する閉鎖葉脈系を作り、平行脈葉(へいこうみゃくよう、parallel-veined leaf)である[103]。ヤシ科、ショウガ科、バショウ科では二次側脈も一次側脈に平行に走り、特異的な平行脈を形成する[103]。
単子葉植物の多くは有鞘葉(ゆうしょうよう、sheathing leaf)となるものが多い[71]。有鞘葉は扁平な部分と基部の葉鞘(ようしょう、leaf sheath)からなる[71]。葉鞘と 葉身の境界部分はラミナジョイント(lamina joint)と呼ばれ、そこに葉舌(ようぜつ、ligule)と葉耳(ようじ、auricle)が分化する[104]。葉舌は向軸側に形成された扁平で膜質な付属物である[71]。ヒエ属のように葉舌を欠くものもある[104]。葉鞘はイネ科、カヤツリグサ科、ツユクサ科、ショウガ科、ラン科などに一般的で、ユリ科の一部にも見られる[71]。葉鞘が托葉と相同かどうかは議論がある[103]。
葉鞘はつねに地上茎の節から生じるわけではなく、地下茎から直接生じて順次内側の葉鞘を包み、筒状となって地上茎のように見えることがある[71]。こうした葉鞘の集まりを偽茎(ぎけい、pseiudostem)と呼ぶ[71]。ガマ科、ショウガ科、テンナンショウ属 Arisaema(サトイモ科)、シュロソウ属 Veratrum(シュロソウ科)、スズラン属 Convallaria(キジカクシ科)などに見られる[71]。
葉身が発達せず、葉鞘だけの葉を鞘葉(しょうよう、sheath leaf)と呼ぶ[71]。鞘葉はイグサ科のイグサやミヤマイ Juncus beringensis、カヤツリグサ科のワタスゲやホタルイ属 Schoenoplectus[注釈 18]、ハリイ属 Eleocharis などに見られる[71]。これらでは稈の基部に小数個の鞘葉が重なり合っている[71]。また、ホシクサ属 Eriocaulon(ホシクサ科)では茎の下部に常に1個の鞘葉がある[71]。
また、有鞘葉のうち花序に腋生するものを苞鞘(ほうしょう、bract sheath)という[105]。スゲ属 Carex の苞は苞鞘であることも無鞘であることもあり、シバスゲ節 sect. Praecoces やシオクグ節 sect. Paludosae の小穂の苞は少なくとも最下が苞鞘である[105]。
単子葉類には、背腹性を失った単面葉を形成するものも多い[106](#単面葉も参照)。ネギ属 Allium(ヒガンバナ科)の多くやイグサ属 Juncus(イグサ科)の単面葉は管状葉(かんじょうよう、tubular leaf)と呼ばれ[7]、円筒単面葉である[107]。アヤメ科やショウブ(ショウブ科)の単面葉は剣状葉(けんじょうよう)と呼ばれ[106]、扁平単面葉である[107]。
ヤシ科の葉は裂開によって形成され、掌状複葉(しょうじょうふくよう、palmate leaves)や羽状複葉をなす[108][109]。同様の細裂を持つ葉はパナマソウ科にも知られる[110][111]。穴あき(あなあき、fenestration)によって複葉的な葉が形成される場合[注釈 19]や、被子植物の複葉と同様に小葉原基が分化するものも知られる[103]。
針葉樹の普通葉
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古くから針葉樹類と言われた裸子植物の系統は[112]、分子系統解析が進んだ現在ではマツ科と残りの針葉樹類(広義のヒノキ目)の2系統が含まれることが分かっている[113][114]。現生針葉樹類の普通葉は全て単葉である[113][115]。その中でも、多くの針葉樹類の葉は細くて先細りとなるため、針葉(しんよう、needles)と表現される[115]。ただし、ナギモドキ属 Agathis やナンヨウスギ属 Araucaria(ナンヨウスギ科)、マキ科(ナギ属 Nageia)では著しく幅の広い葉を持つ[116]。ヒノキ科以外の多くの針葉樹類の葉は長枝に発生し、螺旋葉序または互生葉序となる[115]。ヒノキ科では全て十字対生葉序か輪生葉序である[115]。
現生針葉樹の葉は、その形態によって針形葉、線形葉、鱗形葉と呼び分けられる[98]。Laubenfels (1953) は現生針葉樹類の葉を、その3つにナギなどの幅広い葉を加えた4つのタイプに分類した[117]。同種であっても同一個体内に複数の形態の葉を形成することがあり、ビャクシンの葉は通常、鱗形葉であるが、ときどき針形葉を交じる[118]。
針状で扁平ではないものを針形葉(しんけいよう、または針状葉、針葉、needle leaf)という[98][7][96]。スギは針形葉が螺旋状につき、葉の基部が小枝と一体化している[98]。マツ属 Pinus ではシュートに長枝と短枝が分化し、針形葉が短枝に分類群ごとに1–5本の一定の数ずつつく[98][119][115]。この短枝は俗に「松葉」と呼ばれ[119]、基部には薄い膜状の鱗片葉を持つ[120]。クロマツでは短枝に2本の針形葉、ダイオウマツは短枝に3本の針形葉、ゴヨウマツは短枝に5本の針形葉をつける[98]。また、マツの葉は等面葉である[96]。
幅が狭く扁平なものを線形葉(せんけいよう、または線状葉、線葉)という[121]。中脈が明らかで、背軸面には気孔が気孔帯がみられることが多い[121]。モミ、ツガ(マツ科)、カヤ、イヌガヤ(イチイ科)などには2本の気孔帯が認められる[121]。イヌマキ(マキ科)の線形葉は中脈が顕著である[121]。コウヤマキ(コウヤマキ科)の線形葉は短枝につく2本の葉が合着したものである[121]。
扁平な葉が十字対生して茎を包んでいるものを鱗形葉(りんけいよう、または鱗状葉、鱗葉、scale like leaf)と呼ぶ[118][122][注釈 20]。ヒノキ科の普通葉に多く[122]、ヒノキやサワラ、アスナロやコノテガシワに見られる[118]。
エリカ葉
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エリカ葉(エリカよう、ericoid leaf、石南状葉[123])はツツジ科のガンコウラン属 Empetrum やツガザクラ属 Phyllodoce、エリカ属 Erica などが持つ小さく針状の葉で、重複葉(ちょうふくよう、duplicate leaf)とも呼ばれる[122][96][124]。
葉縁付近の背軸側(腹側)に襞状の突起ができ、葉の背軸側に空洞部分ができることで気孔をその空洞の内側にのみ持つようになっている[96]。左右の葉縁が背軸側に折れ曲がったように見えるが、実際は発生の途上に背軸側の基本組織中に新たに生じた分裂組織から二次的に作られたものである[122]。この部分を重複葉身(ちょうふくようしん、duplicate blade)という[122]。気孔が分布する空洞に面していない部分は厚いクチクラに覆われ、クチクラ蒸散を極度に減らしている[125]。また、気孔の分布する空洞部分と外界を連絡する溝の両側は毛が覆い、空気の流通を妨げている[125]。逆に葉の向軸側の表皮下には日射の強い高山において光合成効率を上げるため柵状組織が発達している[125]。こうした構造により蒸散を最小限に抑え[126]、高山に適応している[96]。
硬葉
[編集]地中海気候地域の樹木に見られる、小型で硬く、厚く革質の葉を硬葉(こうよう、sclerophyll)という[127]。コルクガシ(ブナ科)やオリーブ(モクセイ科)が代表種である[127]。日本ではウバメガシ(ブナ科)が硬葉を持つ[127]。夏季には降雨量が少なく乾燥し、冬季には温暖で降水量が多い夏乾冬雨の気候に生育し、硬葉樹林を構成する[128]。
水生植物の葉
[編集]水生植物の葉は水辺環境に適応して特殊化しており、水面との位置関係により沈水葉、浮水葉、抽水葉が区別される[129]。水生植物の多くの分類群は異形葉性を持ち、同じ個体でも水中の水葉と空気中の気葉とで葉形の分化が見られることが多い[91][81][80]。これらの葉は形態的、生態的に特徴が異なっており、この異形葉性により、水中、水面、空気中という異なる環境に適応している[130]。また、ホテイアオイ(ミズアオイ科)などの浮遊植物では浮き袋(うきぶくろ、air bladder)を持つ[129]。
- 沈水葉
沈水葉(ちんすいよう、submerged leaf)は、水中にある沈水性(ちんすいせい、submergence)を持つ葉である[129]。一般に軟弱で、機械的組織の発達が悪い[129]。沈水葉の多くは、葉身が薄く、細裂する形態的特徴を持つことが多い[80]。表皮系にクチクラ層や気孔を欠くため、水中の二酸化炭素や栄養塩類を葉の表面から取り込むことができる[131]。バイカモ(キンポウゲ科)、マツモ(マツモ科)、タヌキモ Utricularia vulgaris(タヌキモ科)、クロモやセキショウモ(トチカガミ科)、エビモ(ヒルムシロ科)など見られ、これらは全ての葉が沈水性を持つ[129]。バイカモの沈水葉は葉身が発達せず、軸状の裂片が立体的に分枝する構造をしている[132]。
- 浮水葉
浮水葉(ふすいよう、または浮葉、floating leaf)は、水面に浮かぶ浮水性(ふすいせい、floatage)を持つ葉である[129]。気孔は水面と反対の向軸面(上面)にある[129][80]。浮葉植物の浮水葉は、葉柄に空気を含む構造を持っていたり、鋸歯を発達させて表面張力を働かせたりするなど、水面に浮かぶための性質を発達させている[80]。浮葉でも水に面した下面はクチクラ層や気孔が少なくなる[131]。水位が急に上昇してもそれに対応するために、葉柄が急激に伸びて水没を防ぐ性質が発達している[80]。デンジソウ(大葉シダ植物デンジソウ科)、ヒツジグサ(スイレン科)、ジュンサイ(ハゴロモモ科)、ヒシ(ミソハギ科)、トチカガミ(トチカガミ科)、ヒルムシロ(ヒルムシロ科)、アサザやガガブタ(ミツガシワ科)などが持つが、若い葉では沈水性を持つことが殆どである[129]。イチョウバイカモ Ranunculus nipponicus (キンポウゲ科)は多くが沈水葉だが、僅かに水面上か水中にある扇形の浮水葉も持つ[129]。
- 抽水葉
抽水葉(ちゅうすいよう、または挺水葉、emergent leaf)は、水面に抜き出る抽水性(ちゅうすいせい、emergence)を持つ葉である[129]。浅水域に生える、ハス(ハス科)、コウホネ(スイレン科)、オモダカやクワイ(オモダカ科)、ガマ(ガマ科)などが持つ[129]。ハスやコウホネは若い葉は浮水性を持つ[129]。
変形葉の形態
[編集]葉は地上の茎に付属し、扁平で光合成を行うのが典型であるが、付く位置や形、機能においてさまざまな特殊化がみられる[64]。こうした葉と相同と考えられるものの光合成を担うわけではない器官と普通葉とを合わせて総称的に葉的器官(ようてききかん、phyllome, foliar appendage、フィロム[46])と呼ぶこともある[96]。葉的器官には普通葉や芽鱗、苞、花器官などが含まれる[46]。そのうち、普通葉とは異なる形態や機能を有する葉を総称して変形葉(へんけいよう)という[133]。
鱗片葉
[編集]一般的に光合成を行わず、普通葉に比べ著しく小型化した葉を鱗片葉(りんぺんよう、scale leaf, scaly leaf)と呼ぶ[122]。鱗片状になった葉を一般的に言う語であり、保護の役割を持つことが多い[134]。裸子植物の鱗片葉は雄性胞子嚢穂(雄性球花)、イチイ科の雌性胞子嚢穂(雌性球花)、マツ科の長枝等にみられる[122]。被子植物では根茎や匍匐枝にふつうに見られ、低出葉や高出葉としても現れる[122]。普通葉との間には中間的なものも見られる[134]。
裸子植物の雌性胞子嚢穂(雌性球花、球果)を構成する鱗片葉は種鱗(しゅりん、ovuliferous scale, seed scale)と苞鱗(ほうりん、bract scale)の2種類からなり、それらが癒合して種鱗複合体(しゅりんふくごうたい、seed scale complex)を構成する[135][136]。種鱗複合体は果鱗(かりん、fructiferous scale, cone scale)や苞鱗種鱗複合体とも呼ばれる[135]。
鱗片葉はさらに特殊化し、その位置により様々に呼び分けられる[122]。芽を覆う鱗片葉は芽鱗(がりん、bud scale)と呼ばれる[122][134][137]。芽鱗は腋芽を欠く[138]。
花芽を腋にもつ鱗片葉は苞(ほう、bract)、または苞葉(ほうよう)と呼ばれる[122][注釈 21]。苞は1つの花または花序を抱く小型の葉であり[140]、位置や形によってさらに総苞(そうほう、involucle)、苞、小苞(しょうほう、bracteole)、苞鞘、苞穎などに分けられる[141]。サトイモ科にみられる花序全体を包む大型の総苞は仏炎苞(ぶつえんほう、spathe)と呼ばれる[140][142]。ブナ科にみられる殻斗(かくと、cupule)も総苞の一つである[142]。
生殖シュートにおいて、胞子嚢とそれに由来する構造以外の要素は葉に由来すると考えられている[143]。萼片、花弁、雄蕊、心皮(雌蕊)といった被子植物の花を構成する鱗片葉(葉的器官)を花葉(かよう、floral leaf)[144][139][145][146]または花器官(はなきかん、floral organ)という[46]。雄蕊や雌蕊は胞子葉(ほうしよう、sporophyll)が変形してできたものであり[147]、これを実花葉(じつかよう、fertile floral leaf)という[146]。それに対し、直接生殖器官を分化しない萼片と花弁(花被片)は裸花葉(らかよう、sterile floral leaf)と呼ばれる[146]。被子植物では心皮によって囲まれる胚珠は、珠心が内珠皮と外珠皮に包まれた構造をしている[148]。この外珠皮は、発生遺伝学的にも形態的にも葉的性質を持ち、葉と相同であると考えられている[148]。
シュートにおける位置によって、シュートの下部に形成される鱗片葉は低出葉と呼ばれる[45]。シュートの上部にある高出葉も、総苞片・苞・小苞などの鱗片葉が含まれる[53](#個体発生に伴う変化も参照)。
胞子葉
[編集]胞子葉(ほうしよう、sporophyll)は、生殖に直接関連し、胞子形成機能を持つ葉の総称である[149]。実葉(じつよう、fertile frond, fertile leaf)とも呼ばれる[149]。維管束植物が持つ胞子嚢を付けた生殖葉である[150]。なお、これに対して生殖器官を分化せず光合成を行う通常の葉を栄養葉(えいようよう、trophophyll)や裸葉(らよう、sterile frond, sterile leaf)という[149]。胞子葉の形態は分類群によって多様である[150]。
リニア類などの裸茎植物では、胞子嚢は茎に頂生していた[150]。のちに葉が進化することにより、胞子葉が生まれた[150]。小葉植物では、小葉の出現に伴って胞子嚢がそれに接近し、胞子葉が生じたと推定されているが[150]、小葉は胞子嚢を頂生する軸が退化してできたと考える仮説もある[151][152]。小葉植物の胞子嚢は葉腋か葉の基部の向軸面に付き、胞子葉が集まって胞子嚢穂を形成するものもある[150]。ミズニラ科やイワヒバ科では異型胞子性を持ち、大胞子葉と小胞子葉の区別を生じる[149]。
大葉シダ植物では、胞子嚢をつけた枝系が変形して大葉の胞子葉が生じたと考えられている[150]。大葉シダ植物の胞子葉では、胞子嚢は胞子嚢群を形成して背軸面や葉縁に付着する[150]。胞子葉は胞子を付けない栄養葉とは多少とも異形葉性を示し、特にゼンマイやクサソテツ、サンショウモなどの胞子葉では葉身を欠く[150]。一方栄養葉と見かけ上変わりない形態の葉に胞子嚢を分化して胞子散布後は栄養葉と同等の機能を持つ種も多く、そのような葉を栄養胞子葉(えいようほうしよう、trophosporophyll)[149]、または栄養生殖葉という[153]。ハナヤスリ科の葉は、胞子葉と栄養葉が合体した構造をなす[149]。大葉シダ植物でもトクサ類やマツバラン類は明瞭な胞子葉を欠く[150]。
種子植物の胞子葉は著しく変形しており、大胞子葉と小胞子葉の区別を生じ、両者で大きく形態が異なっている[150]。
裸子植物のそれぞれの胞子葉は集合し、小胞子葉は雄性胞子嚢穂、大胞子葉は雌性胞子嚢穂(球果)を形成する[150]。小胞子葉の形態は分類群によって異なり、グネツム類では被子植物の雄蕊に似ており、イチョウ類では枝状で、ソテツ類や針葉樹類では葉状で、背軸面に胞子嚢をつける[150]。大胞子葉も同様で、グネツム類では胚珠はコップ状の苞に包まれ、イチョウ類では軸端に胚珠がつく[150]。ソテツ類では大胞子葉の葉縁または楯の内面に付着する[150]。針葉樹類は大胞子葉と考えられている種鱗の向軸面に胚珠が付着している[150]。
被子植物では小胞子葉は雄蕊となり、軸状や幅の狭い葉状に変化している[150]。大胞子葉は心皮となり、胚珠を向軸側から包み込んでいる[150]。
巣葉
[編集]
薄嚢シダ類ウラボシ科のカザリシダ属 Aglaomorpha やビカクシダ属 Platycerium は異形葉性を示し、普通葉や栄養胞子葉のほかに、椀状となって根茎を覆う巣葉(そうよう、nest leaf)をもつ[154][155][156]。被根葉とも呼ばれる[153]。
ビカクシダ属の普通葉は二又分枝した葉身を持ち、直立または懸垂する[155]。一方巣葉は葉柄を持たず、円板状である[157]。初め緑色をしているが、葉緑体を失い、褐色となって死細胞で構成されるようになる[154]。巣葉と基質の隙間に土や枝葉を抱え込むことによって、着生していても肥沃な環境を作り出している[154]。
カザリシダ Aglaomorpha coronans では最下の1–3対の羽片が巣葉の性質を持ち、それより上の羽片が普通葉の性質を持つ、部分的な二形となる[154]。ハカマウラボシ Aglaomorpha fortunei[注釈 22]では、普通葉でない葉は基部が最も広い、掌を直立させたように見える巣葉を作る[157]。ハカマウラボシの巣葉は早いうちに褐変し、胞子嚢をつけることなく植物体基部を保護し、腐植質や水分を蓄える[157]。
根葉
[編集]水生シダ類のサンショウモ(サンショウモ科)の葉は異形葉性を示し、水面に浮かぶ2枚の浮葉(気葉)のほかに、水中に分枝した根状の根葉(こんよう、root leaf)を持つ[158][159]。根状葉とも呼ばれる[153]。これは沈水葉の1つである[132]。
捕虫葉
[編集]食虫植物が持つ、昆虫などの動物を捕らえるように変形した葉を捕虫葉(ほちゅうよう、insectivorous leaf)という[141][160]。捕虫葉の形は様々で、様々な捕虫の方法がある[141][160]。モウセンゴケ類 Drosera の捕虫葉は葉縁や葉の表面に長い腺毛を持ち、触れると粘液を出して葉身を巻き込み虫を捕まえる[141]。ムシトリスミレやコウシンソウ(タヌキモ科)の捕虫葉は表面に腺毛と無柄の腺が密生し、前者からは粘液、無柄腺からは消化液を分泌し、虫を捕らえる[141]。
捕虫葉が嚢状に変化して、捕虫嚢(ほちゅうのう、insectivorous sac)を形成するものもある[141][161]。嚢状葉(のうじょうよう、pitcher)[126][159]または嚢状捕虫葉[162]とも呼ばれる。タヌキモ属 Utricularia の葉は葉身が小さな捕虫嚢となっており、内部を減圧することで虫を吸い込む[141]。ウツボカズラ属 Nepenthes の葉は葉の先が葉巻きひげとなり、その先が捕虫嚢となっている[141]。サラセニア属 Sarracenia では葉柄が漏斗状の捕虫嚢となっている[141]。特にムラサキヘイシソウでは、その形成過程が明らかになっている[163]。シロイヌナズナのような平面葉と同様に向背軸を規定する遺伝子が発現するが、葉の基部側の細胞分裂の方向が変化することにより、嚢状葉が形成される[163]。ウツボカズラ属やサラセニア属の捕虫嚢内部には毛が生えて虫の脱出を防いでいる[141]。
葉巻きひげ
[編集]
植物が持つ巻きひげのうち、托葉や葉柄、小葉や葉身の一部を変形させてできたものを葉巻きひげ(はまきひげ、または葉性巻きひげ[126]、leaf tendril)という[141]。バイモ(ユリ科)では上部の葉の先や葉全体が、トウツルモドキ(トウツルモドキ科)では葉の先が巻きひげとなる[141]。マメ科のソラマメ属 Vicia やレンリソウ属 Lathyrus では頂小葉が巻きひげに置き換わった羽状複葉である巻きひげ羽状複葉を形成する[77]。タクヨウレンリソウ Lathyrus aphaca では、葉身が巻きひげとなってしまった代わりに托葉が光合成器官となる[164]。
シオデ属 Smilax(サルトリイバラ科)では托葉が巻きひげとなる[141]。ボタンヅルでは葉柄、カザグルマ(ともにキンポウゲ科)では小葉柄が巻きひげとなる[141]。
ウリ科が形成する巻きひげは枝であると解釈されており[165]、数本の糸状の巻きひげ(細ひげ)が巻きひげ托と呼ばれる共通の柄によって茎に付く[166]。細ひげをつける巻きひげ托は蓋葉と側枝が合体したものであると考えられている[167]。それぞれの細ひげは葉であると考えられ、最も長い細ひげは蓋葉、それ以外の細ひげは側枝上の葉であると考えられている[167][注釈 23]。カボチャの巻きひげには、刺激感受部位の細胞に感覚膜孔(かんかくまくこう、sensitive pit)の存在が知られている[165]。
なお、葉巻きひげに対し、葉ではなく茎が変形してできた巻きひげになったものは茎巻きひげと呼ばれる[169]。
葉針
[編集]
葉針(ようしん、leaf spine/needle/thorn)は、葉全体または複葉の小葉、托葉などが硬化して鋭い突起に変形したものである[129]。光合成の機能を持たない[129]。葉針では葉身の成長が抑制され、厚壁細胞からなる中央脈のみが発達している[170]。特に托葉が変化した葉針を托葉針(たくようしん、stipular spine)という[129]。葉針に対し、茎が変化したものは茎針[129]、根が変化したものは根針といい、相似器官である[171]。
多肉植物であるサボテン(サボテン科)の刺(とげ)は葉針の一種である[129][172]。また、メギやヘビノボラズ(メギ科)では、長枝上に単一または三岐した葉針を生じ、その腋に短枝を形成し、普通葉をつける[129]。ニセアカシア(マメ科)は托葉針を持つ[129]。
多肉葉
[編集]柔細胞が多量の貯蔵物質を具え、多肉質になった葉を貯蔵葉(ちょぞうよう、storage leaf)という[141]。ユリ属 Lilium やネギ属 Allium の鱗茎(地下茎)は肥厚した貯蔵葉が集合してでき、これを構成する葉は鱗茎葉(りんけいよう、bulb leaf)と呼ばれる[141][173]。鱗茎葉は鱗片葉の一つであるとされる[125]。クロユリ(ユリ科)のもつ鱗茎葉は米粒から豆粒大の立体形をしている[141]。
多肉植物はサボテンのように葉を矮小化させるものもある一方、葉を多肉化させ、多肉葉(たにくよう、succlent leaf[174])を形成するものもある[175][176]。多肉葉はハマミズナ科、ベンケイソウ科、リュウゼツラン科、ワスレグサ科ツルボラン亜科のアロエ属などに知られる[176]。リュウゼツランやアロエの葉では、葉肉が貯水組織となっている[177]。
ハマミズナ科の葉は高度に多肉化することが多く、マツバギクやリトープス属 Lithops、コノフィツム属 Conophytum などがよく知られる[175][176]。フェネストラリア属 Fenestraria では、太い棒状の等面葉を形成する[178](#等面葉も参照)。リトープス属、コノフィツム属、フェネストラリア属などの多肉葉の頂端は葉緑体を欠く窓(leaf window)となって半透明を呈す[178]。窓はキク科のミドリノスズや弦月 Curio radicans[178]、ワスレグサ科ツルボラン亜科のハオルチア属 Haworthia[178][179]、コショウ科のペペロミア・コルメラ Peperomia columella などにも見られる[179]。このような植物は、窓植物(レンズ植物)と呼ばれる[179]。
ベンケイソウ科のクラッスラ属 Crassula では、背腹性が明瞭で背軸側に同化組織が偏っている多肉葉が球果のように密に重なり合って茎に着生する[180]。
偽葉
[編集]
アカシア属は、他のマメ科と同様に羽状複葉を持つものが見られる一方、単葉状の葉を形成する種が知られ、この葉を偽葉(ぎよう、phyllode)または仮葉(かよう)という[181][182]。ナガバアカシア Acacia longifolia やサンカクバアカシア Acacia cultriformis の成葉は扁平な偽葉、スギバアカシア Acacia verticillata には針状の偽葉が形成される[182]。これは葉身が退化し、葉柄が変化して形成されたものであると考えられている[182]。それを裏付けるように、植物体が発芽してすぐは羽状複葉を形成するが、その後に形成される葉は次第に葉柄が左右から圧し潰されたように扁平で薄い構造となり、その先端の複葉部分が退化する[182]。葉柄部分だけでなく、葉軸全体が扁平となって形成されたと考えた研究者もいる[182]。
カタバミ属 Oxalis で も仮葉は知られる[181][183]。扁平な偽葉を持つ Oxalis fruticosa や、仮葉の先端に3小葉を付ける Oxalis rusciformis などの例がある[183]。
個体発生に伴う変化
[編集]多くの植物は、成長段階により異なる形態の葉を形成する[84][138][30]。発生に伴う形態の変化はヘテロブラスティーと呼ばれ[84]、個体発生においては、実生で最初に作る子葉から始まり、シュート基部に形成される低出葉、普通葉(初生葉、成形葉)、シュート末端に形成される高出葉のように変化する[138]。このうち、子葉や低出葉、高出葉は変形葉とされる[133]。変形葉は、低出葉や高出葉のようにシュートにおいて低位置や高位置に形成されることが多い[133]。低出葉も高出葉も鱗片状で、若い器官の保護に機能する[184]。普通葉でも、幼形(juvenile form、独: Jugendform[123])の初生葉と成形(adult form; 後続形、独: Folgeform[123])の後生葉は異なることが多い[185][186]。
子葉
[編集]
種子植物胞子体の個体発生において、最初に形成される葉(葉的器官)を子葉(しよう、cotyledon)という[187][188][189]。子葉の形は通常、普通葉に比べて単純で、葉身は全縁で、葉柄は欠くか短い[189]。子葉は普通葉と違って、シュート頂分裂組織に由来する側生器官ではなく、シュート頂分裂組織が分化する以前に胚から直接発生する器官である[189][4]。種子植物の胚発生において、シュート頂分裂組織の予定領域が決定されることに伴い、それに隣接して生じる[4]。シュート頂分裂組織に由来する側生器官ではないものの、モデル植物であるシロイヌナズナの leafy cotyledon1 (lec1) 変異体の解析から、普通葉と相同であることが分かっている[4]。なお、園芸界では、双子葉植物の実生において、展開した地上生子葉または地表性子葉を双葉(ふたば)といい、それに対して普通葉を本葉(ほんば)という[190]。
かつての植物分類体系では、子葉の枚数に基づいて被子植物を子葉が2枚の双子葉類と子葉が1枚の単子葉類に分類してきたが、分子系統解析により双子葉は共有原始形質であり、系統的には正しくないことが分かっている[187]。双子葉植物の子葉は対生し、ふつう同形で主軸の子葉節につく[188]。裸子植物は多子葉性で、2本から15本の子葉を持つ[189]。双子葉類の中でも2枚の子葉が合着して擬似単子葉となるものや[191]、多子葉性を持つものも知られ、異数子葉と総称される[192]。
双子葉類の実生では、地上にある地上性子葉(ちじょうせいしよう、epigeal cotyledon)と地中にある地中性子葉(ちちゅうせいしよう、hypogeal cotyledon)が区別される[188]。なお、地上性子葉のうち、胚軸がほとんど伸長せず子葉が地表面に接する場合を地表性子葉(ちひょうせいしよう、mesogeal cotyledon)として区別することもある[193]。
単子葉類の子葉は、ネギ型、カンゾウ型、イネ科型の3型に大別される[190]。ネギ型の子葉は線形で緑色をした地表性のものであるのに対し[190]、カンゾウ型では子葉全体が地中にある[194]。イネ科では、子葉に相当する器官は胚盤(はいばん、scutellum)と呼ばれ、胚本体と胚乳の間に位置する[195][194]。胚盤は成長すると地上に出て緑色になり、幼葉鞘(ようようしょう、coleoptile)と呼ばれるが、これも子葉であるとされる[194]。胚盤や幼葉鞘は胚発生時に茎頂分裂組織とは独立に分化する[195]。
シクラメンやイワタバコ科の植物では2枚の子葉に大小の差を生じる異形子葉性(いけいしようせい、anisocotyly)を持つ[188]。特にモノフィラエア属 Monophyllaea やストレプトカルプス属 Streptocarpus(イワタバコ科)では、子葉の基部にある基部分裂組織(basal meristem)が発芽後に活性化され、子葉が永続的な発生を続ける[4][196]。
低出葉
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シュートの下部(低位)に形成される普通葉以外の葉は低出葉(ていしゅつよう、cataphyll、独: Niederblatt)と呼ばれる[138][53][45]。小さく鱗片状となっていることが多い[138]。個体発生においては、子葉に続いて、実生の上胚軸の下部に作られる鱗片葉が低出葉である[138][53]。低出葉は省略されることも多い[138]。クスノキ科のタブノキ属 Machilus、クロモジ属 Lindera[注釈 24]などの実生では、子葉の間から伸びた上胚軸が地上に出ると互生する鱗片葉を形成する[53]。この鱗片葉は次第に普通葉へ移行する[53]。
成熟時の形や機能、構造は分化しているが、普通葉と連続相同器官であると考えられている[197]。低出葉は葉身が発達せず、成形葉の発達が抑制されたものであると考えられている[138]。単子葉類や草本性の真正双子葉類では、幼植物体で地面に近い葉には葉身の成長抑制が見られ、著しい場合には鱗片葉となる[198]。形態はさまざまで[198]、鞘葉、芽鱗、芽鱗に似た托葉だけの葉といった形態が見られる[53]。鞘葉は単子葉類の茎の下部にみられる[53]。芽鱗は鱗芽をもつ木本に普通にみられる[53]。托葉だけの葉はキジムシロ属 Potentilla(バラ科)のキジムシロ、イワキンバイ、ミツモトソウなどにみられる[53]。走出枝や根茎、塊茎といった地下器官に形成される鱗片状の葉も低出葉と相同だとされる[138]。
多くの被子植物では、胚発生の後に限らず、シュート発生の際に周期的に低出葉の形成が起こる[45]。こうして作られた側枝の最下の低出葉は特に前出葉と呼ばれる[53][133]。
前出葉
[編集]前出葉(ぜんしゅつよう、prophyll, fore-leaf)は、側枝の第1節(または第1–2節)に形成された葉である[53][133][199]。プロフィルや[195]、前葉とも呼ばれる[199][200][139]。前出葉は側芽に最初に作られる葉であり、特殊な形態を示すことが多い[53][199]。単子葉類では1枚の前出葉が母軸側に生じることが多いが、双子葉類では左右に同形同大の前出葉が1対形成されることが多い[199][200]。双子葉類や裸子植物では1対の前出葉が蓋葉に対して左右方向に生じる側生前葉となることが多いのに対し、単子葉類では母軸側に形成されることが多く、向軸前葉と呼ばれる[201]。蓋葉と同じ側に重なって形成される背軸前葉は稀である[201]。
ミカン属 Citrus の葉腋に出る刺やイネ科の小穂の第一苞穎および第二苞頴(護頴[133])、スゲ属 Carex の果胞および小穂の柄の基部に生じる鞘葉は前出葉である[53]。
初生葉
[編集]
初生葉(しょせいよう、primary leaf)は、普通葉のうち、発生の早い時期に形成されるものである[138]。初生葉は一般的に、後から付く成形葉に比べて形状が単純になる[202]。低出葉に次いで形成される葉であるが、低出葉が省略された場合、子葉に続いて初生葉が形成される[138]。初生葉も低出葉と同様に、成形葉が早期に発育を停止することによって形成された抑制型であると考えられている[138]。
地下発芽を行うマメ科植物では、初生葉が最初の同化器官となる[202]。ソラマメやインゲンでは、地中性の子葉に次いでまず鱗片状の低出葉をつけ、その後葉柄と葉身が分化した初生葉を形成する[203]。ダイズでは、子葉に次いで形成される初生葉の形態は単葉であり、成形葉は三出複葉であるのと異なる葉形を示す[204]。アカシア属 Acacia の葉身を欠く偽葉を形成する種では、初生葉は葉身が発達する羽状複葉である[185][205]。
高出葉
[編集]シュートの上部に形成される花葉以外の特殊な葉を高出葉(こうしゅつよう、hypsophyll、独: Hochblatt)と呼ぶ[53]。生殖シュートにおいて、シュート頂に近づくにつれ葉の面積は減少し、形状が単純になるが、こうして形成された葉が高出葉である[138]。つまり、高出葉は必ず生殖域に属する[184]。シュート形成の末期に生じ、普通葉(成形葉)に比べ葉身の発育が抑制されることによって形成される[206][184]。主に、葉の基部だけが発達する[184]。高出葉の発達の程度は、低出葉とは逆で、末端の開花域に近づくほど大きさが小さくなる[184]。
一般に、花の付近では多かれ少なかれ異形葉性を示す[206]。高出葉は狭義には総苞片、苞、小苞などの鱗片葉が含まれるほか、広義にはシュートの上部にあって変質や退化した葉も含まれる[53]。ウスユキソウ属 Leontopodium(キク科)の頭花群の下に伸びる毛深い苞、トウダイグサ属 Euphorbia(トウダイグサ科)の杯状花序の基部にある対生葉、ネコノメソウ属 Chrysoplenium(ユキノシタ科)の花序に含まれる苞以外の黄色い部分などがその例である[53]。キンポウゲ科の多くでは、高出葉が部分的に着色して次第に花に組み込まれてゆく[184]。スイバ(タデ科)やシュロソウ(シュロソウ科)では、枝先で葉身の発育が抑制されることによって単純に小型の葉が形成される[206]。
内部形態
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trichome: 毛状突起、guard cell: 孔辺細胞、stoma: 気孔、cuticle: クチクラ層、upper epidermis: 上面表皮、palisade mesophyll: 柵状組織(葉肉)、spongy mesophyll: 海綿状組織(葉肉)、lower epidermis: 下面表皮、vascular bundle: 維管束、sheath: 維管束鞘、xylem: 木部、phloem: 篩部
棒状の概形で放射状の構造を持つ根や茎と異なり、葉は左右相称で、背腹性を持つ[207][208]。上側は向軸面、下側は背軸面と呼ばれる[207]。
葉の組織系はザックスの分類 (1875) に基づき、表皮系、基本組織系、維管束系の3つに分けられる[2][208][209][210]。葉身ではそれぞれ、表皮、葉肉、葉脈と呼ばれる[47]。
表皮系
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表皮系(ひょうひけい、epidermal system)は表皮細胞、気孔や水孔を作る孔辺細胞、毛状突起(毛、鱗片など)などの構造からなる[208][2]。表皮系は前表皮に由来する[211]。
植物体の表面はふつう1層の表皮細胞からなる表皮(ひょうひ、epidermis)で覆われる[208][211]。ただし複数の細胞層からなる表皮もあり、多層表皮(たそうひょうひ、multiseriate epidermis)と呼ばれる[208]。表皮細胞の外壁には長鎖脂肪酸または蝋を主成分とするクチクラ(cuticule)が分泌されクチクラ層(cuticular layer)を形成することで体表からの水分蒸散を防いでいる[208][212]。クチクラを構成する脂質は陸上植物の中で多様性がある[212]。コケ植物の配偶体および胞子体、小葉植物と大葉シダ植物の配偶体ではクチクラは発達しない[212]。被子植物でも、乾燥地域に生育する植物ではクチクラの発達がよい[212]。維管束植物のクチクラには疎水性細胞外生体高分子であるクチンが含まれている[212]。コケ植物のクチクラにはスベリン様の疎水性細胞外生体高分子を持つ[212]。
気孔(きこう、stoma)は2つの孔辺細胞に囲まれた小間隙で、光合成や呼吸、蒸散などのガス交換のための空気や水蒸気の通路である[208]。気孔は背軸面(下面)のみに存在することも多いが、両面にみられることもある[213]。孔辺細胞の外側にはほかの表皮細胞と異なる形態の副細胞に囲まれていることもある[213]。
大葉シダ植物や被子植物の葉において、毛や鱗片、腺などの毛状突起(もうじょうとっき、trichome)は非常に多様で、分類形質として用いられる[213][214][215]。毛は紫外線による葉肉の損傷や、気孔からの過剰な蒸散の防止、食害からの防御や耐寒性に寄与していると考えられている[215]。
基本組織系
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葉の基本組織系は葉肉(ようにく、mesophyll)と呼ばれ[2]、上下両表皮間に挟まれた柔組織からなる[177][216]。葉緑体に富み、同化やガス交換に適した組織への分化が起こっている[2][210]。葉肉は普通葉では同化組織、貯蔵葉では貯蔵組織や貯水組織からなり、鱗片葉ではほとんど発達しない[217][177]。
被子植物の典型的な普通葉では葉肉は向軸側が柵状組織、背軸側が海綿状組織に分化する[177]。柵状組織(さくじょうそしき、palisade tissue)は向軸側にあり、葉面に垂直な方向に比較的密に並んだ細胞からなる[217]。この表皮直下に1層から数細胞層を構成する細胞を柵状柔細胞(さくじょうじゅうさいぼう、palisade parenchyma cell)という[216]。海綿状組織(かいめんじょうそしき、spongy tissue)は背軸側にあり、形や並び方が不規則で、細胞間隙に富んだ組織である[217][218]。これを構成する細胞を海綿状柔細胞(かいめんじょうじゅうさいぼう、spongy parenchyma cell)といい、柵状柔細胞から背軸側表皮の間を埋めている[216]。柵状組織の厚さは陰葉より陽葉でよく発達する[218]。
表皮下にある、葉肉の最外層の1から数細胞層の組織を下皮(かひ、hypodermis)という[219]。下皮は葉緑体を持たず、多層表皮の内側の層に似ているが、発生学上表皮と異なり、葉肉と同一の起源を持つ[219]。針葉樹類の下皮は、多くは1–2層の繊維状の厚壁細胞からなる[219]。マツ属 Pinus(マツ科)、スギ(ヒノキ科)、コウヤマキ(コウヤマキ科)では気孔を除いた全周にあるが、ツガ属 Tsuga では葉の両縁部分にのみ見られる[219]。イチイ科にはない[219]。被子植物は下皮を持たないことが多いが、モチノキ属 Ilex(モチノキ科)では背軸面表皮の下に内側の葉肉細胞より少し大きな厚壁細胞からなる下皮を持つ[219]。
葉肉の最内層にあり、維管束を囲む厚壁細胞あるいは柔細胞からなる1層の表皮状の細胞層を内皮(ないひ、endodermis)という[219]。大葉シダ植物や裸子植物の葉には内皮があるが、被子植物にはない[219]。また、針葉樹類の針葉には、内皮と維管束の間に柔細胞と仮道管が入り混じった移入組織(いにゅうそしき、transfusion tissue)がある[219]。移入組織は維管束と葉肉を連絡する補助的な通道組織であると考えられる[219]。
維管束系
[編集]葉の維管束系(いかんそくけい、vascular syetem)は葉脈(ようみゃく、vein, nerve)と呼ばれる[2][210]。葉脈は茎の維管束と接続し、その部分を葉跡(ようせき、foliar trace, leaf trace)という[2]。
葉脈のうち、主脈や側脈などの太い脈は、維管束の周囲を柔細胞や厚角細胞などの支持組織が包み、背軸側に膨出した肋として現れることが多い[55]。ある程度太い葉脈では、維管束鞘(いかんそくしょう、vascular sheath)が維管束の周りを取り囲んでいるが、細い脈ではこれを欠き、1–2本の仮道管のみからなる[55]。
葉脈の維管束は、向軸側に木部、背軸側に篩部が配置することが多い[55]。ただし、複並立維管束の場合は向軸側にも篩部が現れる[55](詳細は下小節にて解説)。
内部形態から見た葉の区分
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A. 典型的な両面葉、B. 倒立した両面葉、C,D. 円筒単面葉、E. 扁平単面葉、F. 扁平な等面葉、G. 等面葉の針状葉、H. 円形の等面葉
普通葉は、内部形態から以下の3型に分けられる[107]。
両面葉
[編集]向軸面に柵状柔細胞、背軸面に海綿状柔細胞が分布し、背腹性がある普通葉を両面葉(りょうめんよう、bifacial leaf)という[71][220][60][221]。典型的な普通葉はこの両面葉である[60]。両面葉では維管束組織は並立構造で、木部は上面、篩部が下面にある[60]。
単面葉
[編集]外観では背軸側(裏面)のみが見える葉を、単面葉(たんめんよう、unifacial leaf)という[71][220][222][223]。向軸面(表側)は、基部で若い葉を包んでいる箇所の内側に存在する[224]。これは両面葉の葉身が円筒形または二つ折れとなっていると解釈される[71]。葉の残りの部分は葉柄と葉身に分化していない[225]。単面葉はユリ科、ショウブ科[注釈 26]、アヤメ科、ヒガンバナ科、イグサ科などの単子葉類の一部の種にみられる[225]。
単面葉は原則として、円筒状である[226]。円筒単面葉は、タマネギやアサツキ、ネギなどのネギ属 Allium(ヒガンバナ科)のほか、イグサ科にみられる[226][227]。
アヤメ属 Iris(アヤメ科)の葉は[71]、二次的に扁平になったと考えられ、扁平単面葉と呼ばれる[226]。扁平単面葉は正中面方向に扁平となっており[225]、円筒単面葉を左右から圧し潰した構造をしている[228]。アヤメやシャガなどの[227]、アヤメ科の各種にみられ、ショウブ(ショウブ科)のような剣状葉もこれである[228]。ネギ属でも、リーキは扁平単面葉を持つ[226]。アヤメ属は両面の表皮下に柵状組織、海綿状組織がある[219]。スイセン属 Narcissus(ヒガンバナ科)では上下表皮下に柵状組織、中央に海綿状組織がある[219]。ハナショウブ(アヤメ科)では葉身に「中央脈」と呼ばれる隆起線が1本縦走するが、両面葉の中央脈には相当しない[228]。
維管束は閉じた環状に配列し、それぞれの維管束は木部が内側を向いている[226]。そのため単面葉は、両面葉の向軸面(上面)が成長せず、葉全体が背軸面(下面)に包まれ、維管束配列の弧が閉じることでできると考えられている[226]。扁平単面葉は以下に示す等面葉とは異なり、木部を中心に向けた並立維管束が閉じた環を描く[226]。
等面葉
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発生上は維管束の特徴で背腹性が分かるが、外観では区別ができないようになっている葉は、等面葉(とうめんよう、equifacial leaf)と呼ばれる[220][227][99]。
日本で見られるアカマツやクロマツなどのマツ科の針状葉は形態から背腹を判断できるが[227]、慣習的に等面葉とされる[220][227]。なお、短枝当たりに1枚しか葉をつけないモノフィーラマツ Pinus monophylla では、ほぼ円柱状の葉を持ち、表面からの観察では裏表はわからない[227]。針葉樹類やイネ科の葉は柔細胞が葉肉中にほぼ均等に分布する[219]。等面葉の維管束は両面葉と同様に木部が上、篩部が下に配置される[60]。等面葉の葉身は鉛直に立っていることも多い[60]。
マツバボタン(スベリヒユ科)やベンケイソウ科の棒状の多肉葉は等面葉であるとされる[99]。ハマミズナ科の多肉葉の基部でも両面性を示すが(等面葉[178])、葉身部では中心に木部を向軸側に向けた太い維管束があり、それを取り囲むように木部を内側に向けた維管束が環状に配列する単面葉となる[229]。
C4植物の葉
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C4植物の葉には、維管束鞘が2重となっており、内側はメストム鞘(メストムしょう、mestome sheath)と呼ばれる[230]。これを欠くC4植物もある[125]。その外側には比較的大きな柔細胞からなる環状葉肉(かんじょうようにく、kranz)がある[230][231]。こちらは必ず存在し、葉緑体に富んでいる[125]。維管束の外側を維管束鞘が、その外側を葉肉細胞が放射状に取り囲むこの構造を、ドイツ語の「花環 Kranz」からクランツ構造(クランツこうぞう、Kranz anatomy)という[232]。それ以外の葉肉細胞では柵状柔細胞と海綿状柔細胞の区別が不明瞭である[125]。また、葉脈間の距離がC3植物に比べて短く、空気間隙も少ない[125]。
斑入り葉
[編集]本来1色である植物の組織が2種類以上の異なる色の部分があるように見える場合を斑入り(ふいり、variegation)という[233]。斑入りは葉にも見られ[233]、斑入り葉と呼ばれる[234]。斑入り葉にはいくつかの成因のものが含まれ、多くはクロロフィルの欠失により白色の部分を持つタイプのものである[234]。これはマサキやジンチョウゲ、アジサイなどで見られる[234]。
クロロフィルの欠失以外の要因による斑入りは構造斑入り(structural variegation[235])と呼ばれる[233]。表皮下細胞層に多量の空気を含む細胞間隙がある部分を持つ葉も、その部分が白色となり斑入りをなす[234][233]。細胞間隙による斑入り(air space type variegation[235])は、ユキノシタ(ユキノシタ科)やシクラメン、カンアオイの葉に知られる[234]。
表皮細胞の変形によっても斑入りは現れる[233][235]。ムラサキカタバミの葉では、表皮細胞が特に大きい部分があり、それが斑となる[234]。
クロロフィル以外の色素を持つ細胞により呈色し斑入りとなる葉もある[96][233]。タデ科のミズヒキでは上面表皮に、ミヤマタニソバは下面表皮に色素のある組織を持つ[96]。サルトリイバラ(サルトリイバラ科)やホトトギス(ユリ科)、ゼラニウム(フウロソウ科)では葉肉組織に色素を持つ[96]。
]斑入りの外見には、外縁だけが異色になる覆輪(ふくりん)、刷毛で撫でたような異色部の分布を示す掃込(はきこみ)、中央で半分が異色となる切斑(きりふ)、横に異色の筋が入る虎斑(とらふ)、縦に異色の筋が入る条斑(じょうはん)、全て異色のうぶなどが区別される[233]。
進化的起源
[編集]葉の進化的起源は系統によって異なり、コケ植物の茎葉体(配偶体)が持つ葉 (phyllid)、小葉植物の胞子体が持つ小葉[注釈 27]、そして大葉シダ植物および種子植物の胞子体が持つ大葉は独立に進化してきた[1][5][22][8]。このうちコケ植物の葉は配偶体に形成される点で、他の葉とは根本的に異なっている[21]。
維管束植物の葉は茎に側生し、有限成長性で、維管束を持ち、背腹性を持つ性質が共通する[236]。大葉は形態の変異に富み、針葉などもこれに含まれる[1]。また、大葉植物の内部系統でも、葉は最大で11回独立に進化してきたと考えられている[25]。特に、大葉シダ植物の胞子体が持つ羽葉やトクサ類の楔葉は被子植物の大葉とは異なる起源を持っていると考えられている[237]。大葉シダ植物の中ではマツバラン目では、葉を持たず、茎には葉状突起が側生する[238]。
葉の起源を含む包括的な維管束植物の形態進化はヴァルター・マックス・ツィンマーマンが提唱した仮説、テローム説によって解釈される[239][151]。古典形態学の概念では生物がある「原型」を変形させることで進化したと考えられており[注釈 28]、テローム説もその流れに則っている[241]。陸上に進出した当時の陸上植物は葉を持たず、二又分枝を行う軸的器官により植物体が構成されていた[239][236]。ツィンマーマンはそれに基づき、そういった植物は形而上学的な単位である「テローム」及び「メソム」と呼ばれる軸から体が構成されていたと考え、それが癒合や扁平化などの変形をし陸上植物の根や茎や葉を形づくったと考えた[151][241]。二又分枝の末端の枝をテローム、それ以外のテロームを繋ぐ軸をメソムと呼び、二又分枝の体制はそれらの軸を単位として構成されていたとした[241]。
また、前川文夫は葉の系統学的解釈について、自身の提唱した葉類説(ようるいせつ、concept of leaf-class)に基づいて説明しようと試みた[242]。この学説では、同じ系統発生上の起源を持つ葉を葉類(ようるい、leaf class)として類型化し、構造や機能に基づいて類型化した葉態と合わせて植物が二元的に分類された[243]。
大葉
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大葉(だいよう、または大成葉、megaphyll, macrophyll)は葉身に多数の葉脈が形成される葉である[24]。真葉(しんよう、euphyll)とも呼ばれる[244]。種子植物の大葉と大葉シダ植物のシダ類が持つ羽葉、そして大葉シダ植物のうち基部で分岐したトクサ類がもつ楔葉が大葉に含まれる[245]。これらの葉はかつては相同であると考えられたこともあったが[245]、現在では何れも進化的起源や性質が異なり、平行進化したと考えられている[22][244]。
大葉植物(特に被子植物と大葉シダ植物)の葉跡[注釈 29]の上側の髄と皮層を繋いでいる部分には一次木部細胞に接して柔細胞が形成されている[246]。大葉シダ植物の羽葉では茎から葉原基に向かって葉跡が伸長する[246]。羽葉の葉跡の上にある柔組織を葉隙(ようげき、leaf gap)と呼ぶ[246]。それに対し、被子植物の葉は葉跡が葉原基から茎に向かって伸長する求基的葉である[246][26]。被子植物の葉跡の上にある柔組織は空隙(くうげき、lacuna)と呼ぶ[246]。それぞれの葉の起源も形成過程も異なるため、葉隙と空隙は相同ではないと考えられている[246]。葉隙や空隙の存在は小葉との識別点とされてきたが、葉隙の有無は完全に系統を反映しているわけではない[24]。トクサ類や種子植物の真正中心柱では葉柄に入る葉跡が多数あり、それぞれが茎の維管束から仮軸分枝によって供給されるため葉隙はなく、メシダ科など薄嚢シダ類でも網状中心柱が小型化すると葉跡が仮軸分枝するため、見かけ上葉隙がなくなる[24]。
大葉植物の葉はテローム説における癒合および扁平化により形成されたという解釈がなされている[247][248][244]。大葉の完成には、テローム軸が癒合および扁平化することに加えて背腹性と左右相称性の獲得が必要であった[249]。現生大葉植物のステム群であるトリメロフィトン類 Trimerophytopsida では、二又分枝の2本の枝に強弱が生じ不等二又分枝を行うか、無限成長をする主軸と側軸の分化が起こり、単軸分枝するようになった[247][248]。また、側軸が平面に展開する傾向があった[248]。この2つの性質は大葉の形成途上と考えることができ[248]、葉の祖先である軸が側生器官の特徴を獲得した段階であると考えられる[249]。軸の癒合による葉面形成はトリメロフィトン類ではまだ進んでおらず、そこから派生した各系統で葉面形成が起こったと考えられている[25]。この後の進化の順番は大葉シダ植物と種子植物で違いがあり、シダ類の羽葉では、背腹性の獲得が起こってから側軸系の有限成長性の獲得が起こったのに対し、種子植物の大葉では側軸系が有限成長性を獲得してから背腹性の獲得が起こったという進化が考えられている[250]。
テローム説では二又分枝を行っていた植物が持つテローム軸が癒合し、扁平化することで大葉植物が持つ扁平な葉が形成されたと考えられているが、すでに出来上がった枝が癒合することはないため、テローム説を現代的な生物学に対応させて考えれば、複数の器官の集まりである枝系を作っていた発生遺伝子系が1つの器官である葉を作る発生遺伝子系へと進化したと解釈できる[247]。しかし、現生植物の葉でシュート頂分裂組織で機能する遺伝子制御系が機能していても、葉にシュート頂分裂組織の遺伝子系が流用されているだけかもしれないという可能性が否定できず、側枝から葉が進化した証拠としては乏しい[9]。また上記の通り、大葉は多数回起源であり、それぞれの葉形成の仕組みが共通しているとは必ずしも言えない[251]。
中期デボン紀から後期デボン紀にかけての種子植物の祖先における扁平な葉身の獲得は、葉の進化において鍵となるイベントであった[46]。この扁平な葉身は光の捕捉効率を最大化させるとともに、背腹性を獲得し、葉に向軸側と背軸側の2領域を作り出した[46]。向背軸極性を決めるのはYABBY遺伝子群とKANADI遺伝子群である[252]。YABBY遺伝子群は被子植物の葉形成に関わり現生裸子植物でも保存されているが、種子植物以外には存在しない[251][27]。そのため、大葉形成の遺伝子系は種子植物か木質植物の共通祖先でできあがった可能性がある[27]。
石炭紀以前の扁平な葉身を獲得する以前の植物では、気孔密度が小さかった[224]。かつての大気では二酸化炭素濃度が高く、気温も高かったが、当時の気孔密度のまま扁平な葉を形成して太陽光を受けたとすると、蒸散による気化作用が小さいために葉は著しい高温になったと推測される[224]。そのため、葉の扁平化を可能にしたのは、大気中の二酸化炭素濃度の低下による気温の低下という外部要因と、気孔密度の増加により葉が日光を受けてもそれほど温度上昇しなくなったためであるとされる[224]。
羽葉
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羽葉(うよう、frond)は、シダ状の形態をした大葉である[26]。現生の大葉シダ植物を構成する群のうち、羽葉を作るリュウビンタイ類、ハナヤスリ類、薄嚢シダ類でも、それぞれ独立に葉を獲得した可能性が考えられている[253]。
大葉シダ植物においては、化石植物群であるコエノプテリス類 Coenopteridales のスタウロプテリス科とジゴプテリス科では茎と羽葉の分化が不十分で、不完全な背腹性を獲得していた[254]。葉柄に当たる部分の維管束はまだ放射相称で葉態枝(ようたいし、phyllophore)と呼ばれ、分枝が進んだ頂端付近の羽軸や小羽軸で背腹性が生じる[254]。現在の大葉シダ植物が持つ羽葉では背腹性および左右相称性を獲得している[26]。
大葉シダ植物の若い羽葉はワラビ巻き(fiddlehead)と呼ばれ[10]、頂端を内側に巻いた渦巻き状(circinate)の芽内形態を示す[255]。これは薄嚢シダ類に限らず、リュウビンタイ類でも見られる[256]。ただし、ハナヤスリ科でははっきりせず、大型の葉の初期に見られる程度である[257]。
羽葉には、ハナヤスリ科などのように、立体的分枝を行うものが見られる[258][259][260]。ハナヤスリ科では、1つの葉が立体的に分枝して担栄養体(栄養小葉)と担胞子体(胞子小葉)に分化する[261][262]。担胞子体と担栄養体の共通柄の部分は担葉体(たんようたい、Phyllomophore)と呼ばれる[149]。これは、大葉化が進む過程で原始的な立体二又分枝が残されたものと見なされており[263]、コエノプテリス類の二又分枝系との関連が指摘されている[264]。薄嚢シダ類のアネミア科でもハナヤスリ類のような立体的な葉を形成する[265]。アネミア科の葉は二次的に立体的に変化したと考えられている[263]。真嚢シダ類のリュウビンタイ(リュウビンタイ科)は、葉柄の途中の小羽片や羽片の基部に関節を持ち、そこで屈曲する[266][260]。
楔葉
[編集]
トクサ類の楔葉(けつよう、sphenophyll[注釈 30])は節に輪生し、小葉のように葉跡は1本であるが、古い時代のものでは脈が又状分岐するのもあった[267][269]。
構造が単純化した現生のトクサ属のものは葉緑体を持たず光合成は行わないようになっており、葉の基部が隣同士で融合して袴状の葉鞘を作るものがある[267][270]。しかし化石植物の楔葉はそれより大型であり、プセウドボルニア Pseudobornia では2回二又分枝した軸に細かい葉片が鳥の羽状につく形態であった[270]。かつては葉隙の有無に焦点が当てられていたこともあり、葉隙ができないトクサ類の楔葉は小葉であるとされていた[271]。
小葉
[編集]
小葉(しょうよう、または小成葉、microphyll)は原生中心柱や板状中心柱から葉隙を形成せず生じ、通常1本のみの葉脈が通る葉である[23][24]。大きいものでは 50 cm を超えるものもあるが、葉の大きさにかかわらず小葉と呼ばれる[272]。
小葉植物の葉の起源は、突起仮説に基づいた解釈が有力だと考えられている[23][151]。ほかにテローム説の1つであるテローム軸の退縮説、胞子嚢を頂生する軸の退化説がある[151][152]。後二者の仮説は証拠に乏しいが、完全に否定されたわけではなく、今後の小葉類の分子発生学的研究による解明が俟たれる[151]。
突起仮説は1935年、フレデリック・バウアーによって提唱されたもので、軸の表面に生じた棘状の突起が進化の過程で大きくなり、そこに維管束が入り込むことによって形成されたとするものである[23][151][236][152]。これは化石証拠が得られている[151]。すなわち、小葉植物のステム群であるゾステロフィルム類のソードニア Sawdonia では維管束を持たない突起のみが存在し、現生小葉植物の姉妹群であるドレパノフィクス類のアステロキシロン Asteroxylon では維管束は突起の付け根まで伸び、古生リンボク目のレクレルキア Leclercqia や現生小葉植物では小葉中に1本の葉脈がみられる[23][151]。
小葉類のうち現生ではイワヒバ科およびミズニラ科、化石植物ではリンボク科などが有舌類と呼ばれ[273]、小葉の向軸側基部に小舌(しょうぜつ、ligule)と呼ばれる構造を作る[274]。
葉状突起
[編集]
大葉シダ植物ハナヤスリ亜綱のマツバラン目では、葉を持たず、茎には葉状突起(ようじょうとっき、foliar appendage)が側生する[238][275]。マツバラン属 Psilotum の葉状突起には維管束がないが、イヌナンカクラン属 Tmesipteris の葉状突起は葉隙がなく、1本の維管束が伸びている[238]。また、ソウメンシダ Psilotum complanatum では分枝した維管束が葉状突起の基部まで伸びている[275]。これは小葉植物の小葉と類似しているが、別起源である[238]。
コケ植物の葉
[編集]コケ植物の葉 (phyllid, phyllidium)[20]は、ほかの陸上植物が持つ胞子体に形成される葉とは配偶体にできる点で大きく異なり、普通1細胞層からなり、維管束がなく中肋という軸で支持され、維管束植物の葉とは起源も形態も本質的に異なるものである[1][276][21]。しかし、茎葉体の頂端細胞から切り出された派生細胞から生じる点は、維管束植物のシュート頂に形成される葉原基と類似しており、平行進化の結果と考えられる[21]。
発生
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葉はシュート頂において葉原基(ようげんき、leaf primordia)として外生的に形成され、発達する[277][2]。その発生位置によって葉の配列様式(葉序)が決定する[278]。葉原基から葉身・葉柄・托葉が分化し、同時に表皮系・基本組織系・維管束系の組織分化が進行する[2]。
多くの種子植物の葉は、頂端成長を極めて一時的に行い、多くの裸子植物や単子葉類では 0.5 mm 以下、真正双子葉類では数 mm 以下の時に頂端分裂細胞の活動を停止する[279]。その一方、大葉シダ植物の薄嚢シダ類では羽葉の頂端に頂端幹細胞を持ち、特にウラジロ科やカニクサ科では無限成長を行うことが知られている[9]。また、裸子植物でもウェルウィッチア属 Welwitschia では、子葉の後に形成される1対の帯状の本葉が永続光合成器官として、基部にある分裂組織により生涯かけて無限成長を行う[280]。
葉原基の形成
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A. 前形成層、B. 基本分裂組織、C. 葉隙、D. 毛状突起、E. シュート頂分裂組織、F. 若い葉原基、G. 拡大した葉原基、H. 腋芽、I. 発生中の維管束組織

葉は、まずシュート頂分裂組織(茎頂分裂組織、SAM)の側方に葉原基として形成される[281]。葉原基に関わる細胞の分裂と肥大によってシュート頂の外形に小さな膨らみとして発生(initiation)する[277]。種子植物のシュート頂分裂組織の細胞は外側からL1、L2、L3の3層の異なる安定的な組織層として組織化されている[281][注釈 31]。葉原基形成には外衣第1層でのオーキシン極性輸送が必須である[281]。多くの被子植物では、葉原基はシュート頂側面の表面付近の1層から数細胞層の並層分裂に由来する[278]。特に真正双子葉類では通常L2の細胞に最初の並層分裂がみられるが、イネ科などでは外側の2層の細胞分裂に由来する[278]。発生した葉原基はシュート頂に突起状に盛り上がり、葉原基突起(ようげんきとっき、leaf buttress)となる[277]。
葉原基形成の時間周期
[編集]1つの葉原基が発生してから次の葉原基が発生するまでの時間を葉間期(ようかんき、plastochron、プラストクロン)という[283][284]。対生葉序では葉原基が同時に2個形成されるため、次の1対が作られるまでの時間を葉間期とする[283]。シュート頂分裂組織から葉原基が突起すると茎頂は最小の大きさとなり、このときを最小期(さいしょうき、minimal area phase)という[285]。逆に葉原基が分離する直前の茎頂は最大の大きさになり、このときを最大期(さいだいき、maximal area phase)という[285]。スイカズラ属 Lonicera(スイカズラ科)では葉間期は1.5–5.5日であることが分かっている[285]。
葉原基形成の遺伝的基盤
[編集]モデル植物であるシロイヌナズナを用いた研究では、シュート頂分裂組織で発現している1型KNOX遺伝子(STM、SHOOT MERISTEMLESS[286])[注釈 32]が、葉原基では発現しないことが分かっており、1型KNOX遺伝子の転写が抑制されることにより有限成長を行う葉に分化すると考えられている[287]。1型KNOX遺伝子はサイトカイニン量を増やし、ジベレリン量を抑制することで細胞分裂を促進し、細胞分化を抑制することで分裂能を維持している[287]。また、葉原基とシュート頂の境界では CUP-SHAPED COTYLEDON 遺伝子(CUC)が発現し、1型KNOX遺伝子の発現境界を規定している[287]。
カワゴケソウ科では、シュートは匍匐性で平面的な根の背面や側方から生じる[288]。カワゴケソウ科のうち特にカワゴケソウ亜科では、ふつう被子植物が持つようなドーム状のシュート頂分裂組織を欠き、新しい葉はすでにある葉の基部から生じる[288][289]。カワゴケソウ亜科の一番若い葉では、ふつうシュート頂分裂組織で働く WUS (WUSCHEL) が中心で、STM が全体で発現しており、発生が進むと葉の先端で WUS と STM の発現が落ち、代わって ARP が発現し始め、葉のアイデンティティを獲得する[288][290]。
葉面の成長
[編集]葉原基ははじめ葉頂端分裂組織(ようちょうたんぶんれつそしき、apical meristem of leaf)を形成し先端成長(頂端成長、apical growth)を始めるが、大葉シダ植物以外ではすぐにその活動が衰退する[278][291][279]。次に葉原基で向背軸が決定され、それぞれの側で発現する遺伝子が互いに両者を抑制しあうことによって形成される[163]。この過程に働く遺伝子群について、1型YABBY遺伝子群の働きでシュート頂分裂の制御系が抑制され、葉のアイデンティティが付与される一方、HD-ZIPⅢ遺伝子群やKANADI遺伝子群の働きによって背腹性が確立する[278]。続いて、向軸側と背軸側両方の遺伝子の制御によって葉縁部で細胞分裂活性が高くなる[163]。それにより、向軸側と背軸側の境界部分が細胞成長し、扁平な葉面が成長する[163]。
複葉や楯状葉の形成
[編集]複葉原基では、本来シュート頂分裂組織で発現し葉原基では発現しない1型KNOX遺伝子や CUP-SHAPED COTYLEDON 遺伝子の発現がみられる[287]。そのため複葉とシュートは見かけ上似ているが、発生学的には被子植物の複葉は厳密に有限成長器官であり、発生初期にすべての頂端成長が停止する[65]。葉原基基部の周縁部 (marginal blastozone) にて1型KNOX遺伝子などの働きにより小葉原基が生じ、葉形が複雑化する[278]。
楯状葉では、裏側を規定する遺伝子が葉原基の基部では葉の表側に発現していることで細胞分裂活性の高い領域が円形になり、形成されると推定されている[163]。
単子葉類の葉の形成
[編集]イネ科などに典型的な、単子葉類の形成する細長い葉は葉原基基部に分裂組織が残り、細胞が増殖することによって最初に突起した部分を押し上げるようにして葉原基の伸長が起こる[292]。ショウブのような単面葉でも、頂端成長は早い段階で停止し、葉原基の向軸面にある活発な分裂組織により放射方向に発達して、伸長中の葉の上部での周縁成長は抑制される[225]。
ヤシ科の複葉は上記のような小葉原基の成長にはよらず、裂開(れっかい、splitting)によって形成される[108][109]。