薔薇十字団

『薔薇十字の目に見えない学院』(The Temple of the Rose Cross),テオフィルス・シュヴァイクハルト,1628年

薔薇十字団ばらじゅうじだん: Rosenkreuzer、ローゼンクロイツァー)は、17世紀の初頭にドイツで宣言書を発表した友愛組織。この宣言書では、クリスチャン・ローゼンクロイツという謎の人物によって15世紀に創設された秘密の組織であるとされている。宣言書の主旨は、ヨーロッパの学者と統治者に宛てた改革の訴えであり、秘密の知識を公開することを申し出ていた。その内容には、キリスト教神秘主義新プラトン主義パラケルススの思想の影響が見られる。宣言書の作者は、テュービンゲン大学神学医学哲学を研究していた若手の集団であり、その中心人物はヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエ(1586-1654)であると推測される。この宣言書は当時の人々に大きな衝撃を与え、ヨーロッパ中に熱狂と論争が巻き起こった。

概要

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The Rose and the Cross: 薔薇が象徴的に描かれた薔薇十字文書『至高善』の扉絵

1614年神聖ローマ帝国ドイツ)のカッセルで刊行された著者不明の怪文書『全世界の普遍的かつ総体的改革』とその付録『友愛団の名声』(Fama Fraternitatis、ファーマ・フラテルニタティス)で初めてその存在が語られ、一気に全ヨーロッパで知られるようになる。ただし、この『友愛団の名声』の原文は、正式出版前の1610年頃から出回っていたとされる。そこには、人類を死や病といった苦しみから永遠に解放する、つまり不老不死の実現のために、120年の間、世界各地で活動を続けてきた「薔薇十字団」という秘密結社の存在や、それを組織した創始者「R・C」あるいは「C・R・C」、「クリスチャン・ローゼンクロイツ」と呼ばれる人物の生涯が克明に記されていた。

1615年、同じくカッセルで、『友愛団の信条』(Confessio Fraternitatis、コンフェッシオ・フラテルニタティス)が出版される。それはドイツ語ではなくラテン語によって書かれ、『友愛団の名声』によって宣言された「教皇制の打破による世界改革」を、さらに強調するものであった。

1616年、小説『化学の結婚』がシュトラースブルクで出版される。著者はヨハン・ヴァレンティン・アンドレーエだといわれている。そこには深遠な錬金術思想が書かれており、この文書に登場するクリスチャン・ローゼンクロイツこそ、先の2つの文書に書かれていた創始者「C・R・C」(クリスチャン・ローゼンクロイツ)であると考えられた。

フランセス・イェイツによれば、これらの背景には薔薇すなわちイングランド王家をカトリックハプスブルク皇帝家の支配からの救世主として迎え入れようとする大陸諸小国の願望があったという。なお、前述の怪文書の刊行から4年後の1618年にドイツを舞台とした宗教戦争である「三十年戦争」が勃発している。

1623年には、フランスパリの街中に、「我ら薔薇十字団の筆頭協会の代表は、賢者が帰依する、いと高き者の恩寵により、目に見える姿と目に見えない姿で、当市内に滞在している。われらは、本も記号も用いることなく滞在しようとする国々の言葉を自在に操る方法を教え導き、我々の同胞である人類を死のあやまちから救い出そうとするものである。──薔薇十字団長老会議長」という意味不明な文章が書かれた貼紙が一夜にして貼られるが、結局、犯人は不明であった。

薔薇十字団は、始祖クリスチャン・ローゼンクロイツの遺志を継ぎ、錬金術魔術などの古代の英知を駆使して、人知れず世の人々を救うとされる。起源は極めて曖昧だが中世とされ、錬金術師やカバラ学者が各地を旅行したり知識の交換をしたりする必要から作ったギルドのような組織の1つだとも言われる。

薔薇十字団の存在はやがて伝説化し、薔薇十字団への入団を希望する者だけでなく、薔薇十字団員に会ったという者や、薔薇十字団員を自称するカリオストロサンジェルマン伯爵などの人物が現れた。また、18世紀にはフリーメーソンの内部とその周辺において、19世紀から現在までは神秘学秘教の分野において、薔薇十字団を名乗る団体と「バラ十字の伝統」を継承していると述べる団体が多数現れている。

この流れのほかにも人智学から派生した「薔薇十字団」が南ドイツに現在でも存在している。本家からは完全に独立し、ある村の片田舎で毎週日曜日の午前中にはキリスト教ミサ礼拝に似た儀式を独自に繰り広げている。

18世紀の後半には、「薔薇十字の位階」と呼ばれる段位がフランスのフリーメーソンの制度の中に現れた。これは当時のフリーメーソンの思想に薔薇十字思想が影響を与えていたことを示している[1]

フィクション上の薔薇十字団

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薔薇十字団は様々なフィクション作品で取り扱われている。

登場する作品

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漫画作品

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ゴルゴ13(著:さいとう・たかを
1968年頃に発表された初期作品では、ゴルゴ13を狙う暗殺集団として捉えられている。作品中の記述には「1968年以降活動の記録は無い」とある。
Weiß kreuz Glühen/ヴァイス クロイス グリーエン(原案:子安武人
Weißを狙う暗殺集団だけがシュワルに倒される。
D.Gray-man(作者:星野桂
作品内のエクソシストたちが属している教団のモデル
メタルK(作者:巻来功士
遺伝子操作によるキメラ「人間兵器(ウエポノイド)」による世界征服を目指していると思われる組織。
ミステリオン(作者:あずみ椋
クリスチャン・ローゼンクロイツの死の原因になった主人公を時代や国を越えて追う。
ローゼンメイデン(作者:PEACH-PIT
詳しくはローゼンメイデンの登場人物一覧を参照。
パタリロ!(著:魔夜峰央
白魔術師の結社として登場。占い師ザカーリとタマネギ部隊の「霊感青年」こと44号を輩出している。
ファイブスター物語(著:永野護
惑星ボォスの秘密結社「ローゼンクロイツ(薔薇十字団)」という麻薬取引などを行う組織が登場。
13月の悲劇(著 美内すずえ
1971年に『別冊マーガレット』に掲載された。主人公の少女が転校させられた全寮制の「聖バラ十字学校」。規律の厳しい学校だと思われたが、実は悪魔崇拝を行い、学校のシスターや卒業生も魔女で、世界中に影響力を持っていた。
ヒミツの薔薇十字団(著:英貴
ローゼン・クロイツ(作中では女性)の生まれ変わりとされる女子高校生を主人公に、現代に残る薔薇十字団と遺された「Mの書」を巡る物語。
東京ミュウミュウあ・ら・もーど(作者:征海未亜
作中に登場する謎の組織『聖薔薇騎士団』(セントローズクルセイダーズ)のモデルだと思われる描写がある。

小説作品

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弾丸少年(著:小林弘利)- ジュブナイル
構成員の中で最も優れていたとされる死者H.G.ウェルズを蘇生装置でたたき起こして首魁として担ぎ上げ、その意志のまま世界の滅亡を企む組織として描かれる。本来の目的は「世界を治癒」することだったが、その目的は無理矢理蘇生されたヴェルヌのために歪み「世界は治癒が不可能なまでに歪んでしまった」と判断。全てを滅ぼしてゼロにすることを目論む。その真の首魁はパラケルススであったとされる。
狂科学ハンターREI(著:中里融司)- ライトノベル
「黄金の薔薇」という組織名で疑似科学を「秘宝科学」と呼称し、その技術を用いて人間を更なる次元に導く(要は世界を支配する)事を目的としている。
トリニティ・ブラッド(著:吉田直
テロ組織「薔薇十字騎士団(ローゼンクロイツオルデン)」。通称「世界の敵(コントラ・ムンディ)」と呼ばれる。「我ら、炎によりて世界を更新せん」というスローガンのもと、各地で行動している。目的は世界の速やかなる終焉。
とある魔術の禁書目録
第一巻での禁書目録の発言。
新約22巻リバースにてメンバーの一部が判明。

アニメ作品

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機動戦士Ζガンダム
ジャミトフ・ハイマンの提唱によりジオン軍残党の掃討を名目に設立された地球連邦軍の特殊部隊「ティターンズ」は、ローゼンクロイツと繋がりが有るとされている[2]
アキハバラ電脳組
創設者のクリスチャン・ローゼンクロイツが黒幕的な役回りで登場。本編の鍵となるパタPi・ディーヴァを開発。

音楽作品

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薔薇十字教団の最初の思想(1891)、「星たちの息子」への3つの前奏曲(1891)、薔薇十字教団のファンファーレ(1892)
エリック・サティがモンマルトルの文学酒場「黒猫」のピアニストをしていたころ、ジョセファン・ペラダンという神秘小説家と出会った。ペラダンの主宰する秘密結社「聖堂と聖杯のカトリック・薔薇十字教団」の公認の作曲家として書いたのがこれら3つの作品である。しかしペラダンの専横ぶりに耐えられず、2年たらずでサティはこの教団と決別することになる。

ラプソディー・オブ・ファイアの元ギタリスト、ルカ・トゥリッリ英語版が結成した第二のラプソディであるLuca Turilli's Rhapsody英語版の2ndアルバムにクリスチャン・ローゼンクロイツを題材にした曲「Rosenkreuz (The Rose And The Cross)」がある。

関連書籍

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脚注

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  1. ^ フランセス・A・イエイツ (1986). 薔薇十字の覚醒. 工作舎. pp. 294-295 
  2. ^ ラポートデラックス『機動戦士Ζガンダム大辞典』(復刻版、1999年、ISBN 978-4897993928)P.168

外部リンク

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