 | この項目では、ベクトルバンドルの接続概念について説明しています。微分幾何学における接続全般に関する説明については「接続 (微分幾何学)」を、カルタン接続については「カルタン幾何学」を、その他の用法については「接続」をご覧ください。 |
ベクトルバンドルの接続(せつぞく、英: connection)とは、微分幾何学の概念で、接ベクトルバンドルやより一般のベクトルバンドルに微分概念を定義する演算子である。接続に定義される微分概念を共変微分という。
接続および共変微分の概念は元々リーマン多様体上のベクトル場の微分を定義するために導入されたもので、この接続をレヴィ-チヴィタ接続という。一般の接続概念はレヴィ-チヴィタ接続の満たす性質を自然に一般のベクトルバンドル拡張する事で得られる。
接続によって定まる重要な概念の一つとして平行がある。これは与えられたベクトル場の与えられた曲線に沿った共変微分が0になる、という趣旨の概念で、曲線に沿って平行なベクトル場X(あるいはより一般にベクトルバンドルの切断)により、曲線の起点PにおけるベクトルXPが曲線の終点曲線の起点QにおけるベクトルXQに平行移動されたとみなす。 これにより、(何ら構造が定義されていない)多様体では無関係なはずの点PにおけるベクトルXPと点QにおけるベクトルXQにおけるベクトルを「接続」して関係づけて考える事ができる。
接続によって定まるもう一つの重要概念として曲率があり、これはベクトルバンドルの「曲がり具合」を表している。特に接ベクトルバンドルの曲率は多様体それ自身の「曲がり具合」とみなせる。曲率概念は歴史的には3次元ユークリッド空間
内の曲面に対して定義されたものだが、実は「外の空間」である
がなくても定義できる曲面に内在的な量である事が示されたので、これを一般のリーマン多様体(の接ベクトルバンドル)、さらには一般のベクトルバンドルに対して拡張したものである。多様体に内在的な量としてみなしたとき、曲率の幾何学的意味は、閉曲線に沿ってベクトルを一周平行移動したとき、もとのベクトルとどの程度ずれるかを測った量であるとみなせる。
接続概念はゲージ理論やチャーン・ヴェイユ理論で用いられる。特にチャーン・ヴェイユ理論の特殊ケースとして、曲面に関する古典的なガウス・ボンネの定理を一般の偶数次元多様体に拡張するのに役立つ。
接続の概念を定義するため、ベクトルバンドル関連の概念をいくつか定義する。
定義から分かるように、接バンドルTMの切断の概念は、Mのベクトル場の概念に一致する。よってM上のベクトル場全体の集合
は
に一致する[1]。
可微分多様体M上の可微分な2つのベクトルバンドル
、
に対し、写像

を考える。
定義 ― 任意の開集合
および任意の
に対し、

が成立するとき、αは局所演算子(英: local operator)であるという[3]。
また任意の
および任意の
に対し、

となるとき、αは点演算子(英: point operator)であるという[3]。
実は次が成立する:
また次が成立する:
一般のベクトルバンドルに対する接続を定義するため、レヴィ-チヴィタ接続について簡単に振り返る。
Mを
の部分多様体とし、X、YをM上のベクトル場とするとき、

により定義する。ここで
は時刻0に点
を通るXの積分曲線である。実はこれらの量はMの内在的な量である事、すなわち
からMに誘導されるリーマン計量(とその偏微分)のみから計算できる事が知られている。
そこで
をリーマン多様体
に内在的な値とみなしたものを考える事ができる。この
は以下の公理で特徴づけられる事が知られている:
定理 (リーマン幾何学の基本定理) ― M上のベクトル場の組にM上のベクトル場を対応させる汎関数∇で以下の5つの性質をすべて満たすものが唯一存在する[6][7]。このを
のレヴィ-チヴィタ接続といい、
をレヴィ-チヴィタ接続から定まるYのXによる共変微分という[8][9][10]:
はXに関して
-線形
はsに関して
-線形 
![{\displaystyle \nabla _{X}Y-\nabla _{Y}X=[X,Y]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/8c6e5703b32d7cbf681d8c5c7304eb681147024d)

ここでX、Y、ZはM上の任意の可微分なベクトル場であり、f、gはM上定義された任意の実数値C∞級関数であり、a、bは任意の実数であり、
は点
において
となるベクトル場であり、
はfのX方向微分であり、
はリー括弧(英語版)である。
具体的には局所座標
を使って、
、

- where

と書ける。
を局所座標
に関するクリストッフェル記号という。
レヴィ-チヴィタ接続の概念を一般化したものとして、ベクトルバンドルに対する接続の概念がある。接続の概念はゲージ理論やチャーン・ヴェイユ理論で重要な役割を果たす。本項では、議論の一般性を確保するために接続の概念を導入するが、あくまでレヴィ-チヴィタ接続やそこから誘導される接続を主軸として話を進める。
を可微分多様体M上の可微分な実ベクトルバンドルとし(E、Mのいずれにもリーマン計量が入っているとは限らない)、
をEの切断全体の集合とし、
をM上のベクトル場全体の集合とする。
接続は前述したレヴィ-チヴィタ接続の公理的特徴づけの5つの性質のうち3つを使って定義される:
ここでXはM上の任意のベクトル場であり、sはEの任意の切断であり、fはM上定義された任意の実数値可微分関数であり、
は点Pにおいて
となるベクトル場であり、
はfのX方向微分である。明らかにレヴィ-チヴィタ接続はアフィン接続である
なお、Koszul接続の事を線形接続(英: linear connection)と呼ぶ文献[19][20]もあるが、この言葉をアフィン接続の意味で用いている文献[21]や、接バンドルのフレームバンドル(英語版)上の接続の意味で用いている文献[22][23][注 2]もあるので注意が必要である。
またアフィン接続という名称ではあるが、この接続に関する事項、例えば平行移動は線形変換になり、(線形変換以外の)アフィン変換にはならない。この名称は、この接続をカルタン接続とみなしたときにアフィン空間をモデルとするカルタンの幾何学とみなせる事による。詳細はカルタンの幾何学の項目を参照されたい。
Eに計量gが定義されているときには、以下の概念を定義できる:
定義 (リーマン計量と両立する接続) ― Eの任意の切断s1]、s2]に対し

が成立する場合、
はリーマン計量gと両立する(英: compatible with g)といい、
は計量接続(英語版)(英: metric connection)であるという[24]。
また、
の場合、すなわち∇が多様体M上のアフィン接続である場合は以下のテンソルを定義できる:
定義 (捩率テンソル) ―
![{\displaystyle T_{\nabla }(X,Y):=\nabla _{X}Y-\nabla _{Y}X-[X,Y]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/13b435fe5646cae84540e6bdc28b24d5c9f6c8ed)
を捩率テンソルという。
捩率テンソルの詳細は後の節で述べる。
リーマン幾何学の基本定理から、レヴィ-チヴィタ接続とは、(唯一の)捩れなしの計量アフィン接続として特徴づけられる。
ライプニッツ則を用いると、以下を示す事ができる:
定理 ― 接続
はsに関して局所演算子である。
はXに関して
-線形であり、したがって点Pにおける値
がXのPにおける値XPのみから決まる。この事に着目すると、接続を若干違った角度から定式化できる。これを見るため、Eに値を取る線形写像
を

と定義すると、余接ベクトル空間T*Mの定義から、

とみなせる。そこでMの各点Pに
を対応させる切断

を考える事ができる。よって接続
は、Eの切断sに
の切断を対応させる写像

とみなせる。この事実を用いると、接続
を以下のようにも定義できる:
定義 (接続の別定義) ―
-線形写像

で以下の性質を満たすものをE上の接続(英: connection)という[25]:

上記の2つの定義は同値であるが、後者はXを明示しない分数学的取り扱いが若干楽になる場合が多い。
を開集合
上で定義されたEの局所的な基底とする。接続
はsに関して局所演算子であったので、
のUへの制限
を考える事ができる。以下、紛れがなければ
の事を単に
と書く。
XをM上のベクトル場とし、
をEの切断とすると、接続の定義から

である。この式は、共変微分
にライプニッツ則を適用して係数部分の微分
と基底部分の微分
の和として表現したものと解釈できる。
そこで以下のような定義をする:
定義 (接続形式) ― 行列
を

により定義し、Xに
を対応させる行列値の1-形式
を局所的な基底
に関する接続∇の接続形式(英: connection form)という[26][注 3]
定義から明らかに、

である。
さらに
を成分で、
と表記すると、

とレヴィ-チヴィタ接続のときと同様の成分表示が得られる。
を(局所座標
と局所的な基底
に関する)接続係数(英: connection coefficient)[28]、あるいはレヴィ-チヴィタ接続の場合の名前を流用し、クリストッフェル記号という[29]。
本節ではアフィン接続

に対し、先に定義した捩率テンソル
![{\displaystyle T_{\nabla }(X,Y):=\nabla _{X}Y-\nabla _{Y}X-[X,Y]}](https://wikimedia.org/api/rest_v1/media/math/render/svg/13b435fe5646cae84540e6bdc28b24d5c9f6c8ed)
の性質を述べる。
「捩率」という名称に関してはLoring W. Tuによれば「
を「捩率」と呼ぶうまい理由は無いように見える」[30]が、このテンソルには以下のような意味付けが可能である。
なめらかな任意の写像
に対し、リー括弧の性質より
であることから、
とすると、

が成立する事を示せる。すなわち捩率テンソルは2つの微分の非可換度合いを表す量である[31]。
また(アフィン空間をモデルとする)カルタン幾何学においては上記のものとは異なった意味付けが可能で、(カルタン幾何学の意味での)曲率の「並進部分」が捩率に対応している。詳細はカルタン幾何学#曲率の分解の節および捩率テンソル#カルタン幾何学の章を参照されたい。
捩率テンソルの性質を見る。
ここでX、YはM上の任意の可微分なベクトル場である。
上述の定理と前に述べた定理から、以下の系が従う:
系 ― 捩率テンソルはバンドル写像
であるとみなせる。
接続
と捩率テンソルも局所座標で


と書くとき、次が成立する[33][34]:
定理 ― 任意のi、j、kに対し、

よって捩率テンソルが恒等的に0になる接続、すなわち捩れなし(英: torsion-free)の場合、Γi
jkはj、kに対して対象なテンソルになる。このため捩れなしの接続の事を対称(英: symmetric)な接続ともいう[33]。
外微分dに対し、次が成立する:
証明

であることから従う。
すなわち
が捩れなしである事は、
が外微分と「両立」する事と同値である。
本節では、あるベクトルバンドル上定義された接続から別のベクトルバンドル上の接続を定義する方法を述べる。その過程でレヴィ-チヴィタ接続のときにも議論した曲線
に沿った共変微分に関しても述べる。
これまで同様
をM上の可微分なベクトルバンドル
の接続とし、さらに
を可微分多様体NからMへの可微分な写像とすると、fによるEの引き戻し(pullback bundle)

を考える事ができる。
N、Mの局所座標
、
で、
となるものを選び、さらにU上のEの基底
を選んで接続
を接続形式を使って

と成分表示する。
がwell-definedな事の証明は省略する。接続係数を使えば、

である。
引き戻しの特殊な場合として、Nが線分の場合がある。この場合写像
はM上の曲線とみなせる。曲線
に沿った切断sに対し、

を考える事ができる。
を接続
によって定まる曲線
に沿った切断sの共変微分という。成分で書けば

となるので、レヴィ-チヴィタ接続の場合の曲線
に沿った切断sの共変微分の概念の一般化になっている事がわかる。
多様体M上の2つのベクトルバンドルE1、E2があり、E1、E2にはそれぞれ接続
、
が定義されているとする。このとき、
上に
により、接続が定義できる[36]。また
上に
により、接続が定義できる[36]。
MのベクトルバンドルEに接続
が定義されているとき、Eの双対バンドルE*に以下の性質を満たす接続
を定義できる[37][36]:
ここでXはM上の任意のベクトル場であり、sはEの任意の切断であり、ωはE*の任意の切断であり、
はEの双対ベクトル空間E*の元とEの元との内積である。紛れがなければ∇*を単に∇と書く事も多い。
Eにリーマン計量がg定義されている場合、EとE*は自然に同一視でき、

が成立する事になるが、一般には
と
は異なる。情報幾何学の分野では
の事を
の双対接続(英: dual connection)[38]という。
次が成立する:
ここで
は
上の双線形写像gを自然に
の元とみなしたときの共変微分である。
また簡単な計算から以下が従う:
ここで「
」はωの転置行列である。
接続の定義から明らかに以下の性質を示すことができる:
定理 ―
を多様体M上ののベクトルバンドルEの接続とする。このとき、

もEの接続である。
また、2つの接続

に対し、

とすると、
がX、s双方に関して
-線形である事が示せ、したがって前に述べた定理から
は
というバンドル写像だとみなせる。逆に接続
とバンドル写像
が与えられると、

もE上の接続である事を確かめられる。まとめると、以下の定理が成り立つ:
を取り、EのU上の局所的な基底
を固定し、切断sを
と成分表示すると、

により局所的に接続を定義できるが、

の成分表示は

とクリストッフェル記号を用いて書ける[39]。
この事からクリストッフェル記号は
とのズレを表す量であると解釈できる。
をM上の可微分なベクトルバンドル
の接続とし、
をM上の区分的に滑らかな曲線とし、sを
上のEの切断とする。すなわち各
に対し、
が定義でき、
が可微分であり、しかも
が任意のtに耐いて成立するものとする。
定義 ―

が恒等的に成立するとき、切断sは
に沿って平行(英: parallel along
)であるという[40]。
Mがユークリッド空間でEがその接バンドルである場合、
であれば、ベクトル
は
の基点がtによって動くだけでその大きさも向きも一定である。すなわち
に沿って
を「平行移動」して動かしている事になるので、一般のベクトルバンドルの場合にも
である事を平行と呼ぶのである。
に沿った切断
、
がいずれも
に沿って平行であり、しかも時刻
のとき
であれば、別の時刻
でも
である事を容易に示すことができる。よって写像

は切断
の取り方によらずwell-definedである。
球面上の平行移動。測地線(=大円)で囲まれた三角形上でベクトルを一周平行移動すると、もとに戻ってきたときに元のベクトルには戻らない。 ユークリッド空間の場合と違い、どの曲線に沿って平行移動したかによって平行移動の結果が異なる事に注意されたい。すなわち曲線
に沿った平行移動を
、曲線
に沿った平行移動を
とするとき、たとえ
、
であっても
であるとは限らない。この現象をホロノミー(英語版)(英: holonomy)という[41]。
の定義より、
は
から
への写像であるとみなせるが、この写像は以下を満たす:
定理 ―
は線形同型である[42]。
よって平行移動により、(接続や計量が定義されていない)多様体Mでは本来無関係のはずの
と
がつながって(connect)、
の元と
の元を比較する事ができるようになる。接続(connection)という名称は、ここから来ている。
Eにリーマン計量gが定義されているときは以下が成立する事を容易に示せる:
定理 (平行移動による計量の保存) ―
がEのリーマン計量gと両立するとき、任意の
に対し、以下が成立する:

曲線
上定義されたEの切断
で、各時刻tに対して
がEPの基底の基底になっており、しかも
が
に沿って平行なものを
に沿った水平フレーム[訳語疑問点](英: horizontal frame)という。
これまで共変微分の概念を用いる事で平行移動の概念を定義してきたが、逆に平行移動の概念を用いて共変微分を特徴づけることができる:
ここで
はベクトル空間
における微分
である。なお、
はtによらず
に属するので、
上の差や極限を考えることができる。
証明
を
の基底とし、
(for
)とし、
と成分表示すると、

が成立する。
の定義から
は
に沿って平行なので、上式右辺第二項は0である。よって、

となり定理が証明された。
上記の定理を用いると、共変微分の成分表示に意味を持たせる事ができる。これをみるため
をMを局所座標とし、xを成分で
とあらわし、さらに
をU上定義されたEの局所的な基底とすると、




であるので、これを共変微分の成分表示

と比較する事で、以下が結論付けられる:
すなわち

の第一項、第二項はそれぞれ、
をライプニッツ則に従って微分したときのsiの方の微分、eiの方の微分に対応していると解釈できる。
点P∈Mを固定するとき、Pから出てP自身へと戻る各閉曲線Cに沿った平行移動はEPからEP自身への線形同型写像
を定めると、曲線の連結CC'に対し
となるし、Cの逆向きの曲線を
とすると、
となる事が容易に示せる。
よって
はPから出てP自身へと戻る閉曲線
とすると、
はEPの自己線形同型のなす群の部分群をなす。
をPにおけるEの
に関するホロノミー群(英: holonomy group)という。なお、Mが弧状連結であればPによらず
が同型である事を容易に示せるので、Pを略して単に
とも書く。
また、
はPから出てP自身へと戻る閉曲線でM上0-ホモトープなもの
とすると、
は
の部分群をなす。
をPにおけるEの
に関する制約ホロノミー群(英: restricted holonomy group)という。Mが弧状連結であればPによらず
が同型である事も同様に示せるので、Pを略して単に
とも書く。
定義から明らかなように、
、
はEP上の線形同型全体のなすリー群
の部分群である。実は次が成立する事が知られている:
定理 ―
は