ふかひれ
ふかひれ(鱶鰭)は、大型のサメ(鱶)のひれ(鰭)(主に尾びれや背びれ部分)を乾燥させた中華料理の食材。中国語では「魚翅」と言う。
概要
[編集]中国でふかひれが食べられだしたのは明の時代と言われている。潮州料理など、中華料理の高級食材として利用される。ほぐれた状態のふかひれをスープや点心の具として使うほか、ヒレの形のまま煮込む料理などがある。ジンベエザメ、ウバザメのものが最も高級とされ、アオザメ、イタチザメなどのものも高級である。一般的には、ヨシキリザメのものが使用されることが多い。
日本は世界有数のふかひれ生産国であり、江戸時代にはナマコ、アワビと共に中国(明、清)へ輸出されていた[1]が、近年ではシンガポールやインドネシアの生産量の方が上回っている。日本では気仙沼の水揚げが最も多いが、この多くはマグロ延縄漁業の際に釣れたサメからとられたものである。日本の気仙沼産が有名で且つ高級品として扱われるのは、加工技術が優れているためと言われる。日本は世界有数のふかひれ生産国ではあるが、最近では日本の漁船に従事する人にはフィリピン人やインドネシア人等が多くなり、彼らの国にも日本漁船が寄航する機会が増えた。この時に漁に従事したフィリピン人やインドネシア人が、ふかひれを持って下船する例が増えたために日本国内へ持ち帰られるふかひれは以前よりかなり減ったと言われている[要出典]。
フカヒレの国際取引のために捕獲されるサメ種の70%以上が絶滅の危機にある[2]。
シャークフィニング
[編集]フカヒレ漁ではシャークフィニングと呼ばれる漁法が動物愛護の観点から広く問題視されている。これは、サメからヒレだけを切り取り、その後サメを再び海に戻すという方法で、しばしば生きたままで戻され、サメは泳ぐことができないため、そのまま死んでしまう[3]。シャークフィニング漁法を数十か国が禁止している。2024年には大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)の年次総会においてシャークフィニング漁法を禁止する提案が提出されたが、世界最大のフカヒレの消費市場であり輸出国でもある中国と日本らによる拒否により採択に至らなかった[4]。
乾燥品の製法
[編集]生のふかひれを茹でるか鉄板で加熱してから、表面の鮫肌をブラシでこすり取り除く。油脂分を落とし天日干しにして、乾燥品が完成する。皮付きのまま乾燥にした加工品もある。
調理法
[編集]100 gあたりの栄養価 | |
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エネルギー | 1,431 kJ (342 kcal) |
1.6 g | |
飽和脂肪酸 | 0.17 g |
一価不飽和 | 0.12 g |
多価不飽和 | 0.16 g |
83.9 g | |
ビタミン | |
ナイアシン (B3) | (3%) 0.5 mg |
パントテン酸 (B5) | (5%) 0.24 mg |
ビタミンB6 | (2%) 0.02 mg |
葉酸 (B9) | (6%) 23 µg |
ビタミンB12 | (38%) 0.9 µg |
ビタミンD | (7%) 1.0 µg |
ビタミンE | (3%) 0.4 mg |
ミネラル | |
ナトリウム | (12%) 180 mg |
カリウム | (0%) 3 mg |
カルシウム | (7%) 65 mg |
マグネシウム | (26%) 94 mg |
リン | (5%) 36 mg |
鉄分 | (9%) 1.2 mg |
亜鉛 | (33%) 3.1 mg |
銅 | (3%) 0.06 mg |
他の成分 | |
水分 | 13.0 g |
コレステロール | 250 mg |
ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[6]。別名: さめひれ、きんし | |
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%はアメリカ合衆国における 成人栄養摂取目標 (RDI) の割合。 |
- 排翅を使ったふかひれの姿煮
- 散翅を使ったふかひれスープ
- 魚翅(胸びれ)を使ったふかひれスープ
調理する際は、乾燥したふかひれをまずネギやショウガとともに茹で、さらに蒸した上で皮を剥き、水にさらす。このように下処理をしてから上手に煮込むと臭みが消え、軟骨魚特有の柔らかなゼラチン質の食感が楽しめる珍味となる。ふかひれ自体に味はほとんどない。
種類
[編集]ふかひれは形状と大きさにより価格が大きく異なる。形状により味が異なるわけではないが、一般的には元のヒレの形を保ったふかひれが高級品とされている。これは排翅の入手が困難である理由と、形状が保たれている排翅の方が加工済みの魚翅より品質を見極めやすい理由による。
- 散翅(サンチー, sǎnchì)- 最初からバラバラにほぐれたヒレ。缶詰やレトルトパックでも販売されており、一番安価で手ごろに食べられる。
- 魚翅(ユイチー, yúchì)- 中国語でのふかひれの総称。または手のひら程度の小ぶりの物や、一本一本バラバラにほぐれた散翅を指すこともある。基本的にスープとして提供される。主に胸びれが使われる。排翅と比べると値段は安い。
- 排翅(パイチー, páichì)- 扇のような形状を保った丸ごとの大ぶりなヒレ。基本的に姿煮として提供される。主に背びれと尾びれが使われる。大きさ・形・厚さで値段が大きく変わる。
- 天九翅(ティェンジュウチー, tiānjiǔchì)- 最高級品。ジンベエザメとウバザメの背びれのみ天九翅になる。一本ずつの繊維がモヤシより太い。ジンベエザメとウバザメは捕獲と取引が国際的に規制されているため、天九翅は稀少である。特に形の良い天九翅は、しばしば料理店の権威を表す店頭ディスプレイとして展示される。
人工ふかひれ
[編集]数百円程度の廉価で販売されている「ふかひれ」は、エイのヒレで代用したものや、春雨や湯葉を使って本物に似せた「人工ふかひれ」である。本場中国を謳う料理店の出す「姿煮」にも人工ふかひれが使用されているケースがある。
中国・山東省では、工業用にかわをホルムアルデヒドで浸した偽ふかひれが摘発されたことがある。
サメの乱獲によるふかひれの供給不足や中国におけるふかひれの需要の増加などのため、天然ふかひれは価格が高騰しており、人工ふかひれの需要が日本でも本場中国でも高まっている。日本では豚のゼラチンなどを原料とした人工ふかひれの製造販売も行なわれている。
贅沢品としての規制
[編集]2013年12月、中国の習近平政権は、綱紀粛正の一環として公務接待に関する管理規定を提示。この中で具体的にふかひれ、ツバメの巣を挙げて、高級食材を利用した料理を公務接待(官官接待など)の宴席に供することを禁じた[7]。
原材料となるサメを保護する動き
[編集]この節に雑多な内容が羅列されています。 |
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イギリスがフカヒレ取引を禁止
[編集]イギリス政府は2021年8月15日、フカヒレの輸出入を禁止する新しい法律を制定した[8]。缶詰のフカヒレスープなど、フカヒレが使われている製品はすべて対象となる。イギリスは、フカヒレを広範囲で規制する(2021年10月時点で)世界初の国となった。イギリスでは、サメのヒレだけ切り取って残りを海を捨てる(しばしばサメは生きたままで投棄されるため、泳げずに死に至る)[3]シャークフィニングを20年以上前から禁止してきたが、フカヒレの交易を認めることは、間接的にこのような漁法に加担することから、今回の立法に至った。
EUでフカヒレ取引禁止のECI
[編集]2023年、フカヒレの取引廃止を提案する「欧州連合市民イニシアチブ(ECI)」に110万人をこえる署名が集まったため、今後この提案について欧州委員会で審議が行われる[9]。
ふかひれ漁規制法
[編集]アメリカ合衆国では、ふかひれの採取を目的に毎年数千万匹のサメが乱獲され、絶滅が危惧されているとして、2000年に大西洋およびメキシコ湾におけるサメ漁を規制した。しかし、ヒレを切り取る行為を船上で行わなければ太平洋でのサメ漁は認められていたことから、太平洋側でのサメ漁が横行。2010年12月20日、アメリカ上院は、これら法の抜け穴をふさぐ法改正を行い、アメリカにおけるふかひれの採取を目的とした漁は全面禁止となった[10]。また同国ハワイ州では2010年7月に売買を禁止する州法が施行され[11]、カリフォルニア州では2011年10月にふかひれの売買と所持を禁止する州法が成立した[12]。
ワシントン条約
[編集]2022年11月17日、ワシントン条約第19回締約国会議(CoP19)で、メジロザメ科とシュモクザメ科全54種を同条約附属書2に記載することが採択された。この2つの科だけで、年間5億ドル(約700億円)に上るフカヒレ取引の半分以上を占めるが、今後は持続可能でない取引は不可能となる[2]。
世界自然保護基金の活動
[編集]世界自然保護基金は、2010年より、ふかひれを扱う機会が多い香港のホテル、レストラン業者などを対象に、ふかひれを使った料理の提供をやめ、代替素材を使った料理を提供するよう説得するキャンペーンを実施。反対意見は多いものの一部事業者には提供を取りやめる動きがみられる。中でも、高級ホテルグループであるペニンシュラホテル、シャングリラホテルは、2012年1月からふかひれを使った料理の提供を止めることを表明している[13][14]。
日本国内の抗議運動と対応
[編集]- 2013年6月7日、良品計画は自社製品、無印良品「ごはんにかける ふかひれスープ」の発売中止を求める運動を受けたことに対し説明を行った。原材料となるヨシキリザメは、マグロ延縄漁の混獲であり、一部の地域で行われるヒレだけを採取する手法(フィニング)による漁獲ではないこと、ヨシキリザメが指定されている準絶滅危惧種は、評価リスト上でも低リスクに分類され、さらにその中でもヨシキリザメは下位に位置づけられており、日本国内の法令で漁獲規制を受けているものではないとしている[15]。
- 2014年5月28日、気仙沼遠洋漁協は、ラッシュ・ジャパンが「残酷なフカヒレ漁反対キャンペーン」を始めることに対し、気仙沼のサメ漁が誤解を受けないよう配慮してほしいとの申し入れを行った。この中で気仙沼遠洋漁協側は、気仙沼のふかひれがフィニングによるものではないこと、フィニングでは海洋投棄される肉ははんぺんなどに加工、骨もサプリメントの原料にするなど有効活用していること、持続可能な漁業を目指し国際認証(海のエコラベル)取得の準備を進めていることをアピールしている[16]。なおこの件についてラッシュ・ジャパンでは自社サイトにおいてこのキャンペーンはフィニングを行っていない気仙沼のサメ漁に反対するものではないと表明している[17]。
出典
[編集]- ^ 松浦章:江戸時代に長崎から中国へ輸出された乾物海産物 関西大学東西学術研究所紀要, 第45輯, 2012.04, pp.47-76
- ^ a b “サメの世界的保護に関するワシントン条約の画期的採決、フカヒレ取引を規制”. 20221129閲覧。
- ^ a b “Sharks”. WildAid. 20060521時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年10月6日閲覧。
- ^ “Shark lobby slams China, Japan for vetoing US-led move to ban ‘finning’”. 20241121閲覧。
- ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)」
- ^ 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)」
- ^ “フカヒレ禁止の綱紀粛正、20兆円中国接待文化を変えるか”. 産経新聞社. (2013年12月16日). オリジナルの2014年5月4日時点におけるアーカイブ。 2014年5月28日閲覧。
- ^ “世界初、イギリスがフカヒレの輸出入を全面禁止 サメの保護を促進”. ELEMINIST. 2021年10月6日閲覧。
- ^ “Successful shark finning Citizens' Initiative presented to the Commission”. 20230113閲覧。
- ^ フカヒレ漁規制法案、米上院が可決(AFP.BB.News.2010年12月21日)
- ^ ハワイで「フカヒレ」の売買禁止…7月1日から・米国で初めて 2010/05/31 サーチナニュース
- ^ 「残酷だ」フカヒレ売買、所持禁止 中国系多い米加州(MSN産経ニュース 2011.10.08) Archived 2011年12月28日, at the Wayback Machine.
- ^ “ホテル「ザ・ペニンシュラ」フカヒレ提供を停止”. 日本経済新聞社 (2011年11月21日). 2016年8月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月27日閲覧。
- ^ “シャングリ・ラ サステナビリティーの取り組み「シーフードポリシー」 全世界の81のホテル、リゾートでフカヒレ料理の提供を停止”. シャングリ・ラ・ホテルズ&リゾーツ (2012年1月17日). 2015年10月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月27日閲覧。
- ^ “無印が“販売中止運動”に反論、フカヒレ商品巡り署名活動起きる。”. ナリナリドットコム (ナリナリドットコム). (2013年6月9日) 2014年5月28日閲覧。
- ^ “<サメ漁>気仙沼の漁師ら「反フカヒレキャンペーン」に憤り”. 毎日新聞社. (2014年5月25日). オリジナルの2014年5月28日時点におけるアーカイブ。 2014年5月28日閲覧。
- ^ LUSHからのお知らせ - LUSH ONLINE