Ye (代名詞)

YeIPA: /jiː/、イー)は、英語二人称複数人称代名詞主格)である。古英語では"ge"と綴られた。中英語および初期近代英語では、対等あるいは目上の人物に呼び掛けるために使われた。ほとんどの英語圏でその使用は廃れているものの、イングランド北部、コーンウォールアイルランドでは単数形の "you" (本来の単数形は thou であるが、現代では死語)と区別して使われている。

定冠詞との混同

[編集]

「Ye」は単語「the」(伝統的に/ðiː/と発音された)の初期近代英語形を表わすために使われることもある(例: Ye Olde Shoppe)。「The」はしばしば「EME ye.svg」と書かれた(ここでは場所を節約するために "e" が上部に書かれているが、続けて書くこともできた)。下側の文字はソーンであり一般にÞと書かれたが、手書き文字では「Y」と似ていた。ソーンは現代二重音字 "th" の前身である。ゆえに、単語 "The" はÞeと書かれていて、yeではなかった。中世の印刷機は文字Þを含んでおらず、そのため一部の中世(特に後期)の文献ではその類似性から代わりにyが使われていた。この置換正字法が、「ye」が代名詞ではなく定冠詞を示しており、その発音が/ðiː/あるいは/ðə/である時でさえも、現代英語話者が常に「ye」を/ji:/と発音する原因となった。

語源

[編集]

古英語において二人称代名詞は単純な規則で使われていて、þūが一人、ġitが二人、ġēが三人以上に対する呼称であった。中英語期を特徴付けるフランス語の語彙による影響の始まりとなるノルマン・コンクエストの後、単数形は目上の人物への、後には対等な人物への呼称として次第に複数形に取って代わられた。単数形および複数形を砕けた含意および改まった含意に一致させる慣習はT-V区別ラテン語tuおよびvosから)と呼ばれ、英語ではフランス語の影響が主因である。これは、貴族複数形で呼称する慣習から始まった。やがて、フランス語と同じように、社会的に上位あるいは強力な人物を複数形の代名詞で呼称するように一般化された。フランス語では、tuは最終的に親密あるいは見下すような表現と考えられるようになったのに対し、複数形のvousは控えめかつ改まった表現となった。初期近代英語では、yeは砕けた複数形の二人称主格代名詞としても改まった単数形の二人称主格代名詞としても機能した。「Ye」は現在もアイルランド英語およびニューファンドランド英語において砕けた複数形として一般的に使用されている。

古英語の代名詞
主格 IPA 対格 与格 属格
一人称 単数 [ɪtʃ] mec / mē mīn
両数 wit [wɪt] uncit unc uncer
複数 [weː] ūsic ūs ūser / ūre
二人称 単数 þū [θuː] þec / þē þē þīn
両数 ġit [jɪt] incit inc incer
複数 ġē [jeː] ēowic ēow ēower
三人称 単数 男性 [heː] hine him his
中性 hit [hɪt] hit him his
女性 hēo [heːo] hīe hiere hiere
複数 hīe [hiːə] hīe heom heora
中英語における人称代名詞
現代英語をそれぞれの中英語の代名詞の下にイタリック体で示す。
人称(性) 主格 目的格 所有限定詞 所有代名詞 再帰代名詞
単数
一人称
現代
ic / ich / I
I
me / mi
me
min / minen [pl.]
my
min / mire / minre
mine
min one / mi selven
myself
二人称
現代(古語
þou / þu / tu / þeou
you (thou)
þe
you (thee)
þi / ti
your (thy)
þin / þyn
yours (thine)
þeself / þi selven
yourself (thyself)
三人称 男性
現代
he
he
him[注釈 1] / hine[注釈 2]
him
his / hisse / hes
his
his / hisse
his
him-seluen
himself
女性
現代
sche[o] / s[c]ho / ȝho
she
heo / his / hie / hies / hire
her
hio / heo / hire / heore
her
-
hers
heo-seolf
herself
中性
現代
hit
it
hit / him
it
his
its
his
its
hit sulue
itself
複数
一人称
現代
we
we
us / ous
us
ure[n] / our[e] / ures / urne
our
oures
ours
us self / ous silve
ourselves
二人称
現代(古語
ȝe / ye
you (ye)
eow / [ȝ]ou / ȝow / gu / you
you
eower / [ȝ]ower / gur / [e]our
your
youres
yours
Ȝou self / ou selve
yourselves
三人称 古英語から heo / he his / heo[m] heore / her - -
古ノルド語から þa / þei / þeo / þo þem / þo þeir - þam-selue
現代 they them their theirs themselves

綴りと発音の違いによって中英語の文献には多くのその他のバリエーションがある。Francis Henry Stratmann (1891). A Middle-English dictionary. [London]: Oxford University Press. http://openlibrary.org/books/OL7114246M/A_Middle_English_dictionary ならびにA Concise Dictionary of Middle English from A.D. 1150 TO 1580, A. L. Mayhew, Walter W. Skeat, Oxford, Clarendon Press, 1888. を参照のこと。

初期近代英語における人称代名詞
主格 斜格 属格 所有格
一人称 単数 I me my/mine[# 1] mine
複数 we us our ours
二人称 砕けた単数 thou thee thy/thine[# 1] thine
複数あるいは改まった単数 ye, you you your yours
三人称 単数 he/she/it him/her/it his/her/his (it)[# 2] his/hers/his[# 2]
複数 they them their theirs
  1. ^ a b 属格のmyminethythineは名詞の前の所有形容詞あるいは名詞を伴わない所有代名詞として使われる。4つの表現全ては所有形容詞として使われる: mineおよびthine母音で始まる名詞の前(例: thine eyes)で、あるいはhで始まる名詞(このhは大抵発音されなかった。例えばmine heartmine artと発音されていた)の前で使われ、myおよびthyは子音で始まる名詞の前で使われる(例: thy mothermy love)。しかしながら、mineおよびthineだけは所有代名詞として使われる(例: it is thinethey were mine)。
  2. ^ a b 初期近代英語期から17世紀まで、hisは三人称中性のitと三人称男性heの所有格であった。属格の「it」は1611年の欽定訳聖書(レビ記25:5)に「groweth of it owne accord」として一度現われる。

脚注

[編集]

関連項目

[編集]