えぶり
えぶり(柄振、朳)は、日本の農具のひとつ。長い柄の先に横板を付けたものであり、田植え前に田面を擦り、地面をならすためにするために用いるのが一般的な用法である[1]。この作業のことを「えぶりすり」と呼ぶ[2]。また、穀物をかき寄せるためにも用いる[3][4]。また、金属製のえぶりを炭窯から炭をかき出すために用いることがある[4]。「えぶり」の名称は、すでに承平4年(934年)ごろ成立したとされる、十巻本『和名類聚抄』にみることができる[3]。
また、えぶりは農村における各種の祭事にもちいられることがある。えぶりが芸能に用いられた例は、すでに『今昔物語集』二八「近江国矢馳郡司堂供養田楽語」に確認することができ、東北地方には「えんぶり」と呼ばれる正月の予祝芸能がのこる[5][6]。また、広島県北西部には「えぶりさし」と呼ばれる習俗が存在し、田植えの終わりから半夏生の日までえぶりを田に立てておく[7]。
習俗
[編集]えぶりさし
[編集]芸北(広島県北西部)では、田植えが終わったあとのはんげ(半夏生)の日まではさんばい様(田の神)が田畑にいるとして、下肥を撒くことを控える[8][7]。さんばい様はムナクト(田の吐水口)から帰るといわれているため、この間、田植えが最後に終わった田にえぶりを立てておく。このことを「えぶりさし」と呼ぶ。山県郡新庄村の記録によれば、さんばい様はその後麻畑に移り、七夕に天に戻るため、その間は麻畑への下肥の施肥を控えるという[7]。
えんぶり
[編集]東北地方、特に青森県八戸市を中心に三戸郡、岩手県北上市、九戸郡方面には、「えんぶり」と呼ばれる行事が伝わっている。特に、八戸のえんぶりは国の重要無形民俗文化財に指定されている[6]。田植踊の一種であり、「えんぶり組」という踊り子の集団が町内を廻り、稲の耕作のさまを踊で表現する[5][6]。
出典
[編集]- ^ 河野通明. “農耕用具”. 神奈川大学国際常民文化研究機構. 2024年2月20日閲覧。
- ^ 精選版 日本国語大辞典『朳摺』 - コトバンク
- ^ a b “朳/柄振(り)(えぶり)とは? 意味・読み方・使い方をわかりやすく解説 - goo国語辞書”. goo辞書. 2024年2月20日閲覧。
- ^ a b 精選版 日本国語大辞典『朳・柄振』 - コトバンク
- ^ a b 三隅治雄「朳」『国史大辞典』吉川弘文館。
- ^ a b c 日本大百科全書(ニッポニカ)『えんぶり』 - コトバンク
- ^ a b c 新藤久人『広島県の農村に於ける年中行事 第1巻 (田植とその民俗行事)』年中行事刊行後援会、1956年、285頁。doi:10.11501/9541964。
- ^ 村岡浅夫『広島県民俗資料 1』小川晩成堂、1967年、26頁。doi:10.11501/9573489。