スイレン属
スイレン属 | |||||||||||||||
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1. セイヨウスイレン (上), アカバナスイレン (下) | |||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||
Nymphaea L. (1753)[1][2] | |||||||||||||||
タイプ種 | |||||||||||||||
セイヨウスイレン Nymphaea alba L. (1753) | |||||||||||||||
シノニム | |||||||||||||||
和名 | |||||||||||||||
スイレン、睡蓮 | |||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||
water lilies[1], water-lilies[1], waterlilies[1] | |||||||||||||||
亜属 | |||||||||||||||
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スイレン属(スイレンぞく、学名: Nymphaea)は、スイレン科に属する属の1つである。多年生の水草であり、地下茎から長い葉柄を伸ばし、水面に浮水葉を浮かべる。花は大型で水面上または水上に抜け出て開花する(図1)。4枚の萼片と多数の花弁・雄しべ、1個の雌しべをもち、花弁の色は白色、黄色、赤色、紫色など。
スイレン属は世界中に分布し、50種ほどが知られる。日本にはただ1種、ヒツジグサ(未草)のみが自生する。さまざまな種が観賞用に栽培され、また多数の園芸品種が作出されている。園芸用のスイレンは、温帯スイレンと熱帯スイレンに大別される[3]。スイレン(睡蓮)の名は本来はヒツジグサの漢名であるが、日本ではスイレン属の水草の総称として用いられる[3]。英名では water lily (water-lily, waterlily) とよばれるが、一部の種は lotus ともよばれる[注 1]。属名の Nymphaea は、「水の妖精」を意味するギリシア語の νυμφαία (nymphaia) に由来する[5]。
特徴
[編集]多年生の浮葉植物であり、地下茎から根を張り、そこから長い葉柄が生じ、浮水葉が水面に浮かんでいる[2][3](上図2a, b)。地下茎の発達程度は種によって異なり、無分枝または分枝、短い地下茎が直立するものから、長い地下茎が底泥中を横走するものまでいる[3][5][6](上図2c)。ときに匍匐枝による栄養繁殖が見られ、また地下茎の分断による栄養繁殖を行う種もいる[7]。葉は水中に留まる沈水葉(下図3d) または水上に突き出る抽水葉であることもあるが、多くの葉は葉身が水面に浮かぶ浮水葉である[2][5][6](上図2b, 下図3a)。葉身の基部は深く切れ込んで心形または矢じり形であるが(上図2a, b, 下図3a, b)、葉柄が葉裏について楯状になっていることもある[2][3][6]。葉縁は全縁または鋸歯がある[6][5]。葉脈は放射状(掌状)またはやや羽状[5][6](下図3b)。
花は地下茎から生じた長い花柄の先端に1個ずつつき、水面または水上へ抜け出て開花する[3][5][6](上図2a, b)。萼片は4枚、しばしば果時まで残る宿存性である[2][3][5][6](下図4a, d)。花弁は5枚から多数(まれに欠如)、らせん状またはやや輪状につく[2][5][6](下図4a, c)。色は白色、黄色、紅色、紫色、青色など[5]。雄しべ(雄蕊)は多数、子房側面につき、外側の雄しべはしばしば葉状で花弁と連続的[3][5][6](下図4a, b, c, e)。葯は内向または側向[3]。ときに葯隔が突出する[5](下図4c)。心皮は多数、輪生し、合着して1個の雌しべ(雌蕊)を構成する[3](下図4c)。柱頭盤を形成し、心皮数の柱頭がある[3][5]。柱頭の外側には偽柱頭とよばれる突起があり、雄性期には内曲して柱頭を覆う[3][6](下図4b)。子房は中位、心皮数の部屋に分かれている[3]。面生胎座であり、子房室の内面全体に多数の胚珠がつく[2][3](下図4d)。果実は水中で熟し、液果状、不規則に裂開し、種子を放出する[3][2][6](下図4e)。種子は球状から楕円形、仮種皮(種衣)で覆われる[2][3][5][6]。染色体の基本数は x = 14[5]。
分布・生態
[編集]世界中(南北アメリカ、アフリカ、ユーラシア、オーストラリア)の熱帯から温帯域に分布し、湖沼や緩やかな河川などに生育している[2](図5)。特異な環境として、Nymphaea thermarum はルワンダの温泉(水温は約36 ℃)から報告されたが、自生地では土地開発によって2009年に絶滅した[2][8]。
花は基本的に雌性先熟(先に雌しべが成熟し、その後に雄しべが成熟することで自家受粉を避ける)であるが、自家受粉を行うものもいる[7]。開花時間は種によって異なり、昼間(午前中、午後、午前から午後)に開花する種と夜間(0時ごろまで、朝まで)に開花する種がいる[7]。花の匂いは、種によって無臭のものから強い匂いをもつものまである。特に夜間に開花する種は強い匂いを発し、主に甲虫によって花粉媒介される[7][9]。一方、昼間に開花する種は主にハチ目やハエ目に花粉媒介される[7]。
人間との関わり
[編集]スイレンは美しい花をもつため、広く観賞用に栽培されており、またさまざまな栽培品種が作出されている[5]。スイレンは古代エジプトの昔から人間の関心を引き、装飾に用いられたり、信仰の対象ともなっていた。クロード・モネはスイレンの絵を数多く描いたことが知られている(図6)。
観賞用スイレン
[編集]観賞用のスイレンは、耐寒性の有無に基づいて温帯スイレンと熱帯スイレンに大別されることが多い[3][10][11]。
温帯スイレン(温帯性スイレン[3]、hardy water lilies)は耐寒性があり、地下茎が直立または横走[3][10]。葉は全縁、花は水面に浮かび、昼咲きである。主な原種としてセイヨウスイレン (Nymphaea alba) やニオイスイレン (Nymphaea odorata) があり、ヒツジグサもしばしば交配に用いられる[3]。以下に温帯スイレンの園芸品種の一部を示す[10][12]。
- 'アーカンシェル' (Nymphaea 'Arc-En-Ciel')(下図7a)
- 花弁は細く、淡いピンク色。開花2日目には花色がより薄くなる。葉に白やピンク色の斑が入る。
- 'ダーウィン' (Nymphaea 'Darwin')
- 花弁はピンク色、基部ほど赤みが強く、枚数が多い。
- 'エスカボークル' (Nymphaea 'Escarboucle')(下図7b)
- 花弁は鮮やかな赤。
- 'ジェイムズ・ブライドン' (Nymphaea 'James Brydon')(下図7c)
- 花弁の幅が広く、濃いピンク色、枚数が多い。暑さにやや弱い。
- 'オドラータ・スルフレア' (Nymphaea 'Odorata Sulphurea')(下図7d)
- 花弁は細長く、白色。
- 'ピーチ・グロウ' (Nymphaea 'Peach Glow')(下図7e)
- 花弁はピンク色を帯びた淡いクリーム色、枚数が多い。真夏には花弁が傷みやすい。
- 'オールモスト・ブラック' (Nymphaea 'Almost Black')
- 温帯スイレンと熱帯スイレンの交配種。黒いスイレンと呼ばれ、花の中心が赤黒い。
熱帯スイレン(熱帯性スイレン[3]、tropical water lilies)は耐寒性がなく、地下茎は塊状で直立する[3][11]。葉は鋸歯があるものが多く、花は水面から抜き出て咲く。昼咲き (day blooming) の種と夜咲き (night blooming) の種がある。主な原種としてアカバナスイレン (Nymphaea rubra) や Nymphaea colorata がある[3][11]。生育に適した水温は25 ℃以上であり、15 ℃以下になると生育できないため、冬には加温するか休眠させる必要がある[11]。以下に熱帯スイレンの園芸品種の一部を示す[11][12]。
- 'アルバート・グリーンバーグ' (Nymphaea 'Albert Greenberg')(下図8a)
- 昼咲き性。花弁の基部がオレンジ色で、外に向かってピンク色が濃くなる。
- 'ミッドナイト' (Nymphaea 'Midnight')(下図8b)
- 昼咲き性。花弁は細長く濃紫色。
- 'ペルシアンライラック' (Nymphaea 'Persian Lilac')(下図8c)
- 昼咲き性。中輪、花弁はピンク色で数が多い。
- 'ピンク・パール' (Nymphaea 'Pink Pearl')
- 昼咲き性。中輪、花弁は淡いピンク色。
- 'サザン・チャーム' (Nymphaea 'Southern Charm')(下図8d)
- 昼咲き性。花弁は青色で基部が淡黄色。
- 'ティナ' (Nymphaea 'Tina')
- 昼咲き性。花弁は明るい青紫色だが、条件によって色は変化しやすい。ムカゴができやすい。
- 'レッド・フレア' (Nymphaea 'Red Flare')(下図8e)
- 夜咲き性。花弁は濃赤色。葉は濃いブロンズ色。
日本での栽培史
[編集]スイレン属としてはヒツジグサのみが自生していた日本に、外国産スイレンの輸入が始まったのは明治時代である。アメリカ合衆国で園芸を学んだ河瀬春太郎が東京に開いた「妙華園」で30種以上を育てた。大正時代には同好会がつくられるほど愛好者が増えた。二子玉川園(東京)の一部だった「五島ローズガーデン」にもスイレン池があり、運営母体である東急電鉄の鉄道駅にちなんで命名された品種(たまプラーザ、さぎぬま、青葉台)も育成された。日本独自の品種は、枯死や太平洋戦争で絶えたものもある[13]。
外来種
[編集]スイレン属の種は広く栽培されているため、本来分布していない地域に帰化し、繁茂して環境の悪化や自生種の生育を阻害することが世界各地で報告されている[14][15][16]。日本では、スイレンの園芸種は生態系被害防止外来種の重点対策外来種に指定されている[17]。また、このような外来スイレンの除去が呼びかけられている地域もある[18]。
食用・薬用
[編集]スイレン属のいくつかの種 (ヨザキスイレン、ルリスイレン、Nymphaea gigantea など) の地下茎や葉柄、果実、種子は、食用(ときに救荒食)とされることがある(アフリカ、インド、中国、フィリピン、オーストラリアなど)[20]。ただしスイレン属はアルカロイドを含んでいることがあり、食用とする際には前処理を必要とする。
古代エジプトの頃からスイレンは生薬とされており、現在でも利用されることがある[19][21](図9)。
文化
[編集]古代エジプト文明はナイル川河畔に花開いたが、ナイル川流域にはヨザキスイレン (Nymphaea lotus) やルリスイレン (Nymphaea nouchali var. caerulea) が生育しており、古くから人間に関わってきた。特にルリスイレンは夜明けに開花することから、太陽神の誕生、再生、来世信仰と結びつき、さまざまな装飾に用いられた[22][23](下図10a–e)。またマヤ文明でも、Nymphaea ampla がさまざまな装飾に用いられていた[24](下図10f)。
系統と分類
[編集]スイレン属は、近縁のコウホネ属やバルクラヤ属、オニバス属、オオオニバス属と共にスイレン科に分類される[25][26]。スイレン科は、現生被子植物の中では極めて初期に他と分かれた基部被子植物の1群であることが明らかとなっている[25][26]。
スイレン科の中では、スイレン属はオニバス属+オオオニバス属に近縁である。さらに分子系統学的研究からは、オニバス属+オオオニバス属が系統的にスイレン属の中に含まれることが示唆されている[27][28](下図11)。そのため、分類学的にオニバス属とオオオニバス属に属する種をスイレン属に含めることが提唱されている[26]。
またオンディネア属 (Ondinea) は特異な花(花弁の欠如など)をもつため独立属とされていたが、系統的にスイレン属(Anecphya 亜属)に含まれることが明らかとなっており、スイレン属に組換えられた[29][30]。
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11. スイレン科の系統仮説の1例[27][28][29] |
スイレン属には50種ほどが知られ、5亜属に分類されている[1][2][27](下表)。
ギャラリー
[編集]- セイヨウスイレン
- セイヨウスイレン
- セイヨウスイレン
- ルリスイレン
- アカバナスイレン
- ヨザキスイレンの沈水葉
- 浮水葉
- 葉柄横断面
- セイヨウスイレンの地下茎
- Nymphaea candidaの花の縦断面
- スイレンを描いた壷 (古代エジプト)
- スイレンを描いたカバの像 (古代エジプト、紀元前20世紀)
- トイレとスイレン模様の木製蓋 (古代エジプト、紀元前15世紀頃)
- スイレンのヒエログリフ
脚注
[編集]注釈
[編集]出典
[編集]- ^ a b c d e f GBIF Secretariat (2021年). “Nymphaea L.”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年5月3日閲覧。
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関連項目
[編集]外部リンク
[編集]- “スイレン”. 三河の植物観察. 2021年5月3日閲覧。
- GBIF Secretariat (2021年). “Nymphaea L.”. GBIF Backbone Taxonomy. 2021年5月3日閲覧。
- “Nymphaea”. Flora of China. 2021年5月3日閲覧。 (英語)
- “Waterlilies”. Victoria. 2021年5月3日閲覧。 (英語)
- “Nymphaea”. Plants of the World online. Kew Botanical Garden. 2021年6月10日閲覧。 (英語)