図々しい奴

図々しい奴』(ずうずうしいやつ)は、柴田錬三郎作の日本小説。また、これを原作とした映画テレビドラマ

概要

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小説は1950年代後半に『週刊読売』(読売新聞社)に連載された。戦時中から終戦直後を舞台とし、作者・柴田の私小説的要素も含まれているという。

あらすじ

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主人公・戸田切人(とだ きりひと)は岡山県出身(作者の柴田も岡山出身)。馬小屋で産声をあげたことから、イエス・キリストをもじって「切人」と命名された。極貧の中で育った切人だが生まれもった図々しさで世を渡り歩き、立身出世を夢見るようになる。そんな中、切人は旧岡山城主・伊勢田家の跡取り息子・直政と出会う。

映画

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1961年松竹

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図々しい奴
監督 生駒千里
脚本 飯坂啓
安田重夫
原作 柴田錬三郎
製作 岸本吟一
出演者 杉浦直樹
津川雅彦
高千穂ひづる
牧紀子
高野真二
渥美清
音楽 西山登
撮影 川又昻
編集 谷みどり
製作会社 松竹大船
配給 松竹
公開 日本の旗 1961年5月9日
上映時間 88分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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1961年松竹配給で第1作が製作された。白黒映画。主人公・切人役の杉浦直樹東映版映画及びテレビドラマでは直政役を演じている。

キャスト(1961年版)

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スタッフ(1961年版)

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1964年東映

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図々しい奴
監督 瀬川昌治
脚本 下飯坂菊馬
瀬川昌治
原作 柴田錬三郎
出演者 谷啓
佐久間良子
長門裕之
杉浦直樹
浪花千栄子
左卜全
筑波久子
音楽 松井八郎
撮影 山沢義一
製作会社 東映東京
配給 東映
公開 日本の旗 1964年1月15日
上映時間 94分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
次作 続・図々しい奴
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1964年公開。松竹と同名タイトルで東映で製作・配給された。カラー作品。瀬川昌治監督[1][2]。後述するテレビドラマがヒットして製作された[3][4]谷啓の初主演映画で[2][5]、谷はテレビドラマでは主題歌を歌っており、ここからの抜擢であった。松竹版に主演した杉浦直樹は直政役で出演している。

製作経緯(1964年版)

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企画は当時の東映東京撮影所所長・岡田茂(のち、東映社長)[6]。岡田は同所長時代にギャング路線やくざ路線、文芸路線など、次々に新機軸を打ち出し[7][8]、続いて東京撮影所にも喜劇路線を敷こうと[6][8][9]、谷啓の主演作を企画し渡辺プロダクション社長・渡辺晋(当時)と交渉した[6]

1962年の『ニッポン無責任時代』を大当たりさせた渡辺は、次にクレイジーキャッツのメンバーを、ハナ肇松竹、谷啓→東映、犬塚弘大映植木等東宝と、それぞれバラで売り出す青写真を目論み[6]、伝手を頼り、松竹・城戸四郎大映永田雅一、東映・岡田茂という各社トップとの直談判を計画していた[6]。岡田は既に渥美清を起用し[10]、新しい動向を探っていたが[6][9][10][11]、岡田は谷啓も非常に買い、渥美と違ったキャラクターで売り出したいと考え、この点では両者の思惑は一致した[6]。しかし渡辺が「企画のクレジットに自分の名前を入れて欲しい」と執拗に迫ったため、岡田は「企画は私がやります。私の名前を入れます」と突っぱねたが、手練手管の交渉劇の末、企画のクレジットに渡辺の名前は入れない、しかし、企画料という名目で谷のギャラの三割を渡辺プロに払うというスタイルで商談が成立した[6]。監督は岡田が登用した瀬川昌治[9][12]。瀬川は直前まで学習院の一年先輩・三島由紀夫から許可を取り、三島の『愛の疾走』の映画化を企画していたが「文芸路線が縮小され突如企画が流れ『図々しい奴』が回ってきた」と話している[3]。谷の好演もあって『図々しい奴』は大ヒットし[3]、続編が製作された[13]。この後、東映では任侠映画が幅を利かすためか、谷の主演映画は『図々しい奴』二作品以外では、必勝法シリーズ(1967年 - 1968年)[14]しか東映では作られていない。直政役の杉浦直樹は松竹を退社した1962年以降は、1960年代は東映映画に多数出演している。

同時上映は、司馬遼太郎原作・大川橋蔵主演・加藤泰監督の『風の武士』で、興行も安定した成績を挙げた[15]

キャスト(1964年版)

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スタッフ(1964年版)

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続・図々しい奴

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続・図々しい奴
監督 瀬川昌治
脚本 下飯坂菊馬
原作 柴田錬三郎
出演者 谷啓
佐久間良子
長門裕之
杉浦直樹
上原ゆかり
中原早苗
浪花千栄子
音楽 松井八郎
撮影 山沢義一
製作会社 東映東京
配給 東映
公開 日本の旗 1964年6月3日
上映時間 97分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
前作 図々しい奴(1964年東映版)
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東映製作で同年公開された「図々しい奴」の続編。カラー作品。監督・瀬川昌治、主演・谷啓以下、佐久間良子長門裕之杉浦直樹浪花千栄子が同じ役で出演する。また作者の柴田と作家の水上勉も出演している[16]

キャスト(続)

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スタッフ(続)

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テレビドラマ

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図々しい奴
ジャンル テレビドラマ
原作 柴田錬三郎
脚本 柳沢類寿
監督 枝川弘、難波敏夫
出演者 丸井太郎
杉浦直樹
久我美子
ナレーター 永井一郎
オープニング 「図々しい奴」(谷啓
製作
プロデューサー 香取薙史
制作 TBS大映テレビ室
放送
音声形式モノラル放送
放送国・地域日本の旗 日本
放送期間1963年6月3日 - 9月9日
放送時間月曜 22:00 - 22:56
放送枠TBS月曜10時枠の連続ドラマ
放送分56分
回数15
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1963年6月3日から同年9月9日まで、TBSにて毎週月曜22時00分から1時間枠にて放映された。全15回・大映テレビ室製作・モノクロ作品。最高視聴率ビデオリサーチ・関東地区調べ)は1963年8月5日と9月9日放送の45.1%[17]。主演には大映で所謂「大部屋俳優」だった丸井太郎が抜擢された。丸井はこの作品で人気を得るが、その後は作品に恵まれず1967年に自殺した。

CS放送の「日本映画専門チャンネル」では、2005年2006年に放送された。

キャスト(テレビドラマ)

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ほか

スタッフ(テレビドラマ)

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  • プロデューサー 香取雍史
  • 脚本 柳沢類寿
  • 音楽 竹村次郎
  • 撮影 杉山伸二
  • 製作主任 風間孝雄
  • 編集 椙本英雄
  • 録音 清島竹彦、白井多美雄
  • 現像 横浜シネマ現像所
  • 監督 枝川弘、難波敏夫

主題歌(テレビドラマ)

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  • 谷啓「図々しい奴」
    • 作詞・青島幸男、作曲・萩原哲晶、編曲・竹村次郎
    • レコード版や映画版よりもテンポが幾分速い。
TBS 月曜22時枠
前番組 番組名 次番組
図々しい奴

その他

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1970年代に横山まさみちの作画による漫画が『週刊漫画ジョー』(廣済堂)、また1971年 - 1972年に逆井五郎の作画による漫画が『週刊少年ジャンプ』にそれぞれ連載された。

DVD

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  • 2019年、ベストフィールドから全15話を収録したDVD-BOXが発売されている。

脚注

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出典

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  1. ^ 瀬川昌治の乾杯ごきげん映画術|作品解説2/ラピュタ阿佐ケ谷
  2. ^ a b 瀬川昌治と喜劇役者たち〜エノケンからたけしまで - flowerwild.net ──瀬川昌治インタビュー vol.3
  3. ^ a b c 瀬川昌治『素晴らしき哉 映画人生!』清流出版、2012年、25-29頁。ISBN 978-4-86029-380-2 
  4. ^ 図々しい奴 |一般社団法人日本映画製作者連盟
  5. ^ 東映ビデオオンラインショッ プ&ポイントクラブ / 図々しい奴
  6. ^ a b c d e f g h 軍司貞則『ナベプロ帝国の興亡:Star dust』文藝春秋、1992年、149-152頁。ISBN 4-16-346010-1 
  7. ^ 歴史|東映株式会社〔任侠・実録〕(Internet Archive)、「追悼特集 プロデューサー、岡田茂 不良性感度と欲望の帝王学 岡田茂論 文・高崎俊夫」『東映キネマ旬報 2011年夏号 vol.17』2011年8月1日、東映ビデオ、4-8頁。 東映キネマ旬報 2011年夏号 Vol.17 |電子ブックポータルサイト Archived 2015-07-03 at the Wayback Machine.)、金田信一郎「岡田茂・東映相談役インタビュー」『テレビはなぜ、つまらなくなったのか スターで綴るメディア興亡史』日経BP社、2006年、211-215頁。ISBN 4-8222-0158-9 NBonlineプレミアム : 【岡田茂・東映相談役】テレビとヤクザ、2つの映画で復活した(Internet Archive)、「証言 製作現場から 『映倫カット問題が格好の宣伝効果を生む』 岡田茂」『クロニクル東映:1947-1991』 1巻、東映、1992年、174頁。 佐藤忠男 編『日本の映画人:日本映画の創造者たち』日外アソシエーツ、2007年、122頁。ISBN 978-4-8169-2035-6 山根貞男、米原尚志『「仁義なき戦い」をつくった男たち 深作欣二と笠原和夫日本放送出版協会、2005年、120頁。ISBN 4-14-080854-3 石井輝男福間健二『石井輝男映画魂』ワイズ出版、1992年、118-119頁。ISBN 4-948735-08-6 菅原文太「一代の梟雄・岡田茂」『文藝春秋』、文藝春秋、2011年8月、81-83頁。 桂千穂鈴木尚之」『にっぽん脚本家クロニクル』青人社、1996年、850頁。ISBN 4-88296-801-0 
  8. ^ a b 「鎮魂、映画の昭和 岡田茂他」『映画芸術』2011年8月号、編集プロダクション映芸、132頁。 
  9. ^ a b c 岡田茂『悔いなきわが映画人生:東映と、共に歩んだ50年』財界研究所、2001年、145-146頁。ISBN 4-87932-016-1 
  10. ^ a b 油井宏之「多チャンネル時代到来で注目される"映画界"の雄『東映』発展の足跡 東映会長・岡田茂インタビュー 『デジタル時代を迎えても即応型の東映は大丈夫だ』」『実業界』1996年11月号、実業界、104–105頁。 
  11. ^ 石坂昌三「評伝・渥美清 『寅さん』渥美清の軌跡」『キネマ旬報』1996年9月下旬号、65頁。 引き抜き、タイトル付け、リストラ…岡田茂氏「伝説」の数々 スポーツ報知2011年5月10日(archive)
  12. ^ 春日太一『仁義なき日本沈没 東宝VS.東映の戦後サバイバル』新潮社、2012年、102-103頁。ISBN 978-4-10-610459-6 
  13. ^ 山下勝利『ハナ肇とクレージー・キャッツ物語』朝日新聞社、1985年、169頁。ISBN 4-02-255410-X 
  14. ^ 喜劇競馬必勝法 大穴勝負|一般社団法人日本映画製作者連盟
  15. ^ 「シネ街」『週刊読売』1964年2月19日号、読売新聞社、37頁。 
  16. ^ 続図々しい奴 |一般社団法人日本映画製作者連盟
  17. ^ 引田惣弥『全記録 テレビ視聴率50年戦争―そのとき一億人が感動した』講談社、2004年、3頁、52頁、220頁。ISBN 4062122227

関連項目

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  • 池田氏(池田家) - 作中に登場する「伊勢田家」のモデル。岡山藩の項も参照。

外部リンク

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1961年版
1964年版