男の編み物、橋本治の手トリ足トリ
『男の編み物、橋本治の手トリ足トリ』(おとこのニット、はしもとおさむのてトリあしトリ)[注 1]は、作家の橋本治がセーターの編み方を解説した本。1983年に河出書房新社より出版された。
出版の経緯
[編集]1980年代に男性編み物ブームがあり[1]、男性が挑戦する編み物コンテストのテレビ番組も放送された[1]。
作家の橋本治は、大学生だった1970年前後からセーターを編み始め[2]、元祖編み物男子とも評されている[1]。
橋本が「桃尻娘」シリーズの一編を発表した「小説現代」1978年12月号に「私のコレクション オリジナルセーター」というグラビアが掲載され、橋本のニットコレクションが初めて披露された[3][4]。その後「編み物作家」の肩書きがつき[4]、毎年秋から冬に雑誌の取材依頼が数件入るようになった[4]。「週刊宝石」1982年12月17日号では「毛糸と針の錬金術師 橋本治のニット展覧会」と題して8ページの特集が組まれた[3][5]。この記事を河出書房新社の編集者、小池信雄に見せたところ、『男の編み物』の刊行につながった[3][5]。
概要
[編集]担当編集者は小池信雄[6]。装丁は早川タケジ[7]。早川はカラーページのディレクションを全て手がけた[8]。
編み初めの目を作るところから[2]、写真ではわかりにくいところが絵で説明されている[9]。イラストを頼むための絵コンテづくりが面倒になり、橋本自身が図を描いた[2]。
デヴィッド・ボウイ[10]、沢田研二[10]、山口百恵[11]、マリリン・モンロー[11]、歌舞伎の世界などの絵柄が編み込まれたセーターが掲載された[11]。
橋本の本の中でも3万部という反響を得て[12]、 1989年には新装版が出版された[11]。
書籍情報
[編集]- 橋本治『男の編み物、橋本治の手トリ足トリ』河出書房新社、1983年11月。全国書誌番号:21888972。
- 橋本治『男の編み物、橋本治の手トリ足トリ』(新装版)河出書房新社、1989年12月。ISBN 4-309-26123-X。 - ハードカバー
評価
[編集]編集者の河野通和は、『男の編み物』が編み物に関心のない男たちに向けて編み物の面白さを教え、男たちが編み物を「発見」するきっかけになったこと、編み物を知った気になっている女たちに向けて「本当にそうなのか」という問いを投げかけ、新たな提案をしていることを指摘し、橋本の「作家としての戦略性や、立ち位置のとり方、腹のくくり方がはっきりと見えた」と述べている[10]。
ニット作家の編み物☆堀ノ内は『男の編み物』に大きな影響を受けたと述べている[13] [14]。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ タイトルの「編み物」には「ニット」とルビがついている
出典
[編集]- ^ a b c 「手芸シニア男子急増中 リケダンが編み物にハマる」『週刊朝日』第125巻第54号、2020年10月16日、118頁、大宅壮一文庫所蔵:000054172。
- ^ a b c 「セーターが全部手製の時もありました。」『月刊カドカワ』第1巻第8号、1983年12月、5頁、大宅壮一文庫所蔵:300017459。
- ^ a b c 神奈川文学振興会 2024, p. 56.
- ^ a b c 橋本 1984, p. 29.
- ^ a b 橋本 1984, p. 30.
- ^ “ほぼ日の学校 橋本治をリシャッフルする 講師紹介 小池信雄さん”. 2024年4月28日閲覧。
- ^ 神奈川文学振興会 2024, p. 15.
- ^ 橋本 1984, p. 40.
- ^ 橋本 1984, p. 34.
- ^ a b c “ほぼ日の学校 新講座予告 橋本治を忘れない 1 いま、なぜ橋本治さんなのか?” (2019年11月26日). 2024年4月28日閲覧。
- ^ a b c d 「編む男の巻 毛糸に託す創造の楽しさ(人・7人のサムライ)」『朝日新聞』1989年10月21日、夕刊、3面。
- ^ 「人間スクランブル 冗談マジメがバカウケ 全共闘世代の落ちこぼれ・橋本治の“軽チャーっぽさ”感覚って何だ 自称・36歳のゲテモノは編みものに凝って」『週刊現代』第26巻第17号、1984年4月28日、48-49頁、大宅壮一文庫所蔵:100023737。
- ^ “家庭機で編むユニークなグラフィックニット、『編み物☆堀ノ内』さんインタビュー ”. Knittingbird (2017年7月3日). 2024年4月28日閲覧。
- ^ “家庭用編み機を駆使して個性的なニットを製作する「編み物☆堀ノ内」って何者?”. FASHIONSNAP (2022年2月8日). 2024年4月28日閲覧。
関連文献
[編集]- 『チャレンジニット男が編む!!』日本ヴォーグ社、1982年10月。全国書誌番号:21886855。 - 巻頭に橋本治のエッセイがある
- 『チャレンジニット男が編む!! 2冊め』日本ヴォーグ社、1983年10月。全国書誌番号:21888952。 - 巻頭に橋本治のエッセイがある
- 『チャレンジニット 編む男のセーターブック 3冊め』日本ヴォーグ社、1984年9月。全国書誌番号:21893340。
- 『チャレンジニット 4冊め』日本ヴォーグ社、1985年。ISBN 4-529-01016-3。
参考文献
[編集]- 橋本治「セーター騒動顛末記」『広告批評』第59号、1984年4月、28-43頁、大宅壮一文庫所蔵:200194699、NDLJP:1853024/16。
- 公益財団法人神奈川文学振興会 編『帰ってきた橋本治 展』県立神奈川近代文学館・公益財団法人神奈川文学振興会、2024年3月30日。国立国会図書館書誌ID:033406356。