原シナイ文字から派生した文字体系
地球上で使われている音素文字 (「アルファベット」と呼ばれることがあるが、厳密な用語法は下記参照) の大多数は、原シナイ文字から派生したものである。ラテン文字 (今日、多数の言語で表記に使っている)、類縁のヘブライ文字、アラビア文字、いわゆるルーン文字 (ゲルマン人のルーン文字とマジャル人のロヴァーシュ文字)、エチオピア文字 (ゲエズ文字)、インドの文字体系であるデーヴァナーガリー、フィリピンやインドネシアの伝統的な文字体系などがある。クリー語のカナダ先住民文字もおそらくそうである。チェロキー文字のように、こういった文字体系の外見をまねて作られたが音節を表記する体系もある。
原シナイ文字から派生したのではない音素文字体系としては、オル・チキ文字、注音符号、メロエ文字等を挙げることができる。
青銅器時代中期の音素文字で最初のものは、エジプトヒエログリフから生じた。
系統
[編集]凡例
[編集]- アブギダ、セミシラバリーをアルファベットに分類している例もある。
- 年代
- その文字体系の「誕生」のおおよその時期を表す。ただし多くの場合 (「頃」としたもの) いくらか幅があり、数世紀の幅があるものもある。場合によっては、ある文字体系が他の文字体系から発展してくる過程が何世紀にもわたる漸進的なものであることもあるので、厳密に年代を定めるのは困難である。
- 地域
- その文字体系が初めて広く使われた地域のうち、代表的な現代の国名をひとつかふたつ挙げた。若干の文字体系では、「親の文字体系」と子の文字体系の間での継承関係を、文字ごとの字形の比較から直接に確定できておらず、特定の系統に入れることには疑問の余地がある。たとえば、チベット文字やグルジア文字の場合である。ここに挙げた情報は、多くが "Ancient Scripts" ウェブサイトおよび "Omniglot" ウェブサイトを元にまとめたものだが、両者の見解が一致しない点もある。
- 文字体系名
- 太字
- 現代も使われる文字を表す。それ以外は今日ではもはや言語の表記には広く使われていない (他の文字体系を採用したため放棄された) ものも多い。
- 文字体系の日本語表記名称は、原則として#参考文献を参照している。
- 文字体系で「用例典拠なし」としたものは、注に挙げた文献で用例が見つけられなかったものである。
分類表
[編集]年代 | 地域 | 文字体系名 | |||||||||||||||||||
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0 | 紀元前2000年頃 | エジプト | ワディ・エル・ホル文字から原シナイ文字まで | ||||||||||||||||||
1 | 紀元前1200年頃 | シリア | ウガリト文字 | ||||||||||||||||||
2 | イスラエル | 原カナン文字 | |||||||||||||||||||
1 | 紀元前1000年頃 | レバノン、イスラエル | フェニキア語や古代ヘブライ語のフェニキア文字 | ||||||||||||||||||
1 | 紀元前900年頃 | シリア | アラム文字 | ||||||||||||||||||
1 | 紀元前600年頃 | インド、スリランカ | ブラーフミー文字 | ||||||||||||||||||
1 | 200年頃 | ベトナム、カンボディア | チャム文字 | ||||||||||||||||||
2 | 400年頃 | インド北部 | グプタ文字 | ||||||||||||||||||
1 | 600年頃 | シッダマートリカー文字 ※現用なし。 | |||||||||||||||||||
1 | 650年頃 | チベット | チベット文字 | ||||||||||||||||||
1 | 1269年 | モンゴル | パスパ文字 [注釈 1] | ||||||||||||||||||
2 | 1700年頃 | ブータン | レプチャ文字 | ||||||||||||||||||
1 | 1740年頃 | シッキム | リンブー文字 | ||||||||||||||||||
2 | 750年頃 | インド | ナーガリー文字 | ||||||||||||||||||
1 | 1050年頃 | インド東部、バングラデシュ | ベンガル文字 | ||||||||||||||||||
1 | 1100年頃 | インド東部 | オリヤー文字 | ||||||||||||||||||
2 | インド | デーヴァナーガリー | |||||||||||||||||||
1 | 1150年頃 | ネパール | ランジャナ文字 [注釈 2] | ||||||||||||||||||
2 | 1600年頃 | インド | モーディー文字 | ||||||||||||||||||
3 | 1500年頃 | グジャラーティー文字 | |||||||||||||||||||
4 | 686年頃 | モンゴル | ソヨンボ文字 | ||||||||||||||||||
5 | 1841年 | カナダ | クリー文字 | ||||||||||||||||||
3 | 770年頃 | パキスタン | シャーラダー文字 | ||||||||||||||||||
1 | 1539年頃 | パキスタン、インド北部 | グルムキー文字 | ||||||||||||||||||
3 | 400年頃 | インド南部 | ヴァッテルットゥ文字 [注釈 3] | ||||||||||||||||||
1 | 600年頃 | カンボジア | クメール文字 | ||||||||||||||||||
1 | 1283年 | タイ | タイ文字 | ||||||||||||||||||
1 | 1350年頃 | ラオス | ラオ文字 | ||||||||||||||||||
2 | 700年頃 | ビルマ | モン文字 | ||||||||||||||||||
1 | 1050年頃 | ビルマ文字 | |||||||||||||||||||
3 | 775年頃 | インドネシア | カウィ文字 [注釈 4] | ||||||||||||||||||
1 | 900年頃 | ジャワ文字 | |||||||||||||||||||
2 | 1000年頃 | バリ文字 | |||||||||||||||||||
3 | 1300年頃 | バタク文字 | |||||||||||||||||||
4 | フィリピン | タガログ文字 | |||||||||||||||||||
5 | タグバヌワ文字 | ||||||||||||||||||||
6 | 1600年頃 | インドネシア | ブギス文字(ロンタラ文字) | ||||||||||||||||||
7 | 不明 | ルジャン文字 | |||||||||||||||||||
4 | 450年頃 | インド南部 | カダンバ文字 | ||||||||||||||||||
1 | 1500年頃 | カンナダ文字 | |||||||||||||||||||
2 | テルグ文字 | ||||||||||||||||||||
5 | グランタ文字 | ||||||||||||||||||||
1 | 700年頃 | スリランカ | シンハラ文字 | ||||||||||||||||||
1 | 1100年頃 | モルディブ | ディヴェ文字 [注釈 5] | ||||||||||||||||||
2 | 700年頃 | インド、スリランカ | タミル文字 | ||||||||||||||||||
1 | 1900年年頃 | インド南部 | サゥラーシュトラ文字 [2] | ||||||||||||||||||
3 | 1100年頃 | マラヤーラム文字 | |||||||||||||||||||
6 | 500年頃 | 中国西部 | トカラ語の文字体系 [注釈 6] | ||||||||||||||||||
7 | 紀元後1250年頃 | インド東部 | アーホム文字 | ||||||||||||||||||
2 | 紀元前300年頃 | イスラエル | 方形ヘブライ文字 | ||||||||||||||||||
3 | 紀元前250年頃 | ペルシア | パフラヴィー文字(中期ペルシア語の文字体系) [注釈 7] | ||||||||||||||||||
1 | 紀元後400年頃 | 中国北西部 | 中期ペルシア語訳旧約詩篇断片のパフラヴィー文字 [注釈 7] | ||||||||||||||||||
2 | 紀元後400年頃-600 | ペルシア | アヴェスタ文字 | ||||||||||||||||||
4 | 紀元前250年頃 | パキスタン、アフガニスタン | カローシュティー文字 | ||||||||||||||||||
5 | 紀元前200年頃 | イラン | パルティア文字 | ||||||||||||||||||
6 | 紀元後1年頃 | シリア、イラク | シリア文字 | ||||||||||||||||||
1 | 100年頃 | ウズベキスタン | ソグド文字 | ||||||||||||||||||
1 | 100年頃 ? | グルジア | グルジア文字 | ||||||||||||||||||
2 | 500年頃 | モンゴル | 突厥文字 | ||||||||||||||||||
1 | 900年頃 | ハンガリー | ロヴァーシュ文字 [注釈 8] | ||||||||||||||||||
3 | 700年頃 | 中国北西部 | ウイグル文字 | ||||||||||||||||||
1 | 1100年頃 | モンゴル | 蒙古文字 | ||||||||||||||||||
1 | 1599年 | 中国東北部 | 満洲文字 | ||||||||||||||||||
2 | 1649年 | 中国北西部 | トド文字 | ||||||||||||||||||
7 | 紀元後50年頃 | ヨルダン | ナバテア文字 | ||||||||||||||||||
1 | 400年頃 | ヨルダン、アラビア北部 | アラビア文字 | ||||||||||||||||||
1 | 1300年頃 | マレーシア、ブルネイ | ジャウィ文字 | ||||||||||||||||||
8 | 紀元後100年頃 | イラン | マンダ文字 | ||||||||||||||||||
2 | 紀元前600年頃 | イスラエル | サマリア文字 | ||||||||||||||||||
3 | 紀元前800年頃 | アナトリア | 小アジアの文字体系 | ||||||||||||||||||
4 | ギリシア | ギリシア文字 | |||||||||||||||||||
1 | 紀元前750年頃 | ギリシア、イタリア | カルキス文字 | ||||||||||||||||||
1 | 紀元前725年頃 | イタリア | エトルリア文字 | ||||||||||||||||||
1 | 紀元前700年頃 | ヴェネト文字 | |||||||||||||||||||
1 | 紀元後150年頃 | ドイツ、スカンジナビア | ルーン文字 | ||||||||||||||||||
2 | 紀元前600年頃 | イタリア | ラテン文字 | ||||||||||||||||||
1 | 紀元前400年頃 | ファリスク文字 | |||||||||||||||||||
3 | 紀元前600年頃 | オスク文字 | |||||||||||||||||||
2 | 紀元前550年頃 | メッサピア文字 | |||||||||||||||||||
2 | 紀元前200年頃 | エジプト | コプト文字 | ||||||||||||||||||
3 | 紀元後350年頃 | ウクライナ | ゴート文字 | ||||||||||||||||||
4 | 405年 | アルメニア | アルメニア文字 | ||||||||||||||||||
5 | 863年 | ブルガリア | グラゴル文字 | ||||||||||||||||||
1 | 900年頃 | キリル文字 | |||||||||||||||||||
1 | 1372年 | シベリア | 古ペルム文字 | ||||||||||||||||||
2 | 1865年 | アブハジア | アブハズ文字 ※用例典拠なし [注釈 9] | ||||||||||||||||||
5 | 紀元前600年頃 | スペイン、ポルトガル | イベリア文字(イベリア語の文字体)[注釈 10] | ||||||||||||||||||
1 | 紀元前500年頃 | スペイン北部 | ケルトイベリア語のイベリア文字 [注釈 11] | ||||||||||||||||||
6 | 紀元前250年頃 | アフリカ北西部 | ティフナグ文字 | ||||||||||||||||||
3 | 紀元前900年頃 | エチオピアとアラビア南部 | 南アラビア文字 | ||||||||||||||||||
1 | 紀元前500年頃 | エチオピア | 古エチオピア文字 | ||||||||||||||||||
1 | 紀元後300年頃 | エチオピア文字 |
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ Gari Ledyard など一部の研究者は、ハングルの子音の符号が初期のパスパ文字の影響を受けていることを示唆している。より詳細な情報はen:Gari Ledyardの項を参照。
- ^ 広義のネワール文字のひとつ[1]
- ^ 「パッラヴァ文字」という表現は、パッラヴァ朝期の種々の文字体系をさすこともあり、また、ブラーフミー文字からヴァッテルットゥ文字やグランタ文字が派生していく途中のものや、後2者にまたがるものを指すこともあるように思われる。なので使わない。
- ^ カウィ文字:インドネシア語版 id:huruf kawi or id:huruf Jawa-Kuno、英語版 en:Kawi script or en:Old Javanese script .
- ^ ディヴェ文字はターナ文字ではない。ターナ文字はアラビア文字の系統で ca. 18 ct.以降、現用。
- ^ ブラーフミー文字を借用。一部の字母を転用など。
- ^ a b バフラヴィ語は中期ペルシア語の俗称 (「パフラヴィ」という語は「パルティア」と同語源)。中期ペルシア語を表記するのに用いられたアラム文字の借用。パルティア文字、コレズム文字、ソグド文字も同様にアラム文字の借用。cf.河野他編:2001,pp.749ff.
- ^ ロヴァーシュ文字とはまた別の「東ヨーロッパのルーン文字」と思われる。
- ^ アブハズ語の表記は、1862?- キリル文字基盤の文字(ここで言っているアブハズ文字)、1928- ラテン文字、1938- グルジア文字、1954- キリル文字。[3]
- ^ 南部イベリア文字のことか?
- ^ 東部イベリア文字のことか、特にケルトイベリア語表記するものだけを分けたのかが不明。
出典
[編集]- ^ Rañjaña. ca. 11 ct. cf.河野他編:2001,pp.714f.
- ^ 坂本恭章 (1989年9月). 亀井孝・河野六郎・千野栄一編著. ed. 「サゥラーシュトラ語」. 言語学大辞典. 第2巻 世界言語編(中). 三省堂. p. 12-13. ISBN 4-385-15216-0
- ^ 中川章 (1988年3月). 亀井孝・河野六郎・千野栄一編著. ed. 「アブハズ語」. 言語学大辞典. 第1巻 世界言語編(上). 三省堂. p. 236. ISBN 4-385-15213-6