密着閉包
数学の可換環論における密着閉包(みっちゃくへいほう、英: tight closure)とは、正標数の環のイデアルに対して定義されるある操作である。メルビン・ホッシュター[訳語疑問点]とクレイグ・ハネク[訳語疑問点]によって考案された[1]。
を可換なネーター環で標数 の体(したがって は素数)を含むものとする。
を のイデアルとする。
の密着閉包 とは、 を含む のイデアルで次のように定義されるものである[2]。
- であるのは、 のどの極小素因子にも含まれないある が存在して、全ての に対して が成り立つとき、かつそのときに限る。 が被約環のときは、全ての に対して、としてもよい。
ここで は の元の ベキで生成される のイデアルで、 の 次フロベニウス冪[訳語疑問点]という。
が成り立つとき、このイデアルは密着的閉(tightly closed)という[2]。 全てのイデアルが密着的閉である環は弱 正則(weakly -regular, フロベニウス正則の意)という[2]。また、環の任意の局所化が弱 正則であるとき 正則という[2][3]。
かつては密着閉包の操作と局所化が交換可能かどうかが大きな未解決問題だったが、Brenner & Monsky (2010) が反例を見つけた。しかし、全ての弱 正則環が 正則かどうか、つまり環の全てのイデアルが密着的閉ならばその環の任意の局所化の任意のイデアルもまた密着的閉かどうか、という問題はまだ未解決である[3]。
脚注
[編集]- ^ Melvin Hochster and Craig Huneke (1988, 1990)
- ^ a b c d 橋本 2008, p. 15.
- ^ a b Brenner & Monsky (2010, p. 572)
参考文献
[編集]- Brenner, Holger; Monsky, Paul (2010), “Tight closure does not commute with localization” (PDF), Annals of Mathematics, Second Series 171 (1): 571–588, arXiv:0710.2913, doi:10.4007/annals.2010.171.571, ISSN 0003-486X, MR2630050
- Hochster, Melvin; Huneke, Craig (1988), “Tightly closed ideals”, Bulletin of the American Mathematical Society, New Series 18 (1): 45–48, doi:10.1090/S0273-0979-1988-15592-9, ISSN 0002-9904, MR919658
- Hochster, Melvin; Huneke, Craig (1990), “Tight closure, invariant theory, and the Briançon–Skoda theorem”, Journal of the American Mathematical Society 3 (1): 31–116, doi:10.2307/1990984, ISSN 0894-0347, JSTOR 1990984, MR1017784
- 橋本, 光靖 (2008年). “不変式環の環論的性質” (PDF). 2021年11月14日閲覧。