工業型農業

工業型農業(こうぎょうがたのうぎょう、英語: Industrial farming)とは、農産物畜産物魚介類を産業的に生産する近代的な農業体系を指す。 工業型農業の用いる手法には、科学技術的・経済的・政治的なものが含まれる。この分野は、農業機械と農業技術のイノベーション・遺伝子工学・経済的生産規模拡大の技術・新しい消費市場の創造・遺伝子情報の特許権保護・国際貿易などを含む。これらの手法は先進国にて幅広く普及している。スーパーマーケットで販売されるような食肉・乳製品・卵・果実・野菜などの大部分は、これらの工業型農業の手法を用いて生産されている。

歴史的発展と今後の展望

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工業型農業の誕生は、多かれ少なかれ産業革命とつながりがある。植物生長に重要な3要素である窒素・リン・カリ(NPK)の発見により、肥料を化学的に合成することが可能となったことで農業の可能性は大きく広がった。 20世紀の最初の20年には、ビタミン発見、動物における栄養素の効用解明が起こり、ビタミンサプリメントの誕生に繋がった。それにより1920年代には、一部の家畜について室内生育が可能となり、家畜を自然の脅威に晒すリスクを減少させた。 さらに抗生物質ワクチンの発見により、密集により家畜が病気になるリスクを減少させ、家畜の室内飼育を加速させた。

世界の農業生産は、1820年~1975年の間に4倍となり[1]、1800年には100万人だった世界人口を2002年には65億人まで養えるようになった[2]。 生産性も向上し、米国の農業労働者は1930年代には人口の24%であったが2002年には1.5%まで減少、1940年では一人の農民あたり11人の消費者を支えていたが、2002年には90人を支えるまでになった[2]。農家の数も減少しており、農地所有も集約化が進んでいる。全米農業労働組合によると垂直統合が進み、米国の屠殺業務はある4企業が、牛の81%・羊の73%・豚の51%・鳥の50%のシェアを持っているという[3]。 全米豚肉生産者委員会によると、米国の養豚所は1967年には100万施設あったが、2002年には11,400施設まで集約され[4] 、各施設にて毎年8億頭の豚が処理されているという[2]。 Worldwatch Institute によると、全世界の家畜の74%・牛肉の43%・卵の68%がこのような形で生産されているという[5]

イギリス農業革命

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16世紀から19世紀半ばにかけて、英国では農業革命により農業の発展をとげ、農業生産性と生産量が飛躍的に増加した。これにより前例のない人口増加が可能となり、また多くの労働力が農業セクターより解放され、そのことが後の産業革命につながった。起源については完全には解明されていない。近年の歴史家は、農作業における4つの要素、囲い込み機械化四輪作品種改良といった変化によるという説が、ある程度支持されている[6]

影響

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利点

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人口増加

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推定世界人口(紀元前一万年~2000年)

安価に大量の食料生産が可能になったため、多くの人口を養う事が可能となった。

大まかな概要:

  • 30,000 年前の狩猟採集社会では 600万人
  • 3,000 年前の原始的農業では、6000万人
  • 300 年前の集約農業では、6億人
  • 今日の 工業型農業では、60億人を養う試みが続いている
世界人口の推計(単位:千人)
世界人口 アフリカ アジア ヨーロッパ 中米南米 北米* オセアニア 脚注
8000 BCE 8 000 [7]
1000 BCE 50 000 [7]
500 BCE 100 000 [7]
1 CE 200,000 plus [8]
1000 310 000
1750 791 000 106 000 502 000 163 000 16 000 2 000 2 000
1800 978 000 107 000 635 000 203 000 24 000 7 000 2 000
1850 1 262 000 111 000 809 000 276 000 38 000 26 000 2 000
1900 1 650 000 133 000 947 000 408 000 74 000 82 000 6 000
1950 2 518 629 221 214 1 398 488 547 403 167 097 171 616 12 812
1955 2 755 823 246 746 1 541 947 575 184 190 797 186 884 14 265
1960 2 981 659 277 398 1 674 336 601 401 209 303 204 152 15 888
1965 3 334 874 313 744 1 899 424 634 026 250 452 219 570 17 657
1970 3 692 492 357 283 2 143 118 655 855 284 856 231 937 19 443
1975 4 068 109 408 160 2 397 512 675 542 321 906 243 425 21 564
1980 4 434 682 469 618 2 632 335 692 431 361 401 256 068 22 828
1985 4 830 979 541 814 2 887 552 706 009 401 469 269 456 24 678
1990 5 263 593 622 443 3 167 807 721 582 441 525 283 549 26 687
1995 5 674 380 707 462 3 430 052 727 405 481 099 299 438 28 924
2000 6 070 581 795 671 3 679 737 727 986 520 229 315 915 31 043
2005 6 453 628 887 964 3 917 508 724 722 558 281 332 156 32 998**

工業型農業によって安価で豊富な食品を提供できた例の一つは米国であり、「世界の国の中で最も成功した工業型農業の開発プログラム」とされる。1930年~2000年の間、米国の農業生産性(成果を投入で割った値)は毎年平均で2%のペースで上昇し続け、消費者の食料購入価格は減少していった。「米国家庭における可処分所得における食料費の割合は、1950年は22%であったが、20世紀末には7%まで減少した」[9]

代償

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経済

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環境

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社会

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持続可能な農業

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脚注

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出典

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  1. ^ It doubled between 1820 and 1920; between 1920 and 1950; between 1950 and 1965; and again between 1965 and 1975. Scully, Matthew. Dominion, St. Martin's Griffin, p. 29.
  2. ^ a b c Scully, Matthew. Dominion, St. Martin's Griffin, p. 29.
  3. ^ Testimony by Leland Swenson, president of the U.S. National Farmers' Union, before the House Judiciary Committee, September 12, 2000.
  4. ^ Shen, Fern. "Md. Hog Farm Causing Quite a Stink," The Washington Post, May 23, 1999; and Plain, Ronald L. "Trends in U.S. Swine Industry," U.S. Meat Export Federation Conference, September 24, 1997, cited in Scully, Matthew. Dominion, St. Martin's Griffin, p. 29.
  5. ^ "State of the World 2006," Worldwatch Institute, p. 26.
  6. ^
  7. ^ a b c an average of figures from different sources as listed at the US Census Bureau's Historical Estimates of World Population
  8. ^ The range of figures from different sources as listed at the US Census Bureau's Historical Estimates of World Population put the population at 1 AD between 170 million to 400 million.
  9. ^ U.S. Agriculture in the Twentieth Century by Bruce Gardner, University of Maryland Archived 2013年9月28日, at the Wayback Machine.

外部リンク

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