貴腐

セミヨンの貴腐果。ソーテルヌ地方。

貴腐(きふ)とは、白ワイン用品種ブドウにおいて、果皮がボトリティス・シネレアBotrytis cinerea[* 1])というカビ)(灰色かび病も参照)に感染することによって糖度が高まり、芳香を帯びる現象である。 貴腐化したブドウを「貴腐ブドウ(きふぶどう)」と呼び、それを用いて造られた極甘口のワインが「貴腐ワイン」と称される。これらはフォアグラと伴に、あるいはデザートワインや食前酒として飲まれる。ハンガリーエッセンシアが、全ての原料を貴腐ブドウによるものとして唯一のものである。

「貴腐」とは、貴腐ブドウの腐敗したかに見える外見からは想像しがたい芳香と風味のワインが得られることからそのように呼ばれるものである。ドイツ語ではエーデルフォイレ (Edelfäule) 、ハンガリー語ネメシ ロトゥハダーシュ(nemesrothadás)、フランス語プリテュール ノブル (pourriture noble)と言い、いずれも「高貴なる腐敗」を意味し、日本語の「貴腐」はその直訳である。

貴腐果のでき方

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ボトリティス菌は世界中に分布し、果樹野菜類、豆類花卉など様々な植物の重要な病原菌である。この菌による病気は灰色かび病と名づけられているものが多い。ブドウでも、生食用、醸造用ともに重要な病原菌であり、被害も大きい。

ところが、セミヨンリースリングなど白ワイン用品種の成熟した果粒にこの菌が単独感染した場合には好影響をもたらすことがある。感染した菌が果皮のクチクラ層のワックスを溶かすことで果汁中の水分が蒸発し、その結果、外観はカビに包まれている上に干しブドウの様なしなびた状態であるが、内部の果汁は飴色で粘度が高く、糖度もBrix30~60ほどになる。さらに、菌の代謝により、果実は貴腐香と呼ばれる独特の香りを持つようになる。この果実を「貴腐果」「貴腐ブドウ」と呼ぶ。

歴史

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トカイ・エッセンシア

1650年頃、ハンガリートカイ地方で、オスマン帝国による侵略の影響でブドウの収穫が遅れたために偶然造られたトカイワインが世界最初の貴腐ワインであるとされる。ドイツでは1775年にシュロス・ヨハネスブルク (en) で収穫許可が遅れたためにブドウが貴腐化し、偶然できあがった貴腐ワインが有名である。

ルイ14世は贈られたトカイ産貴腐ワインを「ワインの王にして王のワイン」と絶賛したと伝えられている。1779年には、オーストリアマリア・テレジア女王(マリー・アントワネットの母)が、黄金色に輝く貴腐ワインに金が含まれているのではないかと思いウィーン大学で分析させたとの逸話も残っている。

日本でもサントリー山梨県の自社ワイナリー1975年に貴腐ワインの生産に成功して以降、長野県北海道などでも貴腐ワインが造られている。

脚注

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注釈

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  1. ^ Botrytis cinerea は不完全世代の学名で、子嚢菌門チャワンタケ亜門Pezizomycotinaに属する糸状菌で、その完全世代はBotryotinia fuckeliana である[1]

出典

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  1. ^ 柘植 (2004)、pp.189-199

参考文献

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  • 柘植尚志 著「IV.発生生態 6.菌類病の発生生態 (1)空気伝染病の発生生態」、奥田誠一ほか編 編『最新植物病理学』朝倉書店、2004年、94-103頁。ISBN 978-4-254-42028-9 

関連項目

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