NHK受信料訴訟

最高裁判所判例
事件名 受信契約締結承諾等請求事件
事件番号 平成26(オ)1130
2017年(平成29年)12月6日
判例集 民集第71巻10号1817頁
裁判要旨
1 放送法64条1項は,日本放送協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者に対しその放送の受信についての契約の締結を強制する旨を定めた規定であり,日本放送協会からの上記契約の申込みに対して上記の者が承諾をしない場合には,日本放送協会がその者に対して承諾の意思表示を命ずる判決を求め,その判決の確定によって上記契約が成立する。
2 放送法64条1項は,同法に定められた日本放送協会の目的にかなう適正・公平な受信料徴収のために必要な内容の,日本放送協会の放送の受信についての契約の締結を強制する旨を定めたものとして,憲法13条,21条,29条に違反しない。
3 日本放送協会の放送の受信についての契約を締結した者は受信設備の設置の月から定められた受信料を支払わなければならない旨の条項を含む上記契約の申込みに対する承諾の意思表示を命ずる判決の確定により同契約が成立した場合,同契約に基づき,受信設備の設置の月以降の分の受信料債権が発生する。
4 日本放送協会の放送の受信についての契約に基づき発生する,受信設備の設置の月以降の分の受信料債権(上記契約成立後に履行期が到来するものを除く。)の消滅時効は,上記契約成立時から進行する。
大法廷
裁判長 寺田逸郎
陪席裁判官 岡部喜代子小貫芳信鬼丸かおる木内道祥山本庸幸山崎敏充池上政幸大谷直人小池裕木澤克之菅野博之山口厚戸倉三郎林景一
意見
多数意見 寺田逸郎、岡部喜代子、小貫芳信、鬼丸かおる、山本庸幸、山崎敏充、池上政幸、大谷直人、小池裕、木澤克之、菅野博之、山口厚、戸倉三郎、林景一
反対意見 木内道祥
参照法条
放送法1条,放送法第3章 日本放送協会,放送法64条1項、民法414条2項ただし書,民事執行法174条1項本文、憲法13条,憲法21条,憲法29条、民法166条1項
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NHK受信料訴訟(NHKじゅしんりょうそしょう)とは、NHK受信料を巡る訴訟[1][2][3][4][5]

概要

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東京都の男性は2006年3月22日以降自宅にテレビを設置しており、NHK2011年9月21日到達の書面により受信契約の申し込みをしたが、男性は拒否した[6]。そこでNHKは主位的請求として「受信設備を設置した者はNHKと受信契約しなければならない」と規定した放送法第64条第1項により2006年4月分から2014年1月分までの受信料として合計21万5640円の支払いを求め、予備的請求1として受信料と同額の損害賠償を、予備的請求2として男性には放送法の規定に基づく受信契約承諾義務があるとして承諾の意思表示とそれに伴い成立する受信契約に基づく受信料の支払いを、予備的請求3として男性が受信契約を締結しないことで得る不当利得の返還を求めて出訴した[6]。一方で男性は放送法第64条第1項は訓示規定であり、受信設備設置者に受信契約締結を強制するものではなく、仮に受信契約締結を強制する規定であるとすれば受信契約設置者の契約の自由や知る権利や財産権を侵害し、日本国憲法第13条第21条第29条に違反すると主張した[6]

2013年10月10日東京地裁は申込書が届いた時点では契約が成立しないとして主位的請求及び予備的請求1を棄却し、放送法の規定は「テレビ設置者に放送費用を分担させるものだ」として予備的請求2を許容して男性に約20万円の支払いを命じる判決を言い渡した(予備的請求3については判断せず)[6][7]2014年4月23日東京高裁は一審判決を支持し[6][7]、これに対し男性が上告および上告受理申し立て、NHKが上告受理申し立てをそれぞれ行った[6]。なお、2017年4月12日法務大臣権限法第4条に基づき、法務大臣は放送法第64条第1項が合憲であるとする意見書を最高裁判所に提出した[6]

2017年12月6日最高裁判所大法廷は放送法第64条第1項の規定がテレビの設置者に契約を強制するものだとし、NHK受信料制度は「憲法の保障する表現の自由や国民の知る権利を具体化するという放送法の目的にかなう合理的な仕組みで、契約の強制も許される」とした[8]。一方で、契約を拒む受信者との間に契約を成立させるには、NHKが契約を求める訴訟を起こし、勝訴判決の確定が必要との判断も示した[8]

木内道祥裁判官は「確定判決で契約は成立しない」とする反対意見を述べた[8]岡部喜代子裁判官は「緊急時などの必要な時にNHKを視聴でき、公平負担の趣旨からも受信設備設置者に契約を求めることは合理的」とする補足意見を、鬼丸かおる裁判官は「締結強制は契約締結の自由という私法の大原則の例外。受信契約の内容も法定されるのが望ましい。」とする補足意見を、小池裕菅野博之裁判官は「受信設備を廃止したとしても、過去の設置から廃止までの期間の受信契約締結を強制できる」とする共同補足意見をそれぞれ述べた[要出典]

脚注

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  1. ^ 上田健介, 尾形健 & 片桐直人 (2020), p. 88.
  2. ^ 「法相が最高裁に意見書…NHK受信料訴訟」『読売新聞読売新聞社、2017年4月12日。
  3. ^ 「NHK受信料訴訟、支払い務づけは合憲 法相が意見書」『朝日新聞朝日新聞社、2017年4月12日。
  4. ^ 「NHK受信料訴訟、法相が「合憲」意見書 最高裁に」『日本経済新聞日本経済新聞社、2017年4月12日。
  5. ^ 「法相が最高裁に意見書…NHK受信料訴訟」『毎日新聞毎日新聞社、2017年4月12日。
  6. ^ a b c d e f g 長谷部恭男, 石川健治 & 宍戸常寿 (2019), p. 167.
  7. ^ a b 「NHK受信料訴訟 最高裁が初判断へ 一、二審は支払い命令」『東京新聞中日新聞東京本社、2016年11月3日。
  8. ^ a b c 「NHK受信料合憲 最高裁 テレビ設置時から義務」『東京新聞』中日新聞東京本社、2017年12月7日。

参考文献

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  • 長谷部恭男石川健治宍戸常寿 編『憲法判例百選I』(第7版)有斐閣〈別冊ジュリスト ; No.245〉、2019年11月29日。ASIN 4641115451ISBN 978-4-641-11545-3NCID BB29262076OCLC 1130124702 
  • 上田健介、尾形健、片桐直人『憲法判例50!』(第2版)有斐閣〈START UP〉、2020年3月21日。ASIN 4641227861ISBN 978-4-641-22786-6NCID BB29904377OCLC 1158037178国立国会図書館書誌ID:030274098 

関連項目

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