萌えおこし

萌えおこし(もえおこし)は、美少女キャラクターを前面に押し出した地域おこしの手法[1]萌え起こし、あるいは萌え興しと表記される場合もある。

概要

[編集]
ご当地萌えキャラクター、原付萌奈美と姉妹キャラクターの等身大パネル

2000年代の半ばから漫画テレビアニメの舞台となった地域をその作品のファンが巡礼する現象が見られると共に、その経済効果が宣伝されるようになった[2]。特に、美水かがみ4コマ漫画を原作とするテレビアニメ『らき☆すた』の大ヒットに伴う埼玉県北葛飾郡鷲宮町(現在の久喜市鷲宮)への巡礼に着目した地元商工会主導の様々な企画は作品のファンと地元住民の双方に受け入れられ、鷲宮神社初詣参拝者数が急増したことなど顕著な経済効果が報告されている[3]

これに対し、企画段階では特に萌えが意識されたわけではなかったものの、自治体などのマスコットインターネット上のコミュニティで人気が出てキャラクター商品が作られる現象も見られる。代表的な例としては、1997年創作[4]佐賀県佐賀郡大和町の職員がデザインした「まほろちゃん」が挙げられ、大和町が2005年に周辺の町村と共に佐賀市と合併して以降は佐賀市のキッズページで引き続き起用されている[5]。また、2009年3月に肥前国庁跡資料館でオリジナルのしおりを配布したところ関東地方からもファンが訪れ、前年の同月比3倍の来館者を記録した[6]

また、前記の『らき☆すた』や「まほろちゃん」と異なり、自治体が意図的に萌えキャラクターとしてマスコットを製作した例として、栃木県足利市の「あしかがひめたま」等が上げられる。

これらの経済効果に関する報告が相次いだ結果、近年では企画段階から萌えを全面に押し出しつつその地域の特産品や観光名所・行事などに由来する特徴を織り込んだキャラクターデザインやイベントも見られるようになっている。代表例としてはNHKクローズアップ現代』の2009年12月2日放送分でも特集された伝統行事・西馬音内盆踊りを題材に2006年よりイラストを公募している「かがり美少女イラストコンテスト」に端を発する秋田県雄勝郡羽後町の事例が挙げられる[7]

派生形(女性向けマーケティング)

[編集]

主に男性を対象としたマーケティング手法であった萌えおこしの成功事例を受けて、女性向けに美男子(美少年)のキャラクターを前面に押し出すマーケティング手法も登場している。かも有機米(新潟県加茂市)が「歴女」人気を当て込んで2009年に発売した「〜愛の米〜 新潟県産こしひかり」は『戦国BASARA2』の漫画化などで知られる同県出身の漫画家久織ちまきのイラストで同年のNHK大河ドラマ天地人』の主人公である戦国武将・直江兼続を描いたところ、好調な売上を記録したが購入者の大半は当初の予想とは異なり首都圏の男性が中心であったとされる[8]

また、2010年3月に茨城県水戸市で開催された「コミケットスペシャルin水戸」では、イベント開催に合わせて地元企業より「純愛つくば 〜愛のスイーツ〜」(亀じるし)[9]や「黄門ろまんクッキー」(きね八)[10]に代表される美男子キャラクターを起用した商品も発売された。

2021年、北海道函館市が観光プロモーションの一貫として同市にゆかりのある歴史偉人を美男子キャラクター化し、2次元アイドルユニットとした「HAKOMEN」をデビューさせた[11]。同ユニットは新型コロナウイルス感染症で落ち込む同市の観光産業を支え続け、感染症が5類になったことを契機に2024年3月1日に活動を終わらせた[12]

課題

[編集]
キャラクターデザインの課題

世間一般の美少女、美男子(美少年)コンテンツに対する偏見は根強く、クリエイター側も広く公開される意識が薄い。両者の認識のズレが反発を招き失敗につながるケースがある。批判の大半は「性表現の問題」だとしている。代表例として2015年の三重県志摩市の公認を取り消された碧志摩メグ、2017年の鉄道むすめの駅乃みちか(東京メトロ)のデザイン修正などが挙げられる[13]

佐倉智美によると、「碧志摩メグ」の場合は『ボーイフレンド募集中』とのキャラクター設定も異性愛規範を強化すると批判されたという。このことを受けて前之園和喜は(美少女キャラクターの広告採用は)性的な見た目以外にも批判される要素があり、それらを避けなければ炎上しかねないとする[14]

中村泰之は、興味がない人に対して誤解を招かないようなキャラクターデザインが求められるが、2019年現在、一般に公開しても問題が起きにくいキャラクターデザイン手法の研究は少ないとする[13]

2021年には温泉むすめのキャラクターデザインが性的だとインターネット上で炎上してしまう[15]

企画運営元の課題

基本的に地元有志や中小企業が企画運営を行っているため、優れたデザイン制作や広報が難しい課題がある[16]

年表

[編集]
  • 1997年 - まほろちゃん創作
  • 2004年1月 - びんちょうタン指定
  • 2005年 - やまじシスターズ誕生
  • 2007年2月 - からす天狗うじゅ発表
  • 2009年
    • 1月 - 知多みるく(知多娘)誕生
    • 5月1日 - 萌えっ子フリーきっぷ(沿岸バス)発売
    • 5月(日付不詳) - 了法寺(東京都八王子市)萌えキャライラスト看板設置
    • 月日不詳 - 立川魔法都市化ぷろじぇくと発表
  • 2010年
    • 7月1日 - あしかがひめたま発表
    • 7月28日 - じゅれみっくす誕生
    • 11月19日 - リトルベリーズ発表
  • 2011年
    • 2月13日 - 文化の妖精ぽぷかる発表
    • 8月28日 - 小峰シロ発表
    • 10月27日 - 東北ずん子提供開始
  • 2012年
    • 2月23日 - 桜織発表
    • 2月24日 - あみたん娘発表
    • 6月5日 - 諏訪姫指定
    • 8月 - 壬生三姉妹発表
  • 2013年7月5日 - 京町セイカ発表
  • 2014年 - 高捷少女(台湾高雄市)登場
  • 2015年
    • 日付不詳 - 碧志摩メグ炎上
    • 3月3日 - 清水みぽん発表
  • 2016年2月 - 府城少女(台湾台南市)発表
  • 2017年
    • 日付不詳 - 鉄道むすめ・駅乃みちか炎上
    • 5月20日 - 原付萌奈美ご当地キャラクター活動開始
  • 2021年
    • 月日不詳 - 温泉むすめ炎上
    • 月日不詳 - HAKOMEN発表
  • 2024年3月1日 - HAKOMEN活動終了

萌えおこしの一覧

[編集]

ここではオリジナルキャラクターの事例を中心に挙げる。漫画・アニメ等の舞台となった地域については聖地と呼ばれる代表地の例を参照。なお、企画段階では特に萌えが意識されていた訳ではなく、結果的に「萌えおこし」として受容された事例も含むが、特に区別は設けない。

一覧の表記は、商品名または名前「備考」(運営団体または店舗名/種類)とし(表記がない項目は不明)、項目があるキャラクターや研究論文等で記述があるもののみ列挙する。

北海道
東北
関東
甲信越
東海
関西
中国
海外

脚注

[編集]
  1. ^ もり・ひろし (2009年1月30日). “「萌えおこし」とは何?”. 日本経済新聞社. 2013年8月21日閲覧。
  2. ^ “萌え”おこしで地方活況…経済効果なんと900億円夕刊フジ、2008年12月20日)
  3. ^ [鷲宮神社]“アニメ聖地”の初詣参拝客数は47万人 5年連続増ならずも人気定着マイナビ、2012年1月6日)
  4. ^ 下村修 "自治体非公認キャラクターの研究" 21世紀WAKAYAMAVol.108 和歌山社会経済研究所 2024年 pp.27-28
  5. ^ 佐賀市:キッズステーション
  6. ^ キャラ「まほろちゃん」効果、資料館入場者3倍に佐賀新聞、2009年5月7日)
  7. ^ 秋田・羽後町で「かがり美少女イラストコンテスト」-地元作家が講演も(秋田経済新聞、2010年7月8日)
  8. ^ 愛の米?「直江兼続こしひかり」が売れている日経トレンディネット、2009年7月13日)
  9. ^ 純愛つくば 〜愛のスイーツ〜(亀じるし)
  10. ^ 広江礼威×平野耕太の異色すぎる水戸黄門も、「コみケッとスペシャル5 in 水戸」のコラボグッズ紹介Gigazine、2010年3月21日)
  11. ^ "函館「HAKOMEN」観光発信" 日本経済新聞 2021年10月5日更新 2025年1月4日閲覧
  12. ^ "「ハコメン」3月活動終了 函館の偉人アイドル 観光回復で役目終え" 北海道新聞 2024年2月2日20:24更新 2025年1月4日閲覧
  13. ^ a b 中村泰之 "「ご当地萌えキャラ」デザインの調査と分析1" 日本デザイン学会第66回春季研究発表大会 日本デザイン学会 2019年 p.118
  14. ^ 前之園和喜 "美少女キャラ/萌えキャラ炎上を再考する" 女性学Vol.30 日本女性学会 2023年
  15. ^ 中村泰之 "「ご当地萌えキャラ」デザインの調査と分析4" 日本デザイン学会第71回研究発表大会日本デザイン学会 2024年 p.194
  16. ^ a b c d 中村泰之 "「ご当地萌えキャラ」デザインの調査と分析1" 日本デザイン学会第66回春季研究発表大会 日本デザイン学会 2019年 p.119
  17. ^ 【焼津うめぇもん市場】 焼津でとれたマグロやカツオ、特産品の紹介・直販サイト”. 焼津商工会議所 (2013年5月28日). 2013年5月28日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年5月28日閲覧。
  18. ^ 【あみたん娘(たかおか観光戦略ネットワーク「TR@P」実行委員会】”. たかおか観光戦略ネットワーク「TR@P」実行委員会 (2014年1月5日). 2014年1月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2014年1月5日閲覧。
  19. ^ 元はアルケミストの企業キャラクターであったが、同社の売り込みに森林組合が応じる形でマスコットに採用された。
  20. ^ (繁体字中国語)府城少女前進京都動漫節 2018年9月21日 臺灣時報

参考文献

[編集]

関連項目

[編集]

外部リンク

[編集]