ルーシ (バラキレフ)
『ルーシ』(露: Симфоническая поэма «Русь»)は、ミリイ・バラキレフが作曲した交響詩。他のバラキレフの作品同様、完成までに数十年の長い時間を要しており、1890年ごろに一応の完成をみる。演奏時間は約15分。ニコライ・リムスキー=コルサコフに献呈されている[1]。
概要
[編集]元々は、1862年のロシア建国1000年[2]を記念した標題交響曲『ルーシ』として構想されている。しかし、作曲の途中で、この構想は改められ、1858年作曲の『3つのロシアの主題による序曲第1番』の続編として作品は完成し、1864年に『3つのロシアの主題による序曲第2番』(露: Увертюра на темы трех русских песен No.2)として無料音楽学校の演奏会で初演された。
その後、改訂され、当初の構想を生かす形で、題名も音画『千年』(露: Музыкальная картинка «1000 лет»)に変更され1869年に出版されたが、バラキレフの一時的な楽壇引退を挟んで、1880年代に入っても更に改訂作業は続き[3]、1890年の出版でようやく現在の形に落ち着いている[4]。
編成
[編集]フルート3(3はピッコロ持ち替え)、オーボエ2、クラリネット(イ調、および変ロ調)2、ファゴット2、ホルン(ヘ調)4、トランペット(ヘ調)2、トロンボーン2、バストロンボーン、チューバ、ティンパニ、バスドラム、シンバル、タンブリン、トライアングル、タムタム、ハープ2、弦五部
曲の構成
[編集]この作品の基礎として、私は自分の曲集から三つの民謡を主題に選んだ。それによって私は、異教世界、モスクワ体制、そしてコサックたちの間に再生した自治共和制という、わが国の歴史における三つの要素を描きたいと思った。これらの要素間の争いは、これらの主題の管弦楽的展開によって表現されていて、この器楽的ドラマの内容となっている。だから今回のタイトルは、以前のものよりもはるかに適切である。作曲者はわが国の千年の歴史を描こうとする意図はなく、その構成要素を性格付けようという意図しかなかったのであるから。 — (1890年版スコアの序より[5])
三部形式。緩やかな(ラルゲット)序奏と後奏がアレグロの主部を挟む形を採る。これは前作の『3つのロシアの主題による序曲第1番』と同じである。バラキレフがスコアの序に記したとおり、自身が1860年代にヴォルガ地方で採譜した3つの民謡[6]が曲の主題として使われている[7]。
序奏と後奏に登場する第1の主題は婚礼歌「それは風ではない」で、この主題は主部にもあらわれる。アレグロの主部に登場する第2の主題は踊り歌「私は行こう、ツァーリの町へ」、第3の主題は踊り歌「カーチャは楽しそうに牧場へ行く」[8]である。前作同様、主題は交響的に組み合わされ展開されていくが、より手の込んだ劇的な内容となっている。また主部には民謡風の第4の主題も少し用いられている。
脚注
[編集]- ^ Muzyka社版スコア。
- ^ リューリクがノヴゴロド支配を開始した862年から数えて1000年
- ^ 1882年から1884年にかけて改訂作業が行われた。
- ^ ただし、1894年及び1907年の出版の際もわずかな手直しがなされている。
- ^ 参考文献「ロシア音楽史」269頁より引用。バラキレフは、1907年版では「ピョートル一世の改革がロシアの宗教的国民的流れに宿命的な打撃を与えたその争いは、この器楽的ドラマの内容となっている」と書いている(同書より引用)。
- ^ 1866年にピアノ伴奏をつけ『40のロシア民謡集』として出版された。
- ^ 第1曲、第2曲、第22曲が使用されている。
- ^ この主題はピョートル・チャイコフスキーのオペラ『オプリーチニク』の第4幕の舞曲にも用いられている。
参考文献
[編集]- KALMUS社 スコアA4265
- Muzyka社 スコア3219
- フランシス・マース(森田稔・梅津紀雄・中田朱美 訳)「ロシア音楽史」(2006年 春秋社)ISBN 4393930193
- 日本・ロシア音楽家協会 編「ロシア音楽事典」(2006年 カワイ出版)ISBN 9784760950164
- メロディアLP解説(スヴェトラーノフ盤 国内盤 ビクター音楽産業 VIC-5332 井上和男執筆)