香港語言学学会粤語拼音方案
香港語言学学会粤語拼音方案(ホンコンごげんがくがっかいえつごピンインほうあん)、略称粤拼 (えつピン、Jyutping、ユッピン) は、粤語(広東語)をラテン文字によって表記する方法の一つ。香港語言学学会 (LSHK) によって1993年に制定された[1]。特にコンピュータ処理の分野で支持されており、広東語でのインプットメソッド(粤拼輸入法)として発展している。
利用
[編集]粤拼は現在、教育、コンピュータにおける中国語での情報処理分野などのさまざまな分野・業界で利用されている。広東語でのインプットメソッドとしても、相当に成熟し発展してきている。香港の他に、台湾でもこの方式を使用した入力システムが販売されている。この方式は、政府、財界、および学術界にて広く認識されている[2]。
- 香港特別行政区政府の中国語インターフェース諮問委員会は、1999年よりこの方式を業務上唯一の広東語入力方式をして採用[3][4]。
- 『商務新詞典』では、2009年版より採用[2]。
- Windows Vistaでは、「粤拼」を入力法の一つとして設定[2]。
- 香港中文大学人文電算研究センターの『広東語審音配詞字庫』(粤語審音配詞字庫)などに採用[5][6][7]。
声母
[編集]19の声母が立てられている。
b /p/ 巴 | p /pʰ/ 怕 | m /m/ 媽 | f /f/ 花 | |
d /t/ 打 | t /tʰ/ 他 | n /n/ 那 | l /l/ 啦 | |
g /k/ 家 | k /kʰ/ 卡 | ng /ŋ/ 牙 | h /h/ 蝦 | |
gw /kʷ/ 瓜 | kw /kʷʰ/ 誇 | w /w/ 蛙 | ||
z /t͡s/ 渣 | c /t͡sʰ/ 叉 | s /s/ 沙 | j /j/ 也 |
韻母
[編集]56の韻母が立てられている(うち2韻は鼻音独立韻)。
ø | -p | -t | -k | -m | -n | -ng | -i | -u | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
i- | i [iː] 思 | ip [iːp̚] 攝 | it [iːt̚] 洩 | ik [ɪk̚] 識 | im [iːm] 閃 | in [iːn] 先 | ing [ɪŋ] 升 | iu [iːu] 消 | |
yu- | yu [yː] 書 | yut [yːt̚] 雪 | yun [yːn] 孫 | ||||||
u- | u [uː] 夫 | ut [uːt̚] 闊 | uk [ʊk̚] 福 | un [uːn] 歡 | ung [ʊŋ] 風 | ui [uːi] 灰 | |||
e- | e [ɛː] 些 | ep [ɛːp̚] 夾 | ek [ɛːk̚] 石 | em [ɛːm] 舐 | eng [ɛːŋ] 鄭 | ei [ei] 四 | eu [ɛːu] 掉 | ||
eo- | eot [ɵt̚] 摔 | eon [ɵn] 詢 | eoi [ɵy] 需 | ||||||
oe- | oe [œː] 鋸 | oet [œ:t̚] [9] | oek [œːk̚] 脚 | oeng [œːŋ] 疆 | |||||
o- | o [ɔː] 可 | ot [ɔːt̚] 喝 | ok [ɔːk̚] 學 | on [ɔːn] 看 | ong [ɔːŋ] 康 | oi [ɔːi] 開 | ou [ou] 好 | ||
a- | a [ɐ] [9] | ap [ɐp̚] 汁 | at [ɐt̚] 侄 | ak [ɐk̚] 則 | am [ɐm] 斟 | an [ɐn] 珍 | ang [ɐŋ] 增 | ai [ɐi] 擠 | au [ɐu] 周 |
aa- | aa [ɑː] 渣 | aap [ɑːp̚] 集 | aat [ɑːt̚] 扎 | aak [ɑːk̚] 責 | aam [ɑːm] 站 | aan [ɑːn] 讚 | aang [ɑːŋ] 掙 | aai [ɑːi] 齋 | aau [ɑːu] 嘲 |
m /m̩/ 唔 | ng /ŋ̩/ 呉 |
- m と ng は単独で音節を構成する鼻音独立成韻「唔」(m)、「吳」「五」(ng) にのみ使われる。
声調
[編集]広東語には九声があるが、入声が3声を占めるので音の高さとしては実質6つであり、1から6までの数字で表記される。1は高く平らに(または、高く下降)、2は高く上昇、3は中間で平らに、4は低く下降、5は低く上昇、6は低く平らにそれぞれ発音する。第7声、第8声、第9声はそれぞれ高中低の高さである。
調名 | 陰平[10] | 陰上[11] | 陰去 | 陽平 | 陽上 | 陽去 | 陰入(上陰入) | 中入(下陰入) | 陽入 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
第1声 | 第2声 | 第3声 | 第4声 | 第5声 | 第6声 | 第7声 | 第8声 | 第9声 | |
表記 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 1 | 3 | 6 |
調値 | 55 / 53 | 35 | 33 | 21 / 11 | 23 / 13 | 22 | 5 | 3 | 2 |
例字 | 夫 fu1 | 虎 fu2 | 副 fu3 | 扶 fu4 | 婦 fu5 | 父 fu6 | 福 fuk1 | 霍 fok3 | 服 fuk6 |
分 fan1 | 粉 fan2 | 訓 fan3 | 焚 fan4 | 奮 fan5 | 份 fan6 | 忽 fat1 | 發 faat3 | 佛 fat6 |
関連項目
[編集]脚注
[編集]- ^ 「香港言語学会の≪粤語拼音方案≫について」『山梨県立女子短期大学紀要』第28巻、1995年3月31日、121–140頁、2024年8月2日閲覧。
- ^ a b c “粤語的粤拼和IPA”. 明報 (2010年4月22日). 2021年5月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年9月19日閲覧。
- ^ 張群顯 (2014-01). “蔚為大觀的粤拼網上資源”. 中國語文通訊 93 (1): 1-7. オリジナルの2018-12-22時点におけるアーカイブ。 .
- ^ 陸勤教授(香港理工大學)、張群顯博士(香港理工大學)、香港語言學學會粤拼小組. “電腦用漢字粤語拼音表”. 2020年3月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2020年2月11日閲覧。
- ^ “粤語審音配詞字庫”. 人文電算研究中心. 2011年2月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年4月25日閲覧。
- ^ “粤語音韻集成”. 人文電算研究中心. 2019年2月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年9月18日閲覧。
- ^ “黄錫凌粤音韻彙電子版”. 人文電算研究中心. 2019年2月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年9月18日閲覧。
- ^ “粵拼系統的修訂” (PDF) (en,zh-hk). 香港語言学学会 (2018年). 2022年1月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2024年8月2日閲覧。
- ^ a b 2018年追加[8]。
- ^ 調値 55 は、「超平」と呼ばれることがある(本来の声調 (中・低調) から高平変調したものを含む)。(千島英一. 標準広東語同音字表. 東方書店. p. 16. ISBN 978-4-497-91317-3)
- ^ 入声の中には、一部、陰上と同じ調値の高昇変調(35)を取る「超入」も存在する。また、入声以外の本来の声調(中・低調)から高昇変調したものは「超上」と呼ばれることがある。(千島英一. 標準広東語同音字表. 東方書店. p. 11,16. ISBN 978-4-497-91317-3)
外部リンク
[編集]- 広東語ピンインIME(粤拼による広東語入力ソフト)
- Microsoft Office IME 2010 (中国語(繁体)版に粤拼IMEが含まれる)
- RIME (クロスプラットフォームの中国語IME。粤拼IMEが含まれる)
- Google日本語IMEで広東語入力をする(Google日本語IMEを使った粤拼による広東語入力)