山手133番館

山手133番館
Bluff No.133
山手133番館、南西側外観。2022年10月に公道上から撮影。
山手133番館の位置(横浜市内)
山手133番館
山手133番館の位置(神奈川県内)
山手133番館
山手133番館の位置(日本内)
山手133番館
情報
旧用途 賃貸住宅
設計者 不詳
施工 宮内工務店[1]
管理運営 三陽物産
構造形式 木造
敷地面積 790.24 m² [2]
建築面積 121.69 m² [2]
※ほかに付属屋15.95m2、車庫22.11m2
延床面積 233.41 m² [2]
※ほかに付属屋30.25m2、車庫22.11m2
階数 2階建
戸数 1
竣工 1930年ごろ
改築 2021-2022年
所在地 231-0862
神奈川県横浜市中区山手町133番
座標 北緯35度26分7.3秒 東経139度39分25.9秒 / 北緯35.435361度 東経139.657194度 / 35.435361; 139.657194 (山手133番館
Bluff No.133
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座標: 北緯35度26分7.3秒 東経139度39分25.9秒 / 北緯35.435361度 東経139.657194度 / 35.435361; 139.657194 (山手133番館
Bluff No.133
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山手133番館(やまて133ばんかん)は、神奈川県横浜市中区山手町に所在する家屋である。山手に残る西洋館の一つで、2020年に市内の洋菓子店が取得し、修復・保全が行われている。

歴史

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2015年の横浜国立大学大学院の白川葉子が行った当時の所有者への聞き取り調査によると、建築主はイギリス人貿易商のブロックハーストで、外国人向けの住宅として建てられた[1]。家屋課税台帳によると、建築時期は関東大震災後の1930年昭和5年)頃とみられ、当時のディレクトリ[注釈 1]には、当初はライジングサン石油[注釈 2]の関係者が居住した記録が残る[3]第二次世界大戦後の1945年から1953年にかけては占領軍に接収されたが、それ以外の期間は貸家としてパンアメリカン航空IBMなど[1]の数組の家族が居住した履歴がみられる[2]。接収期間中は、米軍大佐のバーンズが居住していた。バーンズはユタ州ダグウェイ実験場アントニン・レーモンドの設計による「日本村」を設け、日本家屋を効率的に燃焼させる焼夷弾の実験を行っていた。この実験にはスタンダード・オイルが協力しており、レーモンドが日本においてスタンダード・オイル関連施設に携わっていたことが関係するとみられている[3]

戦後に所有権が移り、日本人が大家となった[4]。1983年に公開された薬師丸ひろ子主演の映画『探偵物語』ではロケ地の一つとして使われている[1]。2011年の東日本大震災当時はアメリカ人が居住しており、煙突が折れる被害があった[1]

2017年。所有者から物件を売却したいとの意向が示され、公益社団法人横浜歴史資産調査会横浜市役所都市デザイン室担当者と所有者の間で話し合いがもたれたが、資金面から買取はできず、所有者側からも寄贈はできないとの回答があった[3]

中区長者町で「パティスリー モンテローザ[注釈 3]」を営む三陽物産社長の山本博士は、2020年に不動産サイトでこの物件が売りに出されているのを知る。関東大震災以降山手地区に74軒建てられた洋館は2020年代初頭には半数以下の33軒しか現存しておらず、山手133番館がこのまま解体されることを危惧した山本は[4]社内の了承を取り付け、会社名義で土地と建物を取得した[5]。2021年3月31日に横浜市認定歴史的建造物に認定され[2]市の助成が受けられることになり[6]、同社の創業60周年記念事業として2021年6月より修復工事が進められる[7]。 建物の以前の様子の手掛かりを探す中で、1957年から1964年まで、子ども時代に家族とともにこの家で暮らしたかつての住人とも連絡を取ることができた[8]

屋根の葺き替えや耐震補強は2022年2月に完了。その後外壁や建物内部の修復、建物周囲の外構工事などが行われ、2022年6月30日に修復工事が全面完成した[9]

2023年(令和5年)3月、建物の一部を囲む「ブラフ積擁壁」が横浜市の歴史的建造物に認定された[10]

建築と修復

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前述の白川の聞き取り調査によると、施工者は宮内工務店と考えられる[1]。設計者は不詳であるが、同時期の既知の建物との類似点[注釈 4]から、アントニン・レーモンドの関与も示唆されている[2]山手本通りから離れた高台に立地し、ワシン坂方面に眺望が開ける。埋立が進む前は、目の前に海が望めたと考えられる。敷地の境界には、明治時代に築造されたと推定されるブラフ積み[注釈 5]の石垣が残る。建物は2階建のスパニッシュスタイルの5LDK[4]の主屋と、東側の付属屋、主屋北側の車庫の3棟で構成。主屋には1階に居間応接間食堂台所パントリーなどがあり、付属屋とは台所で接続している。居間には暖炉とベイウインドウ英語版があり、食堂との間は大きな引き戸で仕切ることができた。玄関ホールの階段で2階に上がると、3つの寝室と2つの浴室がある[3]。付属屋の内部は和室で、主に使用人が使っていた[2]

耐震補強や外観の復元は保土ケ谷区の建築士兼弘彰が担当[6][注釈 6]し、できる限り昭和初期のオリジナルの姿に戻すことを目指した。修復前は白い外観であったが、塗装の一部を削り取り元の色が判明、黄色に塗装し直した。屋根のフランス瓦は3割程が破損してしまっていたが、港北区にある横浜市認定歴史的建造物から譲り受け、不足分は愛知県の業者に特注。戦前のが発見され、納入にこぎつけた[6]。内部は住居として使われることを考慮し、照明や空調はデザインを損なわない程度に新調。水回りも最新設備を取り入れた[7]

修復工事完成のお披露目を兼ねて2022年10月1日にリードオルガンのコンサートが開かれたが、原則として内部は非公開[9]。物件取得から復元工事完成に至る経緯は、YouTubeの動画で公開されている[13]

脚注

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注釈

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  1. ^ 外国人人名録。Bluff Directoryと称した。
  2. ^ のちの昭和シェル石油
  3. ^ 居酒屋チェーンのモンテローザとは異なる。
  4. ^ 当時としては珍しかったスチールサッシや、複数の調度品、床や下地の工法などにレーモンド事務所の作品との類似点がみられるが[2]、客観的な裏付けは得られていない[4]。山手地区から元町公園に移築された「エリスマン邸」や、旧ライジングサン石油の社宅で1977年に学校法人フェリス女学院が取得した「山手10号館」もレーモンドにより設計された。
  5. ^ 房州石を使い、1段ごとに石材の小口と長手を交互に積む擁壁の構築方法。山手を中心とする横浜市や、横須賀市に多くみられた[11]
  6. ^ 東日本大震災で被災した宮城県気仙沼市登録有形文化財「男山本店」など、近代建築修復の実績がある[12]

出典

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  1. ^ a b c d e f 白川葉子「横浜山手に現存する個人所有住宅(洋館)の履歴・変遷とその考察」(PDF)『住総研 研究論文集』第42巻、一般財団法人住総研、2015年、133-144頁、2022年10月28日閲覧 
  2. ^ a b c d e f g h 『山手133番館』を歴史的建造物として認定しました』(PDF)(プレスリリース)横浜市役所都市整備局都市デザイン室、2021年3月31日https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/koho-kocho/press/toshi/2020/0331yamate133nintei.files/0007_20210330.pdf2022年9月25日閲覧 
  3. ^ a b c d 関和明「歴史的建造物・山手133番館について」(PDF)『ヨコハマヘリテイジスタイル』2021年早春号、横浜歴史資産調査会、2021年2月1日、2022年11月2日閲覧 
  4. ^ a b c d “レーモンドが設計!?「山手133番館」保全へ 目指せ「歴史的建造物」 一般公開も検討”. 東京新聞. (2020年9月6日). オリジナルの2021年5月16日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20210516030536/https://www.tokyo-np.co.jp/article/53617 2022年10月28日閲覧。 
  5. ^ “三陽物産 山手の西洋館 復元完了”. タウンニュース 南区版. (2022年10月13日). https://www.townnews.co.jp/0114/2022/10/13/646069.html 2022年10月28日閲覧。 
  6. ^ a b c “山手133番館の修復が完了 往時の姿「実感して」”. 神奈川新聞カナロコ. (2022年8月15日). オリジナルの2022年8月15日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220815084114/https://www.kanaloco.jp/special/kikaku/minato/article-930814.html 2022年10月28日閲覧。 
  7. ^ a b “横浜の「山手133番館」往時の姿、再び 修復工事終わる 10月に限定公開”. 東京新聞. (2022年7月31日). オリジナルの2022年8月12日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20220812093757/https://www.tokyo-np.co.jp/article/192829 2022年10月28日閲覧。 
  8. ^ “横浜市歴史的建造物「山手133番館」 菓子店が取得し修繕進む”. ヨコハマ経済新聞. (2022年4月20日). https://www.hamakei.com/headline/11792/ 2022年10月31日閲覧。 
  9. ^ a b “横浜市歴史的建造物「山手133番館」 修復完了記念にお披露目見学会”. ヨコハマ経済新聞. (2022年8月23日). https://www.hamakei.com/headline/11936/ 2022年10月31日閲覧。 
  10. ^ 横浜・山手133番館「ブラフ積擁壁」市歴史的建造物に”. 神奈川新聞. 2023年5月29日閲覧。
  11. ^ 山手地区のブラフ積擁壁について (PDF)
  12. ^ “国登録有形文化財・気仙沼市指定有形文化財 男山本店店舗保存修理工事について、 設計を担当された、ユー・エス・シー様にお話をうかがいました”. オスモマガジン. (2022年7月15日). https://osmo-edel.jp/column/nationally-registered-tangible-cultural-property-otokoyama-head-office/ 2022年10月31日閲覧。 
  13. ^ 山手西洋館復元チャンネル - YouTubeチャンネル
  14. ^ "横浜市認定歴史的建造物『山手133番館』について" (Press release). 横浜植木株式会社. 7 October 2022. 2022年11月2日閲覧

外部リンク

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