日本標準時
日本標準時(にほんひょうじゅんじ、英: Japan Standard Time、略語:JST)は、総務省所管の国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)の原子時計で生成・供給される協定世界時(UTC)を9時間(東経135度分の時差)進めた時刻(すなわちUTC+9)をもって、日本において標準時(STDT)としたものである[1][2][3]。同機構が決定するUTCは「UTC(NICT)」と称され、[4]、国際度量衡局が決定する協定世界時(UTC)との差が±10ナノ秒以内であることを目標として調整・管理されている[5]。単に日本時間と呼ばれることもある。NICTが通報する標準時は、日本全国で日本放送協会(NHK)などの放送局やNTT(117特番)の時報などに用いられている[6][7][8].
一方、中央標準時(ちゅうおうひょうじゅんじ、英: Japan Central Standard Time、略語:JCST[9][10][11])は、文部科学省所管の大学共同利用機関法人自然科学研究機構(NINS)国立天文台が決定し、現実の信号として示す時刻で[12]、水沢キャンパスの天文保時室でセシウム原子時計が運転されている[13]。天文保時室は2022年4月から天文情報センターに加わり、2023年2月現在は水沢キャンパスで運用しているが、徐々に三鷹キャンパスに移設しようとしている[14]。 なお、国立天文台が法令に基づいて暦書として編製する「暦象年表」や[15]、科学データブックとして編纂する「理科年表」では中央標準時について中央標準時=協定世界時+9h としている[16][17]。
日本標準時(JST)と協定世界時(UTC)との差を示す場合などには、「12:31:40 (UTC+0900)」(日本標準時で12時31分40秒の場合)などと表記される。
標準時と中央標準時
[編集]日本における「標準時」に関する法令は十分に整理されておらず、法令上「標準時」と「中央標準時」という名称は現れるが、「日本標準時」という名称は現れない[18]。
日本国の法令では、標準時の定義について「東経135度の子午線の時」をもって日本における一般の標準時と定め[19]、その標準時を中央標準時と称する[20]こと以外に具体的な定めはないとのこと。
ただし、標準電波の発射および標準時の通報に関しては、総務省国際戦略局技術政策課がその事務をつかさどる[21][22](この所掌事務は、旧電気通信省[23]から旧電波監理委員会[24]、旧郵政省[25]を経て総務省に引き継がれている)。さらに、郵政大臣(総務大臣の前身)が法令[26][27]に基づいて発した郵政省告示[3]により、標準電波で通報される標準時は協定世界時を9時間進めた時刻とされる(この定めは、1971年(昭和46年)の郵政省告示(1972年(昭和47年)1月1日施行)[28]からである)。なお、NICTは法令と告示に基づいて標準電波を発射し、および標準時を通報する業務を行うとされる[29]。
また、中央標準時の決定および現示に関しては、国立天文台がその事務を目的[15]の一部として設置[30]されている(この設置目的は、1955年(昭和30年)に改正された旧東京大学東京天文台の目的[31]から引き継がれている[32])。したがって中央標準時は、法令に基づいて国立天文台が中央標準時として決定・現示する時刻と言えるかもしれない。
NICTが通報する標準時と、国立天文台が決定・現示する中央標準時との関係については、どちらの機関も国際原子時の作成に寄与する原子時計を運転し[33][34][5]、それらの時計で決定する協定世界時(UTC)+9時間をそれぞれ標準時[2]、中央標準時[17][10]としているが、いかに不確かさが小さい(正確度と精度に優れた)時計であっても、同一の時計ではないので完全に時刻が一致することはない。これについて、NICTを所管する総務省と国立天文台を所管する文部科学省は、共同告示により、NICTが通報する標準時については国立天文台の決定する中央標準時により、その偏差を算出し、これをNICTにおいて公表するとしている[35]。
なお、過去の関係やその経緯については、#標準時の通報の歴史 を参照。
夏時間(サマータイム)
[編集]1952年の夏時刻法廃止後、法令での夏時間(サマータイム)[注 1]の採用はない。夏時刻法が適用されていた1948年 - 1951年のみ、5月(1949年のみ4月)第1土曜日から9月第2土曜日まで、サマータイムが実施されていた。なお、2004年 - 2006年(同年で終了)の7月 - 8月に北海道札幌市で試行されたいわゆる「北海道サマータイム」は、標準時を変えずに始業・終業時刻を1時間早める試みで、通常[注 1]の意味での夏時間ではない。
JSTと定義が同じ標準時
[編集]以下の標準時は、日本標準時(JST)と同じく協定世界時(UTC)を9時間進めた時刻である(厳密には、基準とする原子時計が異なるため、わずかな不確かさ(誤差)はある)。
- ヤクーツク標準時 - ロシアのサハ共和国西部、アムール州で使われる。
- インドネシア東部標準時(WIT)- インドネシア東部(イリアンジャヤ、モルッカ諸島など)
- 韓国標準時(KST)- 大韓民国全土。
- パラオ標準時(PWT)- パラオ全土。
- 東ティモール標準時(TLT)- 東ティモール全土。
- 平壌標準時(PYT)- 朝鮮民主主義人民共和国全土。2015年8月15日から2018年5月5日までは30分の時差が設けられた[36]。
JSTと定義が同じで、すでに廃止された標準時
[編集]- オーストラリア西部夏時間(AWDT)- 2006年から2009年まで試験施行されていたが、本施行はされなかった[37]。
- イルクーツク標準時(IRKT)- ロシアのイルクーツク周辺で使われた(2014年より-1時間)。
- モンゴル夏時間(MNST)- 2007年に廃止されたが、2015年に復活した[38]。その後、2017年に再び廃止された。
歴史
[編集]日本の標準時に関して初めて制定された法令は、本初子午線経度計算方及標準時ノ件(明治19年勅令第51号、1886年(明治19年)7月13日公布)である。この勅令では、グリニッジ天文台子午儀の中心を通る子午線(グリニッジ子午線)を本初子午線(経度0度)とし、東西それぞれ180度で、東を正、西を負として表すことを定めたうえ、東経135度(GMT+9:00)の時刻を日本の標準時(「本邦一般ノ標準時」)と規定した。この日本の標準時に関する部分は1888年(明治21年)1月1日から適用された[19]。
その後、標準時ニ関スル件(明治28年勅令第167号、1895年(明治28年)12月28日公布、1896年(明治29年)1月1日施行)が制定され、第1条において東経135度の標準時の呼称を「中央標準時」と、第2条において東経120度(GMT+8:00)の時刻を「西部標準時」とそれぞれ規定した。後者は八重山列島・宮古列島と日本統治下の台湾・澎湖諸島に適用された。中央標準時と西部標準時との時差は1時間であった[39]。
朕󠄂標準時ニ關スル件ヲ裁可シ茲ニ之ヲ公󠄁布セシム
御 名 御 璽
明治二十八年十二月二十七日
內閣總理大臣侯爵󠄂伊 藤󠄁 博󠄁 文󠄁
文󠄁 部大臣侯爵󠄂西園寺公󠄁望󠄁
勅令第百六十七號
第一條 帝󠄁國從來ノ標準時ハ自今之ヲ中央標準時ト稱󠄁ス
第二條 東經百二十度ノ子午線ノ時ヲ以テ臺灣及󠄁澎湖列島竝ニ八重山及󠄁宮古列島ノ標準時ト定メ之ヲ西部標準時ト稱󠄁ス
第三條 本令ハ明治二十九年一月一日ヨリ施行ス
この「二つの日本時間」は41年あまり続いたが、明治二十八年勅令第百六十七号標準時ニ関スル件中改正ノ件(昭和12年勅令第529号、1937年(昭和12年)9月25日公布、同年10月1日施行)という改正勅令により、前の明治28年勅令第167号の第2条(西部標準時に関する条)の条文が削除され、再び日本の標準時はひとつとなった。なお、この改正では第1条(中央標準時に関する条)については改正されなかったため、「中央標準時」との呼称は維持された[40]。西部標準時が年半ば(9月)で廃止された理由は、台湾・澎湖諸島ならびに八重山・宮古列島において、政治、経済、交通その他諸般の点に鑑み中央標準時に依る必要があることによるとされる[41]。1954年(昭和29年)ごろ、中央標準時の中央を除くことや明治以来の時関連の法令改正案が検討されていたようだが、日の目を見ることはなかった[42]。
この2つの勅令は現在も政令として有効であり[43][44][45](文部科学省所管)、「中央標準時」が日本の標準時の法令上の正式名称とされる[46]。現行法上、上記勅令以外にも、電波法施行規則[47]、無線局運用規則[48]や国立大学法人法施行規則[49]において用いられている。
ちなみに、この改正が行われた当時は本土の標準時とは別に、1920年ヴェルサイユ条約・パリ協定で日本の委任統治領となった、南洋諸島の標準時が1919年2月1日より施行されており、南洋群島東部標準時が日本の中央標準時+2時間(東経165度線)、南洋群島中部標準時で日本の中央標準時+1時間(東経150度線)、南洋群島西部標準時は日本の中央標準時と同じであった。1937年に南洋群島東部標準時(中央標準時+1時間)・南洋群島西部標準時(中央標準時と同じ)の2つに再編している。1945年の敗戦による統治権の放棄により廃止した[42]。なお、当時日本の施政下にあった千島列島は東端(占守島)が東経156度であるが、全域で中央標準時が用いられていた。
South Ryukyu Islands時間
[編集]FreeBSDなど一部のUnix系オペレーティングシステム (OS) では、1999年初頭までインストール時にタイムゾーンとして「Japan」を選択すると、選択肢として「Most Locations」と「South Ryukyu Islands」の2つの選択肢が現れ、「South Ryukyu Islands」を選ぶとタイムゾーンとして西部標準時(UTC+8)が設定される問題が存在した。
これはこれらのOSがタイムゾーン設定の元データとして利用しているtzdataに誤って西部標準時に関するデータが含まれていたためである。これの元は「The International Atlas (3rd edition)」(Thomas G. Shanks、1991年)という文献において、「西部標準時が現在も石垣市を含む地域で使用されている」旨の誤った記載が行われていることが原因であった。
このことが雑誌「UNIX USER」(ソフトバンク)で取り上げられた結果、1999年にはtzdataから西部標準時が削除され、その後のバージョンでは「South Ryukyu Islands」という選択肢はなくなった[50]。2006年4月1日にリリースされた、エイプリルフール版のFreeBSD 2.2.9-RELEASEでは、このバグがわざと残されている。
標準時の通報の歴史
[編集]標準時の通報や、有線/無線報時に関する歴史は次の年表の経過をたどる。
標準時の報時のはじまり
[編集]無線報時のはじまり
[編集]- 1911年(明治44年)12月
- 1912年(大正元年)9月
- JJCの無線報時が正式業務として開始される[62]。
- 1919年(大正8年)
- 国際報時局(BIH、現 国際地球回転・基準系事業)が設立される[63]。
- 1921年(大正10年)11月24日
- 1922年(大正11年)
- 1924年(大正13年)4月
- 1925年(大正14年)
- 1933年(昭和8年)
- 1948年(昭和23年)
- 三鷹国際報時所が東京天文台に併合される[72]。
- 1948年(昭和23年)ころ、東京天文台の時計室にはリーフラー製の天文用振り子時計[70]が南向きと東向きに据え付けてあった。小さな地震でも狂うので、クロノグラフを描かせてクロノメーターと比較し、歩度の変化があれば調整が実施された。この時計室の真上に報時室があり、2台のルロア型の発信時計から報時信号が出された。なお、当時の報時は、午前11時と午後9時、および午後4時半の3回、JJCの発信符号による無線報時のほか、正午に有線の報時を行っていた。報時は、最も新しい観測値からリーフラー時計の誤差をもとめ、その値を報時の時刻まで外挿し、発信時計に合わせて行われた。また、梅雨時などに観測が連続してできない場合は、外国報時を参考にした。当時は、戦争による物資の不足や装置の劣化の影響により、無線報時の精度が劣化しており、国際報時局(BIH、現IERS)の報告に JJC の修正値が0.1秒を超えなければ良い方であった[73]。
標準電波による標準時の通報
[編集]振り子時計から水晶時計へ
[編集]- 1951年(昭和26年)
- 1952年(昭和27年)
- 8月1日
- 当年内
- 1953年(昭和28年)
- 東京天文台で水晶時計が本格的に稼働を始める。従来のテープクロノグラフに代わる各種高精度時計比較装置が研究され、実用化される[85]。
- 1954年(昭和29年)1月
- 1955年(昭和30年)
時刻、時間、周波数(時間の逆数)の乖離
[編集]原子的標準に基づく周波数と時間
[編集]- 1960年(昭和35年)
- 1961年(昭和36年)9月1日
- 1962年(昭和37年)4月25日
- 1964年(昭和39年)
- 6月1日
- 郵政省告示により、標準電波を国際無線通信諮問委員会(CCIR)勧告方式に全面改訂。標準電波により通報される標準時の確度は中央標準時に対し0.1 秒以内となる[74]。
- 9月
- 第12回国際天文学連合 (IAU) 総会で、世界時 (UT2) と±0.1秒以内で近似するように調整された旧協定世界時の採用を決議した[99]。
- 6月1日
- 1967年(昭和42年)
- 1968年(昭和43年)
- 1969年(昭和44年)
うるう秒の導入
[編集]- 1970年(昭和45年)
- 1971年(昭和46年)
- 1972年(昭和47年)
- 1973年(昭和48年)
- 1977年(昭和52年)
- 1978年(昭和53年)
- 1980年(昭和55年)
- 1981年(昭和56年)
GPS衛星を用いた国際的な時刻比較のはじまり
[編集]- 1983年(昭和58年)4月
- 東京天文台でGPS衛星を利用した時刻比較方式の定常運用が開始されたことにより[123] [注 3]、東京天文台の原子時計は欧米の原子時計と一億分の一秒の精度で時計比較が可能となった。これによって、ロランCの電波で東京天文台と時計比較しているアジア諸国の原子時計も[128]、1983年(昭和58年)後半から欧米並の精度となり国際原子時の決定に寄与できることになった[129] [130]。なお、これまでは、極東地域のロランC電波は欧米の機関では遠すぎて精度よく受信することができないため、欧米の原子時計とアジア諸国の原子時計とは精度のよい時計比較ができず(典型的な精度比較で、欧米内で 0.05 マイクロ秒であるのに対し、アジアと欧米の間では、0.2 マイクロ秒)、東京天文台の原子時計はパリの国際報時局(BIH、現IERS)が決めていた国際原子時を形成する平均の母集団に参加できていなかった[131]。
- 1984年(昭和59年)
- 1月
- 2月
- 1987年(昭和62年)
- 計量研究所 (NRLM) でGPS衛星を用いた時刻比較の試験を実施[134]
- 1988年(昭和63年)
- 1989年(昭和64年/平成元年)
国際比較の中心は天文台から研究所へ
[編集]- 1992年(平成4年)
- 5月20日
- 当年内
- 1993年(平成5年)
- 1994年(平成6年)
- 1999年(平成11年)7月
- 2000年(平成12年)5月
- 2001年(平成13年)
- 工業技術院計量研究所 (NRLM) が産業技術総合研究所計量標準総合センター (NMIJ) に改組した[159][160]。
- 国際度量衡局 (BIPM) が組織する国際的な時刻比較で、アジア・オセアニア諸国(イスラエル、インドを除く)の時刻比較は通信総合研究所 (CRL) を経由して、PTB-CRL(PTB:ドイツの国立物理工学研究所)、USNO/NPL(NPL:イギリス国立物理学研究所)、NIST/PTB で長距離の時刻比較する構成となる。USNO/NPL、NIST/PTB、NPL/PTB など一部の研究所間で衛星双方向時刻周波数比較 (TWSTFT) を利用、CRL-NIMT(NIMT:タイ国家計量標準機関)でマルチチャネルGPSコモンビュー時刻比較を利用[161][154]。
- 2002年(平成14年)
- 2003年(平成15年)
インターネットによる標準時の配信
[編集]- 1992年(平成4年)
- 1994年(平成6年)春
- 1995年(平成7年)8月31日
- 通信総合研究所が、インターネットによる標準時の供給に関し、(株)インターネットイニシアティブと共同研究開始[74]。
- 1996年(平成8年)
- 2001年(平成13年)
- 2004年(平成16年)4月1日
- 2005年(平成17年)2月8日
- NICTが日本標準時を利用したNTP本格サービス提供開始[74]。
- 2006年(平成18年)6月12日
- NICTが世界最高性能のインターネット用時刻同期サーバによる日本標準時の配信開始[74]。
光格子時計による高精度化と神戸副局の設置
[編集]- 2006年(平成18年)
- 2007年(平成19年)
- 2018年(平成30年)
- 3月15日
- 世界最高精度の時刻との誤差12億分の1秒以下(0.79ナノ秒)、現行のJJYより一桁高い精度を実現したストロンチウム光格子時計を開発[179]。
- 6月10日
- 11月末
- 世界で2例目となるストロンチウム光格子時計を用いたUTC歩度校正の二次周波数標準の認定を受ける[181]。
- 12月2日 - 12月12日
- 3月15日
- 2021年(令和3年)
日本標準時の作成
[編集]NICTが運用する小金井局の18台のセシウム原子時計および4台の水素メーザー原子時計の時刻を1日1回平均・合成することによって協定世界時(UTC)を生成し、これを9時間進めたものが日本標準時(JST)となる。加えて週1、2回の頻度で、ストロンチウム光格子時計による標準時の周波数調整、後述する分散局(神戸副局、おおたかどや山送信所、はがね山送信所)の原子時計と人工衛星を仲介した較正を行っている。
なお、この協定世界時(UTC)は、国際度量衡局(BIPM)が決定する協定世界時(UTC)との差が±50ナノ秒以上にならないように決定される[注 8]。このようにして決定された日本標準時(JST)は、標準電波(JJY)やNTPサーバ、電話回線を通じて供給されている。2006年2月7日から、セシウム原子時計に加えて水素メーザー原子時計を使用することなどにより、協定世界時(UTC)との時刻同期精度が±50ナノ秒以内から±10ナノ秒以内に向上した。さらに、セシウム原子時計や水素メーザー原子時計を3系統に分けて相互比較・データ合成を行うことで信頼性の向上ならびに、日本標準時(JJY)の冗長化に寄与している。2021年(令和3年)8月から、週1、2回の頻度で、ストロンチウム光格子時計による標準時の周波数調整を開始した[182]。標準時システムに光格子時計を加えることで、協定世界時(UTC)との時刻同期精度が±20ナノ秒以内から±5ナノ秒以内に向上された、とされる[182]。
神戸副局
[編集]2018年(平成30年)6月10日から、日本標準時の冗長化を目的に神戸市西区の未来ICT研究所内に分散局として神戸副局を設置した。また、おおたかどや山送信所・はがね山送信所の原子時計も分散局として、人工衛星を仲介した3つの分散局データを合成して日本標準時(JST)をバックアップ供給する体制に移行した。神戸副局にはセシウム原子時計(CS)5台と水素メーザー時計2台及び送信所との高精度衛星時刻比較システムなど日本標準時生成に必要な基本機能を備え、小金井本部と並行して、標準時に準じた常時合成原子時(神戸時系)を生成する[180]。
また本部の供給サービスがダウンした場合に備え、小金井本部同様に日本標準時を供給できるようにするほか、NTPサーバー及び光テレホンJJYシステムのバックアップ、標準電波送信所の周波数調整機能を整備しているという。今後は小金井と神戸両局の相互比較・データ合成を行うことで更に精度向上に寄与するほか、神戸副局からも日本標準時が供給できる体制がとれるようになるという[180]。
日本標準時の供給と標準電波
[編集]日本標準時 (JST) を国内外に広く供給するために、NICTは標準電波を発信している。この波により送信されている周波数の標準と標準時の信号は、国家標準であるセシウムビーム型原子周波数標準機や、水素メーザ型、実用セシウムビーム型原子時計群を用いたものよりも高い精度に保たれている。なお、標準電波の発信は電離層の影響を受けにくい長波を使用しているため、24時間の周波数比較平均値では 1×10−11 の精度を得られると発表されている。
1999年6月10日に「おおたかどや山標準電波送信所」(福島県田村市都路町 大鷹鳥谷山)が開局した。しかし、九州沖縄方面では受信しにくい現象が起こるなどで日本全国をカバーできなかったため、2001年10月1日には佐賀県佐賀市富士町の羽金山に「はがね山標準電波送信所」を開局し、これにより日本国内の広い範囲で標準電波が受信ができるようになった。
小金井局・神戸副局で作成した日本標準時の情報は、おおたかどや山送信所・はがね山送信所の原子時計の遠隔監視、時間比較により日本標準時供給の精度維持に活用される。
いわゆる電波時計は、この標準電波を受信し、自動で時刻を合わせる時計である。
NTP
[編集]NICTはインターネット経由で時刻同期を可能とするため、NTPサーバによる時刻情報提供サービスを2006年から提供している。NTPサーバのアドレスはntp.nict.jpである[185]。通常はNTPサーバの処理能力の限界[注 9]を考慮し、原子時計などに直結されたNTPサーバを一般ユーザが直接利用すべきではないとされているが、このサーバはFPGAで構成され、毎秒100万リクエスト以上の処理能力を持ち、日本標準時に直結[注 10]でありながらユビキタス社会を支える時刻同期インフラを目指し、一般ユーザが直接利用することを前提にしたセキュリティ的にも頑健なシステムである[186]。
UTCとJSTの換算
[編集]下記に示されているUTC+9の値を、JSTへ読み替えれば換算できる。
UTC+9 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 | 17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
UTC | 前 15 | 前 16 | 前 17 | 前 18 | 前 19 | 前 20 | 前 21 | 前 22 | 前 23 | 0 | 1 | 2 | 3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 | 10 | 11 | 12 | 13 | 14 |
IANAのTime Zone Database
[編集]IANAのTime Zone Databaseには、日本の標準時が1つ含まれている[187][188]。
国コード | 座標 | 時間帯ID | 注釈 | 協定世界時との差 | 夏時間 | 備考 |
---|---|---|---|---|---|---|
JP | +353916+1394441 | Asia/Tokyo | +09:00 | +09:00 |
日本標準時を変更する動き
[編集]2013年(平成25年)5月22日、猪瀬直樹東京都知事(当時)は、日本標準時を2時間早める(=UTC+11)提案を産業競争力会議にて出した。東京の金融市場の開始を早めることで東京市場の存在感を高めるのが狙いとされている。政府はこの提案を検討するとした[189]。もっとも、その後十年以上、この提案について具体的に話し合われた様子はない。
脚注
[編集]注釈
[編集]- ^ a b JSTに1時間を加えたタイムゾーンを採用する夏時間。
- ^ 新旧協定世界時の調整値 UTC(i)new - UTC(i)old は、電波研究所 (RRL) の場合は -107 620.0 μs, 東京天文台 (TAO) の場合は -107 757.7 μs [111]。
- ^ 1981年に一部の研究所で GPS, Symphonie, OTS などの人工衛星を用いた時刻比較が始まり[124] [125]、1982年に東京天文台 (TAO) はGPS衛星を経由してアメリカ国立標準局 (NBS) 及びアメリカ海軍天文台 (USNO) と実験的に時計比較した[126] [127]。
- ^ a b c 国際度量衡局が原子時の比較で用いる研究所の略称は、旧緯度観測所 (ILOM) の国立天文台水沢は NAOM となったが、旧東京天文台の国立天文台三鷹は1991年まで引き続き TAO を用いた[137] [139]。
- ^ a b c d 1988年から数年間は、国際原子時 (TAI) に寄与する国立天文台三鷹 (TAO) の原子時計の台数および重みの合計はアジア諸国の研究所で最上位であった[143]。1991年から TAI に寄与する通信総合研究所 (CRL) の原子時計の台数および重みの合計が増加し、重みの合計がアジア・オセアニア諸国の研究所では最上位となった[144][145]
- ^ 国際度量衡局が原子時の比較で用いる用いる研究所の略称は、旧東京天文台の国立天文台三鷹は1991年まで引き続き TAO を用いていたが1992年から NAOT となった[139]。
- ^ 国際度量衡局が原子時の比較で用いる用いる研究所の略称は、これまで国立天文台水沢は NAOM であったが[137]、1997年から NAO となった[170]。
- ^ 協定世界時(UTC)や国際原子時(TAI)の生成に寄与する原子時計を運用する国内の機関は、情報通信研究機構(NICT)の他に国立天文台(NAO)と産業技術総合研究所計量標準総合センター(NMIJ)がある[183] [184]。
- ^ 毎秒5000リクエスト程度が限界[186]である。
- ^ サーバの時刻精度は10ナノ秒以内[186]。
出典
[編集]- ^ 今村國康「巻頭インタビュー - 100万年に誤差1秒、超高精度の「時」を刻むICT社会の新たな価値感で、世界最高水準の「日本標準時」を発信」(html)『NICT NEWS』2009年10月号 No.385、情報通信研究機構、東京都小金井市、2009年10月、2頁、ISSN 2187-4042、2013年12月29日閲覧。§3
- ^ a b 情報通信研究機構 2005a, p. 2, §2.
- ^ a b 平成11年郵政省告示第382号 1999, 五.
- ^ 情報通信研究機構 2005a, p. 2, §3.
- ^ a b 情報通信研究機構 2005a, p. 3, §1.
- ^ 齊藤春夫「日本標準時とタイムビジネス」(html)『NICT NEWS』2004年11月号 No.344、情報通信研究機構、東京都小金井市、2004年11月、3頁、ISSN 2187-4042、2013年12月29日閲覧。§3
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関連項目
[編集]- 日本標準時子午線
- 本初子午線
- 人丸前駅(山陽電気鉄道) - 日本で唯一、駅構内が日本標準時子午線を横切る配置(形状)になっている。
- 日本へそ公園駅
- JJY
- UTC+9
- 韓国標準時
- 台湾標準時
- 小金井市 - 日本標準時を生成・供給するための原子時計が設置されている情報通信研究機構(NICT)の所在地
- 奥州市 - 中央標準時を決定し、現実の信号として示す(現示する)ための原子時計が設置されている国立天文台水沢VLBI観測所の所在地
外部リンク
[編集]- 情報通信研究機構
- 自然科学研究機構 - 国立天文台
- 国立公文書館
- 「御署名原本・明治十九年・勅令第五十一号・本初子午線経度計算方及標準時ヲ定ム」 アジア歴史資料センター Ref.A03020005500
- 「御署名原本・明治二十八年・勅令第百六十七号・標準時ニ関スル件」 アジア歴史資料センター Ref.A03020211600
- 「御署名原本・昭和十二年・勅令第五二九号・明治二十八年勅令第百六十七号(標準時ニ関スル件)中改正」 アジア歴史資料センター Ref.A03022132100