電気・ディーゼル両用車両
電気・ディーゼル両用車両(でんき・ディーゼルりょうようしゃりょう)は、電気とディーゼルの動力源を、走行する区間の電化状況や用途に応じて切替可能な鉄道車両である。バイモード車両とも呼ばれる。電化区間では架線・第三軌条より集電する電気機関車や電車、非電化区間ではエンジンを動力源とするディーゼル機関車や気動車として走行可能な機能を有する。
ディーゼルエンジンで発電機を駆動する電気式のディーゼル機関車・気動車とは異なる概念であるが、構造上優位であることから電気・ディーゼル両用車両のディーゼルモードは通常電気式である。
導入事例
[編集]アメリカ合衆国
[編集]ニューヨーク中心部の地下駅にはディーゼル車の入線が制限されるため、非電化区間からの直通列車には地下区間で電気機関車として走行可能な車両が使用される。
- FL9
- ニューヘイブン鉄道が導入、後にメトロノース鉄道へ継承。通常はディーゼル機関車で、グランド・セントラル駅への乗り入れ時に第三軌条より集電する。
- P32AC-DM
- メトロノース鉄道が導入。通常はディーゼル機関車で、グランド・セントラル駅への乗り入れ時に第三軌条より集電する。
- ALP-45DP
- ニュージャージー・トランジットが導入。ニューヨークのペンシルベニア駅へ乗り入れ、北ジャージー海岸線の非電化区間へ直通する。通常は電気機関車で、架空電車線方式に対応。
イギリス
[編集]- 73形
- イギリス国鉄が導入。第三軌条の電化路線を主体に、短距離の非電化区間の走行に対応する。1962年より導入。
- 74形
- 1967年以降に71形から改造。
- 88形
- ダイレクト・レール・サービスが導入。交流25000Vの架空電車線方式に対応、無架線地帯での入換を想定した小型ディーゼルエンジンを搭載する[1]。2017年より運行。
- 800形
- 都市間高速鉄道計画の一環で導入。電車としての使用が基本で、非電化区間直通用にエンジンと発電機を搭載する[2]。2017年より運行、製造は日立製作所。
- 802形
- 800形の一部設計変更車。2018年より運行。
- 810形
- 802形の一部設計変更車。2022年より運行開始予定。
スイス
[編集]- Gem4/4形
- レーティッシュ鉄道が導入。スイスはほぼ全線電化済みだが路線によって交流・直流の違いや交流同士でも周波数が異なるので、そうした電化方式が異なる区間での走行時にパンタグラフを下ろしてディーゼル機関車として走行する。
→「ポントレジーナ駅」も参照
- 具体例としてベルニナ急行はティラーノ駅[3](Tirano)からポントレジーナ駅(Pontresina)は直流1000V、ポントレジーナ以後は交流162/3Hz11000Vになるため、ポントレジーナのすぐ先(5.9km)のサメダン(Samedan)止まりの列車は交直両用機ではなくこのGem4/4形が牽引し、ティラーノ~ポントレジーナの直流区間はパンタグラフで集電[4]。ポントレジーナ~サメダンの交流区間はパンタを下げ、ディーゼル機関で発電走行するという運用だった[5]。のちにポントレジーナ駅が改良され、本線用交流機でも同駅までは直通列車を担当することが可能となった[6]。
- これ以外にも除雪時など用途に応じてディーゼルで走行することもある。
ドイツ
[編集]- TRAXX AC3 LM
- ボンバルディア(現・アルストム)製。LMは「ラストマイル」(Last Mile)の略。通常は電気機関車で、到着後の無架線地帯の入換作業向けに小型エンジンを搭載する[1]。
- コンビーノ・デュオ
- シーメンス製。ノルトハウゼン市電と、非電化のハルツ狭軌鉄道の直通用に開発された。
日本
[編集]- E001形
- 東日本旅客鉄道(JR東日本)が導入。管内各線を周遊するクルーズトレイン「TRAIN SUITE 四季島」に使用される。
フランス
[編集]フランス国鉄では、客車列車の置き換えで電化区間と非電化区間を直通可能なバイモード電車が導入されている[7]。
- B81500形
- ボンバルディア(現・アルストム)製。通常は電車で直流1500Vに対応。
- B82500形
- ボンバルディア(現・アルストム)製。通常は電車で直流1500Vと交流15000Vに対応。
- レジョリス
- アルストム製。通常は電車として使用。
脚注
[編集]- ^ a b 橋爪 智之 (2016年11月17日). “欧州の「貨物列車」はこんなに進んでいる”. 東洋経済オンライン
- ^ “日立が英国向け高速鉄道車両の完成披露 「バイモード」や省エネ駆動など最新技術搭載”. 産経新聞. (2014年11月13日)
- ^ 原文は「チラノ」
- ^ 厳密には、ベルニナ方面行きであればポントレジーナ駅を過ぎたベルニナ線内の停車駅までディーゼル機関で発電走行する処置が取られた。完全停車中でないと動力源切替ができないという同形式の技術的制約と、当時の駅構内配線が絡み合った結果、同駅で停車するとパンタグラフ集電による起動ができなくなってしまうという事情による。
- ^ 三浦慶一「スイスのラック式ディーゼル兼電機レーティッシェバーンGem4/4」『鉄道模型趣味 No.474(1986-7)』株式会社機芸出版社、1986年7月1日発行、雑誌06455-7、p.67
- ^ 2011年からはABe8/12形 交直流電車により、機関車交換作業自体が不要となった。ただし運用の都合により、機関車交換にて直通運転を実施する場合もある。
- ^ 橋爪 智之 (2017年1月8日). “フランスが最新型高速列車を導入しないワケ”. 東洋経済オンライン