請願
![]() |
請願(せいがん)とは、権威・決定権を持つ存在に対して希望を述べること、特に、請願法などの規定に基づき国や地方公共団体を意見・要望を提出することを指す[1][2][3]。
後者の請願については、日本国憲法第16条では請願権を定めており、請願権の行使に関する基本的な考え方を規定した法律として1947年(昭和22年)に請願法が成立した。請願法のほか、国会に対するものは国会法、地方議会に対するものは地方自治法に請願に関する規定が置かれている[2]。
請願の形式
[編集]請願法では、請願は氏名及び住所を記載した文書を官公署に提出しなければならないとし、文書主義を採っている。また、国会、地方議会に対する請願は、議員の紹介を必要とする[2]。
国会に対する請願の状況は公表されており、2024年の第213回国会で衆議院に提出された請願件数は3,381件、このうち490件の請願が採択されている[4]。国会で採択した請願のうち、内閣で措置することが適当と認められたものは、 内閣に送付され、その処理の経過が内閣から国会に報告される[2]。
イギリス、ドイツなどでも日本の請願と同様の形式をとる制度がある[2]。
陳情
[編集]請願に類似、または内包される行為として陳情(ちんじょう)がある。日本の国会では、議員の紹介がない請願を陳情書として受理し、委員会審議の参考として取り扱われることされている[2]。
地方議会でも国会と同様の取扱いとしているところがあり[5]、東京都議会の場合は、形式等が請願に適合していると議長が判断した場合は、陳情を請願に準じて取り扱う[6]。横浜市会の場合、請願は委員会での審査を経て本会議で採択・不採択を決定する一方、陳情は議会側に意見書の提出を求めるものについては常任委員会で審議した後、結果を本会議に報告し、それ以外の行政への要望等は議長から市長へ回答を求める、というように取り扱いが変わる[7]。芦屋市議会の場合、請願はどんな内容でも形式が整っていれば、委員会での審査を経て本会議で採決にかけ、請願者が希望すれば委員会で口頭陳述(趣旨説明)を行うことが可能である一方、陳情は明らかに実現性のないものなどについては、委員会に諮らないことがあるとしている[8]。なお、提出者の意思を確認せず、陳情書を請願書に書き換えて提出した議員が、「社会正義に反する行為」などとして議会から辞職勧告決議を受けた例がある[9]。
より広範な政治用語として、国などの行政機関や議員に対しての働きかけ、ロビー活動を指して陳情ということがあり、これを通じて補助金などの予算の獲得や公共工事の誘導を図ることは、陳情行政・陳情政治と称される[10]。
嘆願
[編集]請願の類義語であり、前述の陳情に際し、陳情書のほか、嘆願書と表現することもある[11]。
請願法などに基づく請願とは異なる用法として、訴訟用語としての嘆願がある。量刑考慮のための科刑意見の一種として減刑嘆願、厳罰嘆願などの用語が用いられている[12]。
その他の用例
[編集]関連文献
[編集]- 中島正郎 『請願・陳情ガイドブック』 ぎょうせい、1992年。
脚注
[編集]- ^ 『有斐閣法律用語辞典第2版』有斐閣、2000年、799頁。
- ^ a b c d e f 田中嘉彦 (2006). “請願制度の今日的意義と改革動向”. レファレンス (国立国会図書館調査及び立法考査局) 56 (6): 66-83.
- ^ 今村千文 (2017). “近代日本における税の請願について”. 税大ジャーナル (税務大学校) (28): 145-188.
- ^ 『令和6年衆議院の動き』衆議院、2025年、461頁 。
- ^ “請願と陳情の違いを教えてください。”. 綾瀬市議会事務局議事担当. 2020年11月30日閲覧。
- ^ “請願・陳情ガイド”. 東京都議会議会局管理部広報課. 2020年11月30日閲覧。
- ^ “請願と陳情の違いは何か教えて下さい。”. Q&Aよくある質問集. 横浜市. 2020年11月30日閲覧。
- ^ “請願・陳情とは”. 芦屋市議会事務局 (2020年11月4日). 2020年11月30日閲覧。
- ^ “保坂氏辞職勧告を決議 「認められない」と反論 請願書問題で宇都宮市議会”. 下野新聞 (2020年7月2日). 2020年11月30日閲覧。
- ^ 竹中久二雄 (1982). “農業の社会資本投資と政治経済構造”. 農村研究 (東京農業大学農業経済学会) (55): 1-15.
- ^ 地方議会運営研究会 編『地方議会運営事典第2次改訂版』ぎょうせい、2014年、459頁。
- ^ 浅田和茂 (2021). “量刑論覚書”. 同志社法學 (同志社法學會) 73 (6): 1055-1081.
- ^ “昭和44年版犯罪白書第二編/第二章”. 法務省. 2025年3月31日閲覧。
- ^ “昭和61年版運輸白書”. 国土交通省. 2025年3月31日閲覧。