フランス語の否定文
フランス語の否定文(フランスごのひていぶん、フランス語: Négation en français)では、現代標準フランス語における否定文について記述する。フランス語の否定文の特徴は、ne ... pas に代表されるように否定が ne を含む 2 語で表されることと、多様な否定語があることである。否定語には、否定副詞、否定代名詞、否定限定詞、否定接続詞がある。
歴史
[編集]現代フランス語の文語では、単純否定は ne /nə/ と pas /pa/ の 2 語で表され、1 語または 1 形態素で表される他の多くの言語と対照的である。
- Je ne sais pas. (フランス語)
- I don't (do not) know. (英語)
- Ich weiß nicht. (ドイツ語)
- 私は知らない。 (日本語)
- 我不知道。 (中国語普通話)
しかし言語学の観点からは、珍しい現象ではない。イェスペルセンは 1917 年に、諸言語の否定表現が一定の傾向で変化することを見出した[1]。これをイェスペルセン周期またはイェスペルセン・サイクルと呼ぶ[2]。以下にその各段階を示す。
- 否定は動詞に先行する否定標識で表される。
- 否定標識が音声的に弱くなり、強調の副詞が付け加えられる。
- 強調の副詞が義務化して否定副詞となり、否定は 2 語で表される。
- 否定は否定副詞で表され、元々の否定標識は任意になる。
- 否定は否定副詞だけで表される。
- 否定副詞が、動詞に先行する否定標識としても使われる。
- 1 に戻る。
ラテン語は ne → ne oinom → non と一周して第 1 段階に戻った[4]。その後、スペイン語、イタリア語などの他のロマンス諸語はそこにとどまっている。
現代フランス文語は第 3 段階、現代フランス口語は第 4 段階、現代ケベック・フランス口語は第 5 段階に進んでいる。
- Non veniunt. (ラテン語)
- Ne vienent (pas). (古フランス語、pas は強調)
- Ils ne viennent pas. (現代フランス文語)
- Ils (ne) viennent pas. (現代フランス口語、ne は任意)
- Ils viennent pas. (現代ケベック・フランス口語、ne は常に脱落)
本来、否定を示すのは ne だったが、発音が弱まって接語となり、さらには脱落するようになった。このため、今では否定を担うのは pas のほうである。
否定の強調として最初に現れたのは pas と mie /mi/ であり、後に point /pwɛ̃/ が加わった[5][6][7]。この他、goutte /gut/, grain /gʁɛ̃/ も使われた。これらは元々、否定される動詞に対応した強調だったが、後に単なる否定副詞に変わり、動詞の意味に関わらず用いられるようになった。
文 | 第 2 段階 (中期フランス語) | 第 3 段階 (古典フランス語) |
---|---|---|
Je ne marche pas. /ʒən.maʁ.ʃə.pa/ | 私は一歩も歩かない。 | 私は歩かない。 |
Je ne mange mie. /ʒən.mɑ̃ʒ.mi/ | 私は一かけらも食べない。 | 私は食べない。 |
Je n'ai point. /ʒə.ne.pwɛ̃/ | 私は一点も持たない。 | 私は持たない。 |
Je ne bois goutte. /ʒən.bwa.gut/ | 私は一滴も飲まない。 | 私は飲まない。 |
Je ne mange grain. /ʒən.mɑ̃ʒ.gʁɛ̃/ | 私は一粒も食べない。 | 私は食べない。 |
現在では pas が標準であり、point は古風な文語である。残る goutte, grain, mie はもはや使われない。
否定語の多くは今も同形の名詞が存在するが、現代フランス語では名詞は限定詞を伴うので、単独で使われる否定語とは明確に見分けられる。
- pas (…ない)
- un pas (一歩)
ne
[編集]文語では ne と否定語とを同時に用いるが、口語ではしばしば ne が脱落する。ただし主語が否定語なら、口語でも必ず ne を用いる。口語での ne の使用は、格調や教養の高さと結び付けられ、話者の年齢が高いほど使用率が高くなる[8]。
ne は主語代名詞の直後に置かれ、ne の後に母音または無音の h で始まる語が続くときは、エリジオンが起きて n' /n/ になる。接語の語順についてはフランス語の人称代名詞#後接語の語順を参照すること。
否定を表すのは否定語のほうであり[9]、ne の有無で意味は変わらない。ne 単独で否定の意味を持つのは一部の文語表現だけである。
しかし ne が否定を担っていたなごりで、pas を除く否定語をいくつ用いても肯定にはならず、否定文のままである。例えば次の文には否定語が 2 個あるが、否定文である。
- Personne n'a rien dit. /pɛʁ.sɔn.na.ʁjɛ̃.di/ (誰も何も言わなかった。)
否定副詞
[編集]否定副詞は一般に定動詞(助動詞、なければ動詞)の後に置く。
pas
[編集]通常の否定には pas を用いる。point は pas と同じ意味の古風な文語である。かつては point のほうが強い否定だったが、現在は違いは無い。また pas の代わりに、否定の強調の aucunement /o.kyn.mɑ̃/, nullement /nyl.mɑ̃/ を使っても良い。
- Elle ne sait pas ce mot. /ɛl.nə.sɛ.pas.mo/ (彼女はその言葉を知らない。)
- Elle ne sait point ce mot. /ɛl.nə.sɛ.pwɛ̃s.mo/ (〃 - 文語)
- Elle ne sait aucunement ce mot. /ɛl.nə.sɛ.o.kyn.mɑ̃s.mo/ (彼女はその言葉を全く知らない。)
- Elle ne sait nullement ce mot. /ɛl.nə.sɛ.nyl.mɑ̃s.mo/ (〃 - 文語)
他の副詞と共に用いるときは、語順により文の意味が変わる。
- Ce n'est absolument pas vrai. /sə.nɛ.(t)ap.sɔ.ly.mɑ̃.pa.vʁɛ/ (それは絶対に正しくない。)
- Ce n'est pas absolument vrai. /sə.nɛ.pa.(z)ap.sɔ.ly.mɑ̃.vʁɛ/ (それは絶対に正しいわけではない。)
強調するときは du tout /dy.tu/ を使う。元々強調である aucunement と nullement は、du tout と共存しない。pas の後が 1 語なら du tout を文末に置き、2 語以上なら pas の直後に置くことが多い。
- Ce film n'est pas bon du tout. /sə.film.nɛ.pa.bɔ̃.dy.tu/ (その映画は全く良くない。)
- On n'aime pas du tout ce film. /ɔ̃.nɛm.pa.dy.tu.sə.film/ (我々はその映画を全く好まない。)
他の否定語と異なり pas と point は単独で返答に使うことはできないが、強調されていれば良い。
- *Pas. (不可)
- *Point. (不可)
- Non. /nɔ̃/ (いいえ。)
- Pas du tout. /pa.dy.tu/ (いいえ、全く。)
- Point du tout. /pwɛ̃.dy.tu/ (〃)
- Aucunement. /o.kyn.mɑ̃/ (〃)
- Nullement. /nyl.mɑ̃/ (〃)
- Absolument pas. /ap.sɔ.ly.mɑ̃.pa/ (〃)
pas encore, plus
[編集]変化や出来事の前後における否定を表すには、pas encore /pa.(z)ɑ̃.kɔʁ/ と plus /ply/ を用いる。日本語の「まだ…ない」と「もう…ない」に当たる。変化前では encore /ɑ̃.kɔʁ/ と pas encore が対になり、変化後では déjà /de.ʒa/ と plus が対になる。
肯定 | 否定 | |
---|---|---|
無変化 | Je suis étudiant. /ʒə.sɥi.(z)e.ty.djɑ̃/ (私は学生だ。) | Je ne suis pas étudiant. /ʒən.sɥi.pa.(z)e.ty.djɑ̃/ (私は学生でない。) |
変化前 | Je suis encore étudiant. /ʒə.sɥi.(z)ɑ̃.kɔ.ʁe.ty.djɑ̃/ (私はまだ学生だ。) | Je ne suis pas encore étudiant. /ʒən.sɥi.pa.(z)ɑ̃.kɔ.ʁe.ty.djɑ̃/ (私はまだ学生でない。) |
変化後 | Je suis déjà étudiant. /ʒə.sɥi.de.ʒa.e.ty.djɑ̃/ (私はもう学生だ。) | Je ne suis plus étudiant. /ʒən.sɥi.ply.e.ty.djɑ̃/ (私はもう学生でない。) |
jamais
[編集]一度も起こらないことを表すには jamais /ʒa.mɛ/ を用いる。英語の never に当たる。複合過去(英語の現在完了に当たる)で用いると、今まで一度も起こらなかったことを表し、現在で用いると、決して起こり得ないことを表す。
- Ils ne lisent jamais de BD. /il.nə.liz.ʒa.mɛd.be.de/ (彼らは決して漫画を読まない。) (BD←fr:Bande dessinée)
- Ils n'ont jamais lu de BD. /il.nɔ̃.ʒa.mɛ.lyd.be.de/ (彼らは漫画を一度も読んだことがない。)
nulle part
[編集]どこにも無いことを表すには nulle part /nyl.paʁ/ を用いる。英語の nowhere に当たる。nulle part は一般に文末に置く。他の場所を否定するには nulle part ailleurs /nyl.pa.ʁa.jœʁ/ を用いる。英語の nowhere else に当たる。
- Michelle n'a trouvé la clé nulle part. /mi.ʃɛl.na.tʁu.ve.la.kle.nyl.paʁ/ (ミシェルはどこにもその鍵を見付けられなかった。)
- On ne peut l'acheter nulle part ailleurs. /ɔ̃.nə.pø.laʃ.te.nyl.pa.ʁa.jœʁ/ (それは他のどこでも買えない。)
que
[編集]限定された以外のものを否定するには que /kə/ を用いる。日本語の「…しか…ない」と同じように、形は否定文であるが意味は肯定である。que は限定される句の直前に置く。母音または無音の h で始まる語の前ではエリジオンが起きて qu' /k/ になる。
- Paul n'a que dix euros. /pɔl.nak.di.zø.ʁo/ (ポールは 10 ユーロしか持っていない。)
- On ne peut l'acheter qu'ici. /ɔ̃.nə.pø.laʃ.te.ki.si/ (それはここでしか買えない。)
pas と組み合わせると二重否定になり、「…しか…ないわけではない」の意味になる。
- Paul n'a pas que dix euros. /pɔl.na.pak.di.zø.ʁo/ (ポールは 10 ユーロしか持っていないわけではない。)
guère
[編集]完全に否定するのではなく「ほとんど…ない」を意味するには、guère /gɛʁ/ を用いる。
- Il n'y a guère de problèmes. /il.nja.gɛʁ.də.pʁɔ.blɛm/ (ほとんど問題はない。)
冠詞 de
[編集]否定副詞がある文において、存在が否定される直接目的語の不定冠詞と部分冠詞は、de /də/ に変わる。de の後の名詞は単数でも複数でも意味は違わない。一つも無いことを強調するなら un seul /œ̃.sœl/ を使っても良い。
- J'ai lu un journal. /ʒe.ly.œ̃.ʒuʁ.nal/ (私は新聞を一紙読んだ。)
- J'ai lu des journaux. /ʒe.ly.de.ʒuʁ.no/ (私は新聞を数紙読んだ。)
- → Je n'ai pas lu de journal. /ʒə.ne.pa.lyd.ʒuʁ.nal/ (私は新聞を読まなかった。)
- → Je n'ai pas lu de journaux. /ʒə.ne.pa.lyd.ʒuʁ.no/ (〃)
- → Je n'ai pas lu un seul journal. /ʒə.ne.pa.ly.œ̃.sœl.ʒuʁ.nal/ (私は新聞を一紙も読まなかった。)
de の代わりに un を使うと、必ずしも存在が否定されず、意味があいまいになる[10]。
- J'ai lu un journal. /ʒe.ly.œ̃.ʒuʁ.nal/ (私はある新聞を読んだ。)
- → Je n'ai pas lu un journal. /ʒə.ne.pa.ly.œ̃.ʒuʁ.nal/ (私は(ある)新聞を読まなかった。)
- = Il n'y a pas de journal que j'ai lu. /il.nja.pad.ʒuʁ.nal.kə.ʒe.ly/ (私が読んだ新聞は一紙も無い。)
- = Il y a un journal que je n'ai pas lu. /i.lja.œ̃.ʒuʁ.nal.kəʒ.ne.pa.ly/ (私が読まなかった新聞が一紙ある。)
- → Je n'ai pas lu un journal. /ʒə.ne.pa.ly.œ̃.ʒuʁ.nal/ (私は(ある)新聞を読まなかった。)
que は存在を否定しないので、de にならない。
- Je n'ai qu'un crayon. /ʒə.ne.kœ̃.kʁɛ.jɔ̃/ (私は鉛筆しか持っていない。)
存在ではなく種類や数や他の語句が否定される時も de にならない。
- J'ai vu un homme. /ʒe.vy.œ̃.nɔm/ (私は男を一人見た。)
- → Je n'ai pas vu d'homme. /ʒə.ne.pa.vy.dɔm/ (私は男を一人も見なかった。 - 存在の否定)
- → Je n'ai pas vu un homme mais une femme. /ʒə.ne.pa.vy.œ̃.nɔm.mɛ.yn.fam/ (私は男ではなく女を一人見た。 - 種類の否定)
- → Je n'ai pas vu un homme mais deux. /ʒə.ne.pa.vy.œ̃.nɔm.mɛ.dø/ (私は男を一人ではなく二人見た。 - 数の否定)
- → Je n'ai pas seulement vu un homme. /ʒə.ne.pa.sœl.mɑ̃.vy.œ̃.nɔm/ (私は男を一人見ただけではない。 - 副詞 seulement の否定)
主語や間接目的語の存在を否定する時は、否定代名詞または否定限定詞を用いる。
否定限定詞
[編集]否定限定詞は、否定を表す限定詞であり、名詞句の示すものが存在しないことを表す。他のフランス語の限定詞と同じように、名詞の性により変化する。どれも、可算名詞に使われる。
男性 | 女性 | 意味 |
---|---|---|
aucun /o.kœ̃(n)/ | aucune /o.kyn/ | どの…も…ない |
nul /nyl/ | nulle /nyl/ | |
pas un /pa.zœ̃(n)/ | pas une /pa.zyn/ | 一つの…も…ない |
pas un seul /pa.zœ̃.sœl/ | pas une seule /pa.zyn.sœl/ |
後続の語が母音または無音の h で始まる時、aucun と pas un はリエゾンを起こす。
どれもが否定されることを強調する aucun と nul は、どの名詞句にも使える。英語の no に当たる。口語では nul は使わない。
数が 0 であることを強調する pas un と pas un seul は、主語あるいは時間を表す名詞句だけに使える。英語の not a single に当たる。
- Aucun élève n'est venu. /o.kœ̃.ne.lɛv.nɛv.ny/ (どの生徒も来なかった。)
- Nul élève n'est venu. /ny.le.lɛv.nɛv.ny/ (〃)
- Pas un élève n'est venu. /pa.zœ̃.ne.lɛv.nɛv.ny/ (一人の生徒も来なかった。)
- Pas un seul élève n'est venu. /pa.zœ̃.sœ.le.lɛv.nɛv.ny/ (〃)
- Je ne connais aucun élève. /ʒən.kɔ.nɛ.o.kœ̃.ne.lɛv/ (私はどの生徒も知らない。)
- Je ne connais nul élève. /ʒən.kɔ.nɛ.ny.le.lɛv/ (〃)
否定限定詞のうち、aucun, pas un, pas un seul は同形の否定代名詞がある。文脈または後続する de で示された集合の全てが否定される。
- Aucun de mes amis n'est venu. /o.kœ̃d.me.za.mi.nɛv.ny/ (私の友達のうち誰も来なかった。)
- Pas un de mes amis n'est venu. /pa.zœ̃d.me.za.mi.nɛv.ny/ (私の友達のうち一人も来なかった。)
- Pas un seul de mes amis n'est venu. /pa.zœ̃.sœl.də.me.za.mi.nɛv.ny/ (〃)
否定代名詞 nul は、否定限定詞 nul と意味が異なるので次節に示す。
否定代名詞
[編集]否定代名詞は、否定を表す代名詞であり、対象のものが存在しないことを表す。ここでは、personne /pɛʁ.sɔn/, nul /nyl/, rien /ʁjɛ̃/ を説明する。aucun, pas un, pas un seul は前節に示してある。
personne
[編集]対象となる人が誰もいないことを示すには personne を用いる。英語の no one, nobody に当たる。文語の nul は personne と同じだが、主語にしか使われない。
- Je n'ai vu personne hier soir. /ʒə.ne.vy.pɛʁ.sɔn.jɛʁ.swaʁ/ (私は昨夜誰も見なかった。)
- Personne ne chante mieux que lui. /pɛʁ.sɔn.nə.ʃɑ̃t.mjøk.lɥi/ (誰も彼よりうまく歌わない。)
- Nul ne peut entrer dans le jardin. /nyl.nə.pø.(t)ɑ̃.tʁe.dɑ̃l.ʒaʁ.dɛ̃/ (誰もその庭に入ってはならない。)
rien
[編集]対象となる物が何も無いことを示すには rien を用いる。英語の nothing に当たる。助動詞があり、rien が目的語の場合、助動詞の後に rien を置く。
- Je n'en sais rien. /ʒə.nɑ̃.sɛ.ʁjɛ̃/ (私はそれについて何も知らない。)
- Je n'ai rien vu. /ʒə.ne.ʁjɛ̃.vy/ (私は何も見なかった。)
俗語では rien を意味する語がいくつもある[11]。この中で最もよく使われるのは que dalle である。rien と異なり、常に動詞の後に置かれる。俗語なので ne はほとんど使われない。
- J'ai rien vu. /ʒe.ʁjɛ̃.vy/ (私は何も見なかった。)
- J'ai vu que dalle. /ʒe.vyk.dal/ (〃)
以下にそれらの語を示す。
- couic /kwik/
- nada /na.da/
- oualou, walou /wa.lu/
- peau de balle /pod.bal/
- pouic /pwik/
- que couic /kə.kwik/
- que dalle, quedalle, que dal, quedal, kedalle, kedal /kə.dal/
- que pouic /kə.pwik/
- que tchi, ketchi, keutchi /kə.tʃi/
- queud /kœd/
- tchi /tʃi/
- tintin /tɛ̃.tɛ̃/
否定代名詞の修飾
[編集]否定代名詞を修飾する場合、不定代名詞 quelqu'un, quelque chose と同様に、形容詞を de を挟んで後ろに置く。否定代名詞は男性単数として扱う。
- Il n'y avait personne de blessé. /il.nja.vɛ.pɛʁ.sɔn.də.ble.se/ (負傷した人は誰もいなかった。)
- Je ne fais rien de spécial. /ʒən.fɛ.ʁjɛ̃.də.spe.sjal/ (私は特別なことは何もしない。)
否定接続詞
[編集]否定接続詞 ni /ni/ は、列挙する句のどれもが否定される時に用いる。接続詞 et /e/ と同じように使えるが、et と異なり、否定される句の全ての前に ni を置く。否定される名詞句の不定冠詞、部分冠詞は省く。
- Elle n'a ni mangé ni bu. /ɛl.na.ni.mɑ̃.ʒe.ni.by/ (彼女は食べも飲みもしなかった。)
- Il ne boit ni café ni thé. /il.nə.bwa.ni.ka.fe.ni.te/ (彼はコーヒーも紅茶も飲まない。)
- Ni Jean ni Anne ne sont allé au Japon. /ni.ʒɑ̃.ni.an.nə.sɔ̃.(t)a.le.o.ʒa.pɔ̃/ (ジャンもアンヌも日本に行かなかった。)
動詞を否定するには、ne ... (pas,) ni ne ... を使う。
- Elle ne mange ni ne boit. /ɛl.nə.mɑ̃ʒ.nin.bwa/ (彼女は食べも飲みもしない。)
- Elle ne mange pas, ni ne boit. /ɛl.nə.mɑ̃ʒ.pa.nin.bwa/ (〃)
不定詞の否定
[編集]不定詞を否定するには ne pas を用いる。否定文と異なり、この ne は省略できない。
- être étudiant /ɛ.tʁe.ty.djɑ̃/ (学生であること)
- → ne pas être étudiant /nə.pa.(z)ɛ.tʁe.ty.djɑ̃/ (学生でないこと)
- avoir ou ne pas avoir des enfants /a.vwa.ʁu.nə.pa.(z)a.vwaʁ.de.zɑ̃.fɑ̃/ (子供がいるかいないか)
不定詞を取る動詞は、ne の位置で文の意味が変わる。
- Vous ne pouvez pas y aller. /vun.pu.ve.pa.(z)ja.le/ (あなたは行ってはならない。 - 定動詞 peux の否定)
- Vous pouvez pas y aller. /vu.pu.ve.pa.(z)ja.le/ (〃 - 口語での ne の脱落)
- Vous pouvez ne pas y aller. /vu.pu.ve.nə.pa.(z)ja.le/ (あなたは行かなくても良い。 - 不定詞 aller の否定)
pas 以外の否定語も使える。
- Il ne peut plus travailler. /il.nə.pø.ply.tʁa.vaj/ (彼はもう働けない。 - 定動詞 peut の否定)
- Il peut plus travailler. /il.pø.ply.tʁa.vaj/ (〃 - 口語での ne の脱落)
- Il peut ne plus travailler. /il.pø.nə.ply.tʁa.vaj/ (彼はもう働かなくても良い。 - 不定詞 travailler の否定)
参考文献
[編集]- ^ Jespersen, Otto (1917), Negation in English and other languages., Copenhagen: A.F. Host
- ^ Zeijlstra, Hedde H. (2003), Blaho, Sylvia; Vicente, Luis; de Vos, Mark, eds., “Two Ways of Expressing Negation”, Proceedings of ConSOLE XII: 245-259
- ^ Zeijlstra, Hedde H. (2005), Andronis, Mary; Debenport, Erin; Pycha, Anne et al., eds., “What the Dutch Jespersen Cycle may reveal about Negative Concord”, Proceedings of the Chicago Linguistics Society (Chicago: University of Chicago Press) 38 (2): 143-158
- ^ Condoravdi, Cleo; Kiparsky, Paul (2005), “Jespersen's cycle: the argument phase”, Handout of talk presented at the Sixth Annual Stanford Semantics Fest
- ^ 川口裕司 (2005), “通時的観点からみたフランス語の否定辞”, 言語情報学研究報告 (東京外国語大学) 7: 319-337
- ^ 武次三愛 (2005), “古仏語における否定の副詞 ne と不変化語 pas, mie, point について”, 言語情報学研究報告 (東京外国語大学) 7: 339-360
- ^ 浅野幸生 (2003), “中世の mie について —否定文の成立を巡って—”, 人文論集 (静岡大学) 54 (1): 263-274
- ^ Sankoff, Gillian (2006), “When a Vanishing Particle Fails to Vanish”, Paper presented at NWAV 35, Ohio State University
- ^ Mathieu, Eric (2001), Iten, Corrine; Neeleman, Ad, eds., “On the nature of French N-words”, UCL Working Papers in Linguistics 13: 319-352
- ^ Godard, Danièle (2003), Corblin, Francis; de Swart, Henriette, eds., “French Negative Dependency”, Handbook of French Semantics (Stanford: CSLI Publications)
- ^ Richter, Frank; Sailer, Manfred (2006), Müller, Stefan, ed., “Modeling Typological Markedness in Semantics: The Case of Negative Concord”, Proceedings of the 13th International Conference on Head-Driven Phrase Structure Grammar (CSLI Publications): 305-325