人工太陽

人工太陽(じんこうたいよう)または核融合発電(かくゆうごうはつでん)は、核融合を用いたエネルギー供給システムで、太陽内部で起きている「核融合反応」を人工的に作り出し、エネルギーを取り出した核融合エネルギーを利用した発電方式である[1]

概要

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太陽から地球に降り注ぐエネルギーは核融合によってできたエネルギーであるが、太陽などの恒星ができるときと同じ核融合のメカニズムを利用し、エネルギーを取り出す試みである。このため、「地上に太陽をつくる(人工太陽)」研究とも言われる[2]。1,500万度以上で熱した空間に水素を十分に含んだガスを閉じ込め、ガス中の水素原子核同士を衝突させる。この過程で大量に発せられるエネルギーを利用する。核融合炉の燃料となるのは重水素三重水素だが、この2つは海水中から取り出せるため事実上「無尽蔵」のエネルギー源といわれる。核融合は大量のエネルギーを発し、核融合施設はおおよそ一基100-500万KW 程度になると言われている。これは原子力発電所や大規模な火力発電所と同程度かやや大きい規模である[3]。「資源が海水中に豊富にある」、「二酸化炭素を排出しない」という特徴があり、エネルギー問題と環境問題を同時に根本的に解決するものと期待される[2]

原子力発電は原子爆弾が完成した約10年後には発電できるに至った。現在も安全性に問題は残しながらも、その技術の多くは、すでに完成レベルに至っている。これに対し、核融合には多くの技術的課題が残され、実用化は2040年-2050年ではないかとみられている[3]。日本はITER計画における準ホスト国、BA活動のホスト国として主導的な役割を果たしており、ITER計画、BA活動ともにサイトでの建設や機器の製作が進行している[2]

メカニズム

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原子力発電の原理は核分裂で、ウランプルトニウムなどの重く分裂しやすい物質に中性子をぶつけることで、それらが分裂する際に発生する熱エネルギーを利用して蒸気を発生させ、タービンを回して電気を作る。一方、核融合は分裂ではなく融合であり、重水素と三重水素という軽い元素の原子核同士を熱した状態で衝突させ、その際に発生するエネルギーを利用するものである。すなわち、元素を分裂させる原子力発電とは逆の原理である。ともに原子核の分裂や融合によって生じる熱エネルギーを利用する点は同様だが、分裂と融合という点や、使用する物質がウランやプルトニウムと、水素という点でも異なる[3]

核融合反応を起こすには以下の3つの条件(温度密度時間)を同時に達成する必要がある[3]

1、温度 - プラズマを約1億度以上の温度にする。

2、密度 - 1立方cmの中に原子核の数が100兆個以上あること。

3、時間 - プラズマの閉じ込め時間が1秒以上あること。

この3つの条件はローソン条件と呼ばれ、理論的上は可能でも人工的に作り出すのは困難とされる。この3つのうちの、個別の条件である「1億度のプラズマを作る」、「密度を1立方cmあたり500兆個閉じ込める」という記録は達成できているが、3つの条件を同時に達成するのが困難で、特に3つ目の「プラズマの閉じ込め時間を1秒以上にする」という時間条件は、非常に困難であるとされている[3]

2022年12月30日には、中国科学院合肥物質科学研究院プラズマ物理研究所で全超伝導トカマク型核融合実験装置(EAST)が長パルス・高パラメーターにおけるプラズマ維持時間1056秒を記録し、トカマク装置の高温プラズマ維持時間としては世界最長を記録した[4][5]

核融合反応を起こす方法としては、主な3つの方式がある。磁場閉じ込めの代表例として、トカマク方式、ヘリカル方式、また、慣性閉じ込めの代表例として、レーザー方式の以上3つがある[2]

安全性

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核融合と原子力発電は混同されやすいが、核融合と原子力発電はその原理から実用における安全性まで大きく異なる。核融合は原子力発電とは異なり安全かつ環境負荷は小さいが、技術がまだ確立されていない[3]

原子力発電では一旦核分裂反応が始まると反応が連続して発生し、この連続する反応を制御することが重要で、制御を喪失するとチェルノブイリ原子力発電所福島原子力発電所のような炉心溶融メルトダウン)が起こる。一方、核融合発電では1億度という高温状態を作り出し、超高速に加速された原子核をピンポイントで衝突させないと反応が始まらない。つまり制御して状態を作り続けないと反応が停止する。原子力発電では反応を止めるために制御が必要であるが、核融合では反応を起こすために制御が必要であり、暴走は起こりえない[3]

軍事利用不可

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歴史的に核分裂は原子爆弾、核融合は水素爆弾への軍事利用を目的に研究が進められた。核分裂では発電という平和利用と軍事利用の原理が同じであるのに対して、核融合では平和利用と軍事利用の原理が異なるため、発電目的の研究が軍事転用される可能性は低い。このため、安全保障上の制約が少なく、平和目的のための核融合研究を国際協力のもとで行うことが提唱され、国際協調が進んでいる。東西冷戦下の1985年に行われた米ソ首脳(レーガン=ゴルバチョフ)会談において、平和目的のための核融合研究を国際協力のもとで行うことが提唱され、日本アメリカ合衆国欧州中国などが参加するITER(イーター)計画が実施された[2][3][6]

環境負担

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核融合発電は原子力発電同様、発電に際してニ酸化炭素や窒素酸化物硫黄酸化物などが発生せず、大気汚染がないクリーンなエネルギーだが、放射性廃棄物が残る。原子力発電では、ウランやプルトニウムなどの高濃度放射性核廃棄物が大量に発生するが、これらは数万年経っても高レベルの放射線を発し続けるため、放射性廃棄物を管理・処理には同様に数万年レベルの期間を要するのに対し、核融合発電では初段階では放射性廃棄物が出るものの、数十年で人体に全く影響のないレベルになるため、管理・処理が計画的に進めることが可能である。すなわち、核融合は廃棄物処理が容易な環境負荷の少ないエネルギー源と言える[3]

脚注

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関連項目

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